第17話「胸は見ないで尻を見た」
とんとんとん!
扉を叩く、リズミカルなノックの音が響いて来る。
俺の身体は反応した。
だが、睡魔は俺を夢の世界へ引き戻そうとする。
うう、まだ寝かせてくれよぉ!
俺は、心の中で念じながら寝返りを打った。
ノックは、再び鳴り響く。
と同時に明るい美声が。
「ケン様ぁ、おはようございまあす! もう6時ですよぉ~、起きて下さぁ~い。私待ちきれなくなって、1時間早く起こしに来ちゃいましたぁ」
ん? 俺を起こそうとする、この爽やかな声は女子? 一体、誰だ?
でもさ、俺を起こしてくれる特別な『彼女』なんか居ない筈なんだ。
今までに親しくなった女子とデートくらいはしたけれど……
残念ながら、そのまま自然消滅。
付き合うまでには到らなかったからね。
それに俺は、都会を出て故郷の田舎へ引っ越したはず。
子供の頃に住んでいたきりで、こっちにはもう知り合いなんか居ない。
特に、若い女子の知り合いなんて絶対に居ない……筈。
それに何? 朝の6時だって?
じょ、冗談じゃないよぉ……
まだまだ起きるのには、全然早い時間だろ?
俺はもう、学校を卒業したから授業はないもん。
それに今は、春休み真っ只中じゃないか!
こっちでの仕事は、これから役所が紹介してくれるって言うし、
就職するまで、唯一やすらぎのひとときだ。
だから、まだまだ寝れる筈!
いや、寝かせておいてくれよぉ!
眠くて、全然目が開かない俺は、つらつらとそんな事を考える。
「お~い、村の人は皆もうとっくに起きていますよぉ! だ・か・らぁ、起きましょうよぉ! ケン様ぁ、はやくぅ」
誰だろう、この甘く可愛い声は?
むむ……聞き覚えがあるぞ。
目が開かず、寝惚けていた俺は、やっと昨日の事を思い出した。
あ、ああ、そうだ。
外で叫んでいる声に聞き覚えがある。
そうだ! あの子はリゼットだ。
おお、そうだ……やっと思い出した。
俺……わけわかめで、いつの間にか死んで転生したんだ……
良くあるラノベみたいに。
この中世西洋風異世界へ。
昨日は……考えてみれば、目まぐるしい1日だった。
いきなり理不尽に転生させられて、究極のレベル99にされ、
この世界へ連れてこられて……
ゴブどもに追われたリゼットを救い、住んでいるボヌール村へ彼女を送って……
そして昨夜は……西の森で、あの悪逆非道&変態チックな人狼ライカンと、
その一味を倒したんだっけ。
そう、俺はナルが相当入った鬼畜人狼とその配下を倒した後に、
西の森から直接、転移魔法でさくっと、ボヌール村へ戻って来た。
倒してから、葬送魔法で塵にした後で……
「そういえば、奴らは魔王軍だったよな」って気が付いた。
「ハーレム云々を知りたい」というスケベ心もあった。
だが、こんな田舎へ、魔王軍が来た本当の目的とか、もろもろを、
「尋問すれば良かった」とも思ったが後の祭り……
禍々しい漆黒の『魔王の手下仕様』を魔法の収納箱に仕舞い、
変身を解いた俺は、何事もなかったかのように寝入ったのだ。
どんどんどん! どんどんどん! どんどんどん!
突然、ノックの音が激しくなる。
「もう! 早く起きて開けてくれないと、合鍵、使っちゃいますよぉ!」
ちょっとだけ、「いらっ」としたリゼットの波動が俺に叩きつけられた。
え!? あ、合鍵!?
どこかの『エネ夫』が、隠れてこっそり自分のママへ渡すとかじゃないんだから。
リゼット、そんな物を持っているのか。
う~む、結構、強引な性格だなぁ……仕方無い、起きるか。
俺は、思い切り、のびをした。
起きがけの、いつもの癖である。
起きようと、徐々に目を開けて行く。
すると……
『く~く~』
はぁっ!? 何じゃぁ!!!
「わわっ!」
傍に気配を感じて、俺は、思わず叫んでしまう。
そう! すぐ横で気持ち良さそうに寝ていたのは……殆ど半裸のクッカであった。
昨日の服のままで寝ているクッカの、ああ、開いた胸元から!
もう少しで、おおお、おっぱいがこぼれそうだっ!!!
うおっ! あ、足も、がばっと開いている……
寝乱れた、真っ白な太ももが眩しい!
あれ? 「ぺろん」と見えてる、あれってお尻?
お、お尻だよ!! 間違いなく!!
ま、丸見えじゃん!?
うっわ! ある筈のパンツがないよ!
こ、 この子!! パ、パンツ穿いてねぇし!!
「お、おいっ!」
大いに焦った俺は、思わず手を伸ばし、眠っているクッカを起こそうとした。
しかし、あっさりと俺の手は、クッカをすり抜けてしまう。
ああ、そうか!
この世界のクッカは、実体が存在しない幻影だった。
それも、俺にしか見えないんだっけ。
と、その時。
がちゃり……開錠する音がした。
うお! リゼットが合鍵を使ったんだ!
「ケン様ああ! 開けますよぉ! もう起きて下さいっ! お寝坊さんなんだからっ」
ばん!
いきなり扉が開き、小柄な影が飛び込んで来る。
「ケン様ぁ! あ・さ・ですよぉ!」
「うわ! おおお、お早う!」
ベッドの傍らに、腕組みをして立ったリゼット。
「にこにこ」している。
クッカは相変わらず隣で寝ているが、やはりリゼットには見えないようだ。
もし俺の脇で寝ている半裸の女子が、もしリゼットに見えたら……
絶対に、ただでは済まないだろう。
だが……俺にしか見えない幻影のクッカが見える筈もなく、
とりあえずこの場は平和だ。
窓から眩しい朝陽が射し込んで、笑顔のリゼットを照らしている。
それがまた、爽やか健康系美少女にはとっても絵になるのだ。
ついつい、ぼうっと見つめる俺を見て、リゼットは可愛く首を傾げる。
「うふふ、どうしたのですか?」
おお! やっぱりリゼット超可愛い!
たまらん!
「い、いや! リゼットって、いつもすっごく可愛いなって」
「え?」
俺の言葉を聞いた後、一瞬の間を置いて真っ赤になったリゼット。
そして、思いっきり俺に抱きついて来た。
「うふふふっ、ケン様ぁ! 凄く嬉しいっ!」
反射的に俺は、「くんくん」とリゼットの匂いを嗅ぐ。
爽やか美少女の甘い匂い。
これは……夢じゃない。
リアルな現実なんだ。
「ははは……朝から幸せだなぁ」
満足感にあふれ、小さく呟く俺。
その言葉を聞いたリゼットは、現実に引き戻されたようである。
「あ! こんなことをしてちゃ、ダメ! 早く広場へ行かなきゃ! ケン様、すぐ支度してっ! お父さんが村の人に紹介しますって! 皆さん、待っていますから!」
おお、そりゃいけない、すぐに起きて支度しましょう。
俺はリゼットを抱いたまま、身体を起こした。
うん! 横で「ぐうぐう」眠りこけているクッカは、とりあえず……放置しよう。
起床した俺は、速攻で支度。
リゼットと手を繋ぎ、共に『自宅』を出たのである。
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