第15話「ふるさとを守る男」
索敵――魔力感知で、野生の熊が正体不明の何者かに一撃で殺された事を察知。
犯人が正体不明なのを、気になった俺とクッカは、
「熊一撃殺害の現場」へ向かう。
ちなみに俺は、音も無く走っていた。
クッカに教えて貰った『浮上魔法』というもので、
正確に言えば地上に足を着かず、地上からわずか上に浮かび、
滑るように移動している。
これは、飛翔魔法の派生技であり、身体を浮き上がらせる魔法で、
そのまま、前後左右上下へ低速&高速移動する事も可能だ。
前世のイメージならば、超が付く高性能ホバークラフト……かな。
と、言う事で、地面に足をつけていないから、当然、足音も立てていない。
飛翔までする必要が無い時、
または、このように地上を高速移動する際には重宝しそう。
それはそうと、果たしてこれから遭遇する相手とは?
大型肉食獣の熊をあっさり倒すなんて一体、何者だろうか?
クッカが、『敵』の居る場所が近い事を教えてくれる。
『ケン様、まもなく、アンノウンへ接触します』
俺は既に『気配消去』――隠身のスキルを発動している。
余程の相手じゃなければ気取られる事はないが、慎重を期すに越した事はない。
……やがて現場へ到着し、俺と幻影のクッカは、木陰に潜み、
そっと相手を眺めた。
目指す相手は……そこに居た。
あれ? 外見は一応人間だ。
リーダーらしき奴は、「パッ」と見た限りでは、年齢30代半ばくらいの男である。
もしかしたら、もっと若いかもしれないが、
髭ぼうぼうの毛むくじゃらで少々老けて見えた。
そして奴に付き従う、同じような逞しいふたりの男……
こちらは、もう少し若くて20代半ばだろうか?
都合3人の男達が、倒した熊を前に勝利の凱歌をあげていた。
俺が見て驚いたのは、奴等の体格だ。
やたら「でっけぇ」のだ!
全員、身長は2m前後ある。
更に凄いのが、鍛え抜かれた身体である。
特に腕と足は、ふしくれだった丸太のようで、全身が筋肉ムッキムキなのだ。
服装にも驚いた。
というか、おいおいと呆れてしまった。
何故ならば、上半身は、見事に丸裸。
下半身は、腰ミノのみを着用している。
おいおいおい、お前らは、原始人か!
と、突っ込みたくなる男達は、熊を倒した自分達の力に酔っているようだ。
「おっほう! 俺の拳は凄い! やはり獣の熊など一撃だぁ! 俺は強い! 俺は美しい! お前達、見よ、この素晴らしい肉体を!」
「はい! さすが、魔王軍ナンバー4のライカン様! あんな、のろまな熊など我々人狼族の敵ではありません」
「その通り! 我々は無敵です」
え!? えええ!? ま、魔王軍?
そのナンバー4!?
……って人狼なんだ!
でも、どうして魔王軍幹部が、
こんな人間もまばらな僻地に居るんだよ?
でも人狼という事は、こいつらって、やっぱ魔物だ。
今は人間に擬態しているってわけか。
補足しよう。
人狼とは、獣人の一種。
ライカンスロープとも言う。
狼あるいは狼と人間が半々の姿に変身、
または狼に憑依されたりする人間として表される。
パワー、敏捷性、持久力、攻撃力等々で、
人間を遥かに超える能力を持つ人外として怖れられる。
って、人狼だから、ライカンって名前かよ?
安直過ぎないか?
さてさて!
話を戻すと、俺の訝し気な視線の先で、
男達――人狼どもは何やら身体を動かしていた。
そう、月明かりが照らす中、何度も何度も変えつつ、
独特なポージングをしていたのである。
改めて俺が良く見ると、腕を少し内側へ曲げ、ゆったりと構えている。
リーダーである、ライカンと呼ばれた男の声が聞こえて来る。
「むむむ、やはりこれでは勝利のポーズとしては大人し過ぎるっ!」
そう叫んだライカンは少し身体を横に振るが、まだ満足しないようである。
「ふむ、今度は、こうか?」
次に、ライカンは両腕を上げた。
やはり、肘を少し曲げて独特なポーズをとる。
逆三角形の体型が見事であり、腹筋がぴくぴく波打っていた。
「ははははは! よし! 決まった! 綺麗だ! 我ながら惚れ惚れする! 何という神々しさだ!」
ライカンは、うっとりしている。
目が、すっごく遠い。
……どうやら、自分の世界に入ってしまっているようだ。
配下の男達――人狼どもも、同じようにポーズを変える。
やはり陶酔状態に入っている。
こっちにまで、熱気が伝わって来そうな入れ込みぶりだ。
俺は……唖然としてしまう。
え!? な、何だ、あれ?
そういう趣味の方々が居る事は聞いた事があるけれど……
そして別に人それぞれ、自由だとは思うが、俺には、全く理解出来ない世界だ。
思わず、クッカに尋ねる。
『ねえ、クッカ、何やってるの、こいつら?』
『え、ええ、多分……自分の肉体に酔っているのでしょう』
クッカは、男達に視線が行かないように俯いていた。
どうやら、あまり見たくないらしい。
『肉体に酔う? ええっと、もしかしてナルシスト? もしくはもっと危ない人?』
俺が聞くと、クッカは「あくまで私見ですが」と断わった上で言う。
『ある意味では、ナルシストというか、己の肉体に拘り過ぎる危ない奴らだと言えますが、ある意味では肉体の美しさを追い求めるストイックな求道者とも言えます』
ふ~ん。
ある意味、ストイックな求道者ねぇ……
やっぱり、見る人の考え次第では、見解が違うって事だね。
俺とは趣味が合わないけれど、そういう世界もあるんだなあ。
まあ、人それぞれって事だ。
でも、さっきの索敵では『敵』って出たんだものな。
そうか! 何と言っても、こいつらは、『人間の敵』であろう魔王軍なんだから。
まあラノベには、イレギュラーで人間に好意的な魔王軍とか、
居たような気もするが、基本的には『敵』だろうな……
俺は、クッカに再び尋ねる。
『あのさ、確認だけど』
『確認? 何でしょうか?』
『うん、人狼のあいつらは魔物であり魔王軍。で、最初にアンノウンって識別されたって事は、奴らは俺達にとっては敵であり、害意があるって事だよな?』
『一応そうだと思われます! 今のところ私の索敵では種別は半魔、人狼と表示し直されていますね』
『う~ん半魔の人狼ねぇ。確かに俺の索敵もそうなってるよ。だから最初に人間の悪人と出て、すぐアンノウンに変わったのか』
『ですね!』
『……でもさ、このままじゃ、相手の目的は分からない……ここはまず、コミュニケーションを取る為に、会話した方が良いかな?』
『ケン様に同意します! じゃあ私が! ちょっとケン様の声帯をお借りします』
『え!? 声帯を借りる!?』
「は~いっ! グッドイブニ~ング!!! 皆さん、こんばんはぁ!」
いきなりクッカの声が、俺の声に変換され、すげぇ大きな肉声になった。
何と、不思議!
俺の口から、声が勝手に!?
意思など関係なく、声が出ているのだ。
「はあ~っ? いきなりお前……誰だよ?」
ライカン以下ムキムキ男達が、一斉にこっちを振向いた。
ああ、クッカの姿は見えないから、俺が呼びかけたと思っているみたい。
全員訝しげな表情で、俺を見ているよ。
ライカンから言われて思ったけど……そういえば、誰だっけ俺?
さすがに本名のケン・ユウキを名乗るわけにいかないし、
こんな時の名前って、ちゃんと決めてなかったな。
『私に任せなさ~い!』
そう思った瞬間、クッカの、凄く得意げな声。
こっちは俺への念話だ。
とっても嫌~な予感!
その瞬間、またもや!
俺の口から、勝手に言葉が響き渡る。
「ようく聞けぇ! 俺は、な! ふるさとを守る哀愁の地元戦士、郷愁マンだぞぉ!」
「はぁ? ふるさとを守る? 哀愁の地元戦士? キョーシューマンだとぉ? 何だ? その今にも、たそがれそうなダッサイ名前はぁ!」
「ぎゃははは、ホントにくそだっせぇ!」
「超最低なネーミングセンスだ」
おお、さすがにこれだけは……こいつらに同意するぞ!
俺だってそう思うもの。
クッカが、俺の声帯を使って名乗った……『地元戦士郷愁マン』は微妙だ!
すっげぇ、微妙過ぎる!
思わず脱力した俺は、大きくため息をついたのである。
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