第14話「クッカのふたつ名」
現在、真夜中……もう少しで日付けが変わる。
俺は幻影のクッカを伴い、村からずっと西にある、森の中を進んでいた。
ふたりで向かう目的地は、リゼットが見つけたという森の中にある薬草の群生地。
暗視のスキルがあるから、俺の視界における照度は昼間と全く変わらない。
しかし、最初だけ暗視スキルナッシングで歩いてみたら……
うわ、これ何って感じ。
真夜中の森が、こんなに怖いとは思わなかった。
あちこちの方向から、様々な獣の声が聞えて来る。
「がさがさ」と、草を鳴らす音もする。
索敵で音を立てた正体が、人間には害を為さない、
一般的な草食動物などだと分かり、魔物では無いことが幸いではあった。
だが、索敵など使えない普通の人間にとっては、
何者かが潜んでいるのか分からない感がある、
それくらい真夜中の森は不気味だ。
慌てた俺はすぐ暗視のスキルを再始動した。
これで安心。
うん! 暗視のスキルが無ければ、
僅かな月明かりしかない真夜中の森を進めやしなかっただろう。
そして勇気のスキルが無ければ、俺は、ぶるって歩く事さえ出来なかっただろう。
スキルを授けてくれた管理神様、手解きしてくれたクッカ、本当にありがとう!
そうこう考えているうちに、数多の薬草の繁茂している場所に着いた。
生えている木々が途切れ、森の中の小さな草原という趣きである。
それを見て、クッカが「にこっ」と微笑んだ。
『リゼットちゃんが探していた、薬草の採取場所はここですね』
『おおっ!!!』
わお! 凄いな、ここ!
様々な種類の花が、これでもか! と咲き乱れている。
近付くにつれて、俺の鼻腔をくすぐる濃厚な香りが、
とても強くなっていたので分かったが……
クッカの言う薬草とは、この異世界では『ハーブの一種』らしい。
ハーブに関しては、残念ながら俺にあまり馴染みはなく、知識もなかったが、
「身体に良い」というイメージだけはある。
だが、どれが何だろう、これ?
幼い頃田舎で育ったが、ハーブどころか、植物関係はからきしだ。
俺は野球が大好きで、河川敷で行われていた、
大人の草野球を見るのが、大好きだったしね。
個人的な意見かもしれないが、基本的に男の子って、
草野球、カブト虫取とり、釣り等がメイン。
後は、秘密基地ごっことか。
たまに近所の農家を手伝って、『草むしり』くらいはしたけれど、
今、流行のガーデニングとも、俺は無縁の男だ。
まあボヌール村に住むからには畑仕事くらいは覚えたいので……
オールスキルの中には、そういうスキルもあるよね?
記憶が曖昧なのだが、見ても地球のハーブとは全く違うような気もする……
なので、とりあえず俺はクッカを頼る事にした。
『どうしよう? この薬草はハーブかな? 残念だけど、俺にはどれが何なのか全く分からないよ。 悪いけど判別と確認はクッカにお願い出来る?』
すると! クッカは「任せろ!」というように、小さな手で胸を軽く叩く。
『えっへん! お任せ下さい! 数多居る女神達の中でも、史上最強のお茶汲み係として名を馳せましたからっ! 実は私のふたつ名は、お茶汲みのクッカ!』
おいおい、お茶汲みが、得意?
だから、お茶汲みのクッカって……
……あのね、『まま』じゃん!
それに、そこまで威張るような『称号』でもないような……
しかし、やる気が出ているクッカのモチベーションを下げるのは愚の骨頂。
『よ、よっし! クッカ頼むぞ! 確かリゼットのお祖母さんって熱があって、身体がだるい風邪だって言ってたよ』
『了解です!!!』
という事で、クッカが指差しして選んだのが、
小さな白い花をつけているハーブである。
俺は、早速摘んでみた。
『ええっと、これは何?』
『はい、ハーブの一種でララルーレですよ! この花を乾燥させて飲むと様々な症状に効果があると言われます。風邪以外に鎮静、発汗にも良いですね』
へ? ララルーレ?
うむむ、確かと……俺は記憶をたぐった。
ええっと……名前だけしか知らないけれど、
セージとか、タイムとか、ローズマリーとか、
後、ミントとか、……そうだ! レモングラスとか……
しかし、ララルーレか……う~ん、全然聞いた事がない。
やはり地球のハーブとは、全く違うようだ。
更にクッカは、いくつか花と葉を指し示した。
『ケン様! 他にも、トットコ、ラーダ、フィルなども持って行きましょう。トットコの花も風邪に良いのですよ。たまにララルーレが身体に合わない人が居ますので、こちらもあれば万全です!』
おお、次から次へと! えらく詳しいなぁ! さすが『お茶汲みのクッカ』!!!
それに、やはりオールスキルというのは伊達ではなかった。
クッカが教えてくれるこの世界の様々な知識が、
どんどん自分の中へ入って来るのが分かる。
しかし、この場所は凄い!
クッカが選んだ以外にも、周囲にはたくさんの種類のハーブが生えている。
ここは、自然が創り出したハーブ園なのだ。
そんなこんなで、俺は、言われた通りに結構な量の花と葉を摘み終わった。
一方、クッカは、納得したように大きく頷いている。
『成る程! リゼットちゃんが無理して来ようとしたのも分かります。この場所のハーブは結構な種類があって様々な症状に有効ですから』
『確かに!』
『加えて、ボヌール村は、治癒士が、御年を召した女性の方が、おひとりだけ居るみたいですよ』
そうか……いわゆる医者不足ね。
ボヌール村は超がつく僻地だけあって、良い部分だけじゃあないな。
あ、そうだ! 良い事、思い付いたっと!
俺の頭にLED電灯が明るく「ぱああっ」と輝いた。
『クッカ、これ株ごと持って帰って、村の畑や庭に植えられないかな?』
『はい、派手にやらなければ大丈夫ですよ』
『え? 派手に?』
『はい! ケン様が派手な魔法や体術、特異なスキルを見せてしまうのと一緒です。いきなり村へすっごいハーブ園が出現すれば、領主がすぐ目を付けます。ケン様はすぐ、お城に呼ばれてゆくゆくは……』
『うわ! そうなるか!』
『はい、確実にそうなりますね』
LED電灯、即消灯!
俺は「がっくり」と項垂れた。
やっぱり全てにおいて、地味に目立たず、ほどほどにやらないと駄目なんだな……
『ちなみにですね。ケン様がお持ちの魔法スキルとして強力な回復魔法もありますけど、こちらも同様ですよ』
『そ、そうか……』
『回復魔法を行使の際には細心の注意を払って下さい。治療してあげた村民の方が感激のあまり、ついつい周囲に話してそれが領主に伝わったら……ケン様は完全にア~ウトです!』
『そう……だよな』
『はい! 完全にア~ウトになるのは困ります! 良いですか? ケン様は私と、リゼットちゃんを含めたあの村の適齢期の女子全員のモノですからね!』
『は? 私とあの村の適齢期の女子全員のモノ? 何それ?』
『ええっと、私って今、何か言いましたっけ?』
言ったよ、確かに!
凄い事を!!!
『それより、ここで問題です! この薬草、どうやって持ち帰りますか?』
おいおい! それよりって何? 話題をすり替えて、誤魔化した!
でも今、大事なのはハーブの収納と運搬か。
それも、暫く隠しておける場所……
あ! そうだ!
『よくある魔法の収納の箱とか! 俺が空間魔法を使えるとか?』
ピンポン! ピンポン! ピン~ポン! (クッカの声)
そうか……正解か。
『じゃあ空間魔法の言霊は、収納?』
俺が何気に呟くと、摘んだ花と葉が空間に吸い込まれて行く。
『うふふ、大正解です! 逆に出す時は、搬出と念じて下さい。この空間魔法の応用で異界も創れますよ』
『へ? 異界?』
『はい! いわゆる魔法で生成する無機質な疑似世界、いわゆる亜空間です。おイタをやらかした、超わる~い奴も、生きたまま、い~っぱい閉じ込めておけます』
『おお、敵を生かしたまま幽閉出来る牢屋か!? それすっごく良いなっ! 俺の引きこもりにも使える?』
『全然使えますよぉ! 最強のひきこもり部屋になります!』
俺とクッカの話が、盛り上がった瞬間。
ぎゃおおおおっ!!!
いきなり俺の耳に、断末魔の悲鳴が聞こえた。
これ、人間ではなく、動物の声である。
声がした場所は、結構離れていた。
だが、昼間のリゼットの悲鳴を聞きつけたのと同様に、
聴力も異常に鋭くなっているようだ。
そして、さっき把握していた生命反応がひとつ、あっさり消えたのである。
『おいおい、これってさっきの熊かな?』
『はい! そうですね、一撃で死んだようです』
何? 熊を一撃で倒す奴。
一体、何者だろう?
さあてクッカ、索敵は?
『むむむ、犯人達は悪人!? と出てすぐに変わりました! いや、アンノウンですね』
クッカは、相手の識別が不可能だという。
行使してみたが、俺の索敵も同様だ。
索敵を使えば、人間、動物だと、ほぼ正体が分かる。
と、いうことはアンノウンは魔族か、魔物なのか?
『どうしましょう? 行ってみます?』
『うん。万が一、村に害を及ぼす奴だったらまずい。確認の為にも……行こう!』
幸い勇気のスキルのお陰で、相手が誰だろうと怖くはない。
俺はクッカと共に、森の奥へ向かおうと、駆け出したのである。
※この話はフィクションです。
ハーブの名前は仮のものであり、実際のものと一切関係がありません。
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