第13話「空中散歩を楽しもう!」
俺は、飛翔魔法で一気に300mほど上昇して空中に静止する。
いわゆる、立って宙に浮くって感じ。
熟練度が1の筈なのに、どうやらこの魔法も一発で成功!
生まれて初めて行使する魔法がず~っと成功するなんて、
今迄の運の悪さが考えられない。
もしかして、どこかのゲームの盗賊みたいに運のパラメータもMAXだから?
それって、俺が何かの間違いで死んだ事?に対する、管理神様のお詫びの一環?
まあ、良い。
今は、この状況を楽しもう!
「おおおっ! 改めて見るとやっぱり凄い!!!」
ここへ来た時の晩に空を見上げ、既に感動していたが、
この世界の空には、俺が住んでいた都会とは違い、降るような満天の星空がある。
ただ、この星空、あまりにもたくさん星がありすぎて、
目がチカチカするくらいだ。
多分、星の配置は、地球とは全く違うのだろう。
なので、地球の星座マニアがこの西洋風異世界へ転生したら、
がっかりしたかもしれない。
しかし俺は単純。
ただ星空が綺麗であれば、
天文学や星座占いに興味が無いから、拘りが全くナッシング。
なので、シンプルな願いを胸に、ここで愛しの女神さまへ質問。
『クッカ! 星を良く見る為に、俺の視力をぐ~んと上げる為にはどうしたら良い?』
『はいっ! 遠眼鏡のスキルと念じて下さい』
よおし……はいっ、念じたぞっと。
すると、一気に視力が良くなった!
うおおっ! これは、凄い。
本当に綺麗だな!
調節してっと!
『ズームインとズームアウトで、倍率も念じれば自由自在ですよぉ』
すかさず、クッカのアドバイス。
ナイス!
まさに「取り説」要らずだね。
サンキュー!!!
よっし、どうだ?
おお、バッチリだぁ!
星空を見るのに飽きて、下界を見やれば……
足元には、草原と点在する森という光景が広がっている。
後を振向くと、防護柵に囲まれたボヌール村が見えた。
ズームイン!
おお、村にある『俺の家』が見える!
すげ~感動した!!!
いったんズームアウトして。
ええっと……村を基点として見ると……
俺は、東西南北をズームインとズームアウトを自在に駆使して、
周囲をぐるりと見渡して行く。
現在居るのは、村の北西上空。
村の北東には別の大きな森が広がっており、湖みたいなものが見える。
西の森より、遥かに大きな森だ。
何か、探索しがいがありそうである。
北には、歩いて来た街道が伸びている。
こっちは管理神様曰く、いくつかの町を経て行き先は王都。
そして南はと言えば、街道をだいぶ歩いて下ると、
ボヌール村よりも、ほんの少しだけ大きな町が、
更に町の奥の丘には、ちんまりした白い石壁の城館がそびえているのが見えた。
ああ、成る程。
あそこが多分、領主の館だ。
リゼットが、オベール様って言っていた村を治める騎士爵の領主が居るのだろう。
でも領主には、絶対に目をつけられないようにしないと。
莫大な報奨金が貰えるなら、俺だって王都の王様へ速攻で報せる。
そうしたら、通報された俺は勇者まっしぐら?
上から目線で王様に命じら散々、雑用をやらされ、終いには怖ろしい魔王と戦う?
うう嫌だ! ……そんなの、絶対に嫌だ!!!
ちなみに領主が居る町より先にも、街道はずっと南へも伸びていた。
それ以外は、街道を挟んで草原を基本に、
森、湖、もしくは沼という地形が展開されるパターンで、
他に人間の町や村などは見当たらなかった。
うむむむ……ここは、やっぱりすっごい田舎なのだ。
まあ、ざっくりと見ただけだから、もしかしたら見落としているかもしれないが、
小さい集落は後でチェックすれば良いだろう。
『よし、クッカ。探す時間も限られているし早速、薬草採取へGO!』
『はいっ! ケン様! 飛行訓練をしながら西の森の中ですね、ゴーゴー!』
お! クッカのノリも、良くなって来た。
相変わらず笑顔が、超可愛い。
まあ、彼女は美人さんだから、何をやってもOKなんだが。
俺は、西の森を目標に飛翔を開始した。
速度を急に上げたり、回転したり、急降下したり、
空の散歩を存分に楽しみながら。
ところで、皆さんは夢の中で空を飛んだ事があるだろうか?
ちなみに、俺はある。
夢の中だと、何故か高所恐怖症も全く感じなかった。
だけど「思ったように飛べた!」とは言い難い。
不思議な事に、何か身体に制限をかけられたように、
重くて自由に飛べなかったのだ。
それが今や!
すいすい!と風を切って飛ぶ、この素晴らしさ。
やろうと思えば、どこまでも限り無く速度が出そうである。
何と! どのように飛ぶかは、頭の中で思うだけでOKなのだ!
さすがはレベル99!
という事で、満天の星の下、夜の大空という海を自由に泳ぐ魚のように、
俺は自由自在に飛び回った。
傍らでは、クッカがぴったり、くっついて優しそうに微笑んでいる。
『うふふ、ケン様ったら、飛ぶのに夢中になって! まるで子供みたい』
いやいや! 全然良いんだよ!
どうせ、俺は大きな子供さ。
楽しいおもちゃを手に入れた気分なんだ。
『でも、そろそろ行きましょうか、西の森へ』
クッカに促された俺は、速度を少し上げて西の森へ飛んで行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
今更だが、基本的に俺は超が付く怖がりである。
お化け屋敷も、滅茶苦茶苦手な男だ。
だから闇からホラーって不気味なお化けが出たり、
血がブーなスプラッタなんかが好きな女の子とは一切付き合いNGだった。
ホラー映画に誘われても、全てお断り!
だから、どれくらい彼女を作るチャンスを逃がしたか分からない。
ついでに高所恐怖症だから、高い所もダメ。
だからジェットコースターや、フリーフォールが売りの遊園地も不可。
こんな遊びにくい男は『彼女』なんて到底出来ないよね。
今から、考えれば至極当然。
え? さっきは、どうして空飛んだのに大丈夫だったって?
それがさ、『勇気』ってスキルが、あるんだと。
某少年誌の合言葉のような、某ゲームのスペックのような、
そんなスキルが今の俺にはある。
だから今は全く平気だ。
あ~ははは。
凄いよ、最高だよ、オールスキルって!
仮とついているのが、少しだけ気にはなるけど……
『そういえば飛翔した直後、「高いのは嫌だよぉ」って泣き叫んで手足バタバタ。涙だだ漏れで、鼻水たらしてパニクっていましたものね! もしかして、おしっこも漏らしてませんか?』
こら! 漏らしてね~よ!!!
て、普通言うか? それ!
クッカ、こらっ!
俺が怒ると、クッカは「てへぺろ」しやがった。
『えへへ、ごめんなさ~い』
まあ良い。
可愛いから許そう。
繰り返すが、男子にとって、女子の可愛さ、美しさは全てに優先するのだ。
そんなこんなで、前置きが長くなったが、
俺達は西の森の上空に来ると、降りられる場所を探す。
ちょうど木々が途切れた原っぱがあったので、
そこへ出来るだけ目立たないようにそっと降りる。
周囲には何も居ないが、勿論、索敵は欠かさない。
夜の森なので、夜行性らしい生命反応はたくさんあるが、
大抵は大人しい草食獣らしく、クッカから危険は殆ど無いと言われる。
『あ!』
『あ!』
ここで、俺とクッカの声が重なった。
だいぶ離れてはいるが、
この辺りでは最大級たる、大型肉食獣の気配を察知したからだ。
『おお、熊だな!』
『ええ、成獣の熊ですね。この森の中で北西約2km先に居ます』
『ああ、俺も索敵が使えるようになって来た。クッカの言う通りの反応を感じるよ』
『はい、ケン様。出会った事のない、悪意を持つ魔族や魔物は、索敵にはアンノウンと反応が出ます。そして悪意を持つ人間族は悪人と出るのです。しかし普通の人間族は、人間と反応が出ますし、兎や鹿も含めて一般の動物は90%の確率で索敵出来ます。ケン様も私と同じ索敵能力をお持ちですよ』
『教えてくれてありがとう! でも、熊、どうしようか?』
『排除しますか? その体力吸収の魔剣を使います?』
俺が腰から下げている、引寄せの魔法で得た黒い刀身の魔剣。
これは体力吸収の効果が付呪されていた。
効果はと言えば、文字通りダメージを与えた敵の体力を吸収して、
奪った体力を逆に持ち主へと渡す反則な剣だ。
『うん、もしも遭遇したら戦うよ』
俺達に、何もしていない熊をむやみに殺したくないが、
情けを掛け過ぎて「がぶり!」と喰われるのは絶対に嫌だもの。
肉食獣の熊から見れば、猿のような人間の俺がどう見えるのかを考えるとね。
ここで俺は、はたと手を叩く。
ひとつ思い付きをしたからだ。
『そう言えば俺って、こういった動物や魔物との意思疎通って出来るの?』
確か本で読んだソロモンの72柱悪魔に、
そんな特技を持つ悪魔が居たと思い出したのだ。
そんな俺の問いにクッカは……
『ええ、出来ますよ』とあっさり。
は?
本当にあっさり言うな……全然OKなんだ、それ。
ここで俺はふと思う。
『じゃあ、もしかして、俺とリゼットが襲われたあの時、ゴブに平和的な解決……すなわち降伏勧告も出来たんじゃないの?』
これも、クッカはあっさり答えてくれた。
『はい、威圧して大人しく出来たかもしれませんが、情けを掛けても彼等は再び人間を喰う為に襲います』
『そうか、所詮は一緒って事?』
『はい! こればかりは食欲=本能ですから仕方がありません。そもそも、ゴブリンなど、出会ったら排除のみです、悪・即・斬!!!』
おお、ぶれないっす、女神様。
何せ、ゴブが大嫌いと来てる。
『それより早く薬草を取りに行きましょう。熊と遭遇する前に』
確かにその通りだ。
俺達は足を早め、昼間リゼットが危険を冒して採りに来たという、
薬草の繁茂地へ向かったのである。
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