第11話「すねる女神」
リゼットとお母さんのフロランスさんが帰ってから……
ひとりになった俺は、「さっぱりしたい」と、
井戸から、たらいに汲んであった水にタオルをひたす。
濡れたタオルで顔を拭き、身体を拭うと、
ようやく、ひと息着く。
寝室へ行って、ベッドに「ごろり」と横になる。
「はぁ~、やっと落ち着いた……さあて」
俺は、大きく深呼吸した。
そして心の中で……呼び掛けてみる。
相手は……色々と助けてくれた俺専任の『可愛いあの子』だ。
『ク~ッカ様あああ!』
『…………』
あれ? 念話ながら大声で呼び掛けても反応が無い。
彼女の姿も全く見えない。
……ただレベル99の能力が、徐々に本格的に目覚め出して来たのか、
気配は感じるようになっており、
間違いなく、クッカ様は、俺の傍に居る。
なので、俺はしれっと、明後日の方角へ独り言?
『あれ、返事が無い。ただの屍のようですね』
どこかで聞いたようなセリフを言えば……
すると、すかさず反応が。
『違います! 屍じゃあ、ありませんっ!』
『あ、居るじゃないですか?』
『もう! あ、居るじゃないですか、じゃあないですっ! ず~っと放置してっ! もう知らないっ!』
何か、すごい怒りの波動が伝わって来る。
ここは、素直に謝った方がいいだろう。
『御免なさい! 申し訳ないです! 見ての通り、不可抗力で立て込んでいました。今からゆっくりと話しましょう』
『……分かりました、約束です! ゆっくりじっくり……ですよ!』
謝ったら、即、機嫌を直してくれたクッカ様の声を聞いて、
俺は「ホッ」と胸を撫で下ろす。
あ、そうだ。
『仕切り直し』した方が良いな。
「ふっ」と気付いた俺は、改めてクッカ様へ、自己紹介をする事にした。
この中世西洋風異世界に来て、いきなりのリゼット救出、
ボヌール村へ到着してすぐ、リゼットの両親との顔合わせ等々で、
結構、慌ただしかったしね。
『じゃあ、改めて! 俺の名前は当然知っているでしょうけど……地球からの転生者ケン・ユウキです。何卒宜しくお願い致します』
俺が名乗ると、クッカ様は、
『はい! じゃあ私も改めまして! 天界神様連合、後方支援課所属、D級女神クッカと申します』
『ですよね! クッカ様、本当に宜しくお願い致します』
『あ、そうそう! 私に対し様とか、敬語は不要です。遠慮なく、クッカと呼び捨てにして、かつ砕けた言い方で、フレンドリーに話し、接して下さい。管理神様に厳命されておりますので』
『了解! じゃあ、俺にも同じ扱い!で』
『分かりました! ケン様とはフレンドリーに話し、接します。但しですね、呼び方だけは管理神様から厳命されておりますから、ケン様と呼びますね』
成る程! 今更ながら実感する。
やっぱり、クッカ様は、否、クッカは女神様なんだ!
『俺専任』の、女神様なんだ。
でも、あのプライド高そうなエルフ、否アールヴ女神様や、
怖そうな戦女神様と比べたら、
すっごいフレンドリーな女神様だよね。
クッカの話には、まだ続きがあるようだ。
『後、管理神様から、ケン様へ伝言です』
『え? 管理神様が俺に伝言?』
『はい、ケン様の年齢は、ケン様がそう思った通りの満15歳、そして誕生日は今日にしとくって』
『あ、ああ……そうっすか。了解でっす!』
むうう、年齢は、俺がそう思った通りのままの15歳で、
異世界に来た、今日が俺の誕生日って……
相変わらず、超適当な管理神様……まぁ、良いか。
うん! そんな事より、俺はクッカと、もう少し心の距離を縮めておきたいぞ。
だから、彼女をさりげなく褒める事にする。
『クッカ! ところで君、凄~く可愛いね』
『は!?』
案の定、驚く声が可愛い。
『いやぁ、クッカの顔も声もすっごく可愛いから!』
『いや、私なんか、あ、あまり可愛くないですよぉ!』
あはは、照れてる、照れてる!
『頼むから、また俺の前に姿を見せてくれない?』
『…………』
『どうしたの?』
『だって! ……ケン様ったら……私の胸をじろじろ見るから……エッチなんだもん』
わぁぁ! やっぱり!
胸へのガン見が、『ばれて~ら!』
このような時は、変に否定しない方が良い。
なんて、冷静に考えられるのも、やっぱりレベル99のせいかしらん。
『だ、だってさ! クッカは凄く可愛いし、胸がとっても綺麗だったから! つい見ちゃったんだよ! スタイルだって美しくて素敵だし!』
俺は、はっきり言い切った。
でも、これは嘘じゃない、本心だ。
だからクッカも……
『あ、ありがとう……ございます。私を褒めて頂いて』
『そ、そうなんだ! だから俺、声だけじゃ嫌だよ。クッカを見て話したい』
『……分かりました』
よっし! やった!
『あの……念の為、言っておきますけど……私……容姿にまったく自信が無いのですが……』
『良いの! これ命令!』
『もう! ケン様は強引なんですから』
何か、清冽で爽やかな魔力を感じる。
敢えて、例えて言えば、ミントっぽい気配が生じている。
すると……いきなり、ホログラムのような3次元画像の人影が立ち上がった。
そうか!
実体じゃないって言ってたしな、管理神様。
……徐々に、映像がはっきりして来る。
ええっと……クッカは、異界で会った通りの容姿だ。
白人風美人だけど、親しみやすい雰囲気の顔立ち。
綺麗な金髪碧眼。
細身だけど、おっぱい大きい。
おお! やっぱ! クッカは可愛い! 超可愛い!
女神なのにまじ天使!
しかし、クッカは何故かネガティブ。
謙遜って感じではない。
『……あまり可愛くないでしょ?』
『そそそ、そんな事! 全然! ありません!!!』
念話なのに、俺は盛大に噛みながら、大きな声で叫んでいた。
「でも……」
俺はつい、口ごもる。
少しだけ迷ってから、やはり思い切って言う事にした。
そうじゃないと、すっごく「もやもや」して来るからだ。
俺が気になって仕方が無いのは、クッカの着ている『服』である。
『身体のラインはバッチリ見えるし、胸の形も見えるような見えないような……それ、綺麗で素敵だけど微妙な服だよな、クッカ』
『え?』
一瞬驚くクッカであったが、俺の言いたい事を理解すると真っ赤になってしまう。
幻影とはいえ、すごくリアルだから、
色白の肌が真っ赤に染まるのがはっきりと分かる。
『もう! やっぱりケン様はエッチ!』
ああ、もじもじして恥らうクッカも可愛い。
でも……男という動物は、本当にしょーもないな。
先程まで、リゼットの可憐であどけない美しさに魅かれていた癖に……
今はクッカの、透明感溢れるたおやかな美しさに参ってしまっている。
俯いていたクッカが、「そ~っ」と顔を上げる。
そして、微笑む。
『でも安心して下さい。幻影とはいえ、この現世ではケン様以外、私の姿は一切見えませんので』
意外な事実を聞いて、思わず「ホッ」とする。
そんな俺を見て、クッカも嬉しそうだ。
『でもさっき、ケン様がリゼットさんの為にゴブリンと戦ったのを見て、ちょっと羨ましかったです。窮地に陥った女子の為に一生懸命戦う男の子って凄く素晴らしいですもの』
『お、おう!』
『でも、今度は私の為に……戦ってくれると嬉しいな』
『おう!』
ああ、女神の為に戦う!
なんて、どこかの漫画か、特撮ヒーローものみたいで格好良い。
具体的に、どこの誰と戦うかは不明だが、深く考えるのは野暮。
それより、可愛いクッカとの会話は超、楽しい。
リゼットもそうだが、性格グッド美少女との、
甘い会話やイチャは、健康男子にとって最高だ。
実感する、し・あ・わ・せ!!!
だけど……幸福なのは確かにいいが、
いつまでもこんな事をしているわけにはいかない。
限られた時間は、有意義に使いたい。
まだまだやる事が、俺にはたくさんある。
俺がクッカへ話したのは、この夜の間に村外で、
自分の能力の様々な試運転をしたいという提案だった。
魔法は勿論、体術その他も含め出来る限り!
昼間のゴブとの戦いだけでは到底不十分であるし、
俺には試してみたい他のスキルがあり過ぎたのだ。
『そうですね。ちなみに、魔法を使う度に消費する魔力量は全く問題ありません。全然気にせずバンバン魔法を使ってください。ケン様の魔力量は中級の神様に匹敵するくらいで、私なんかより数十倍も多いですから』
は!? 神様に匹敵!?
クッカの数十倍って……人間族でもやっぱり、レベル99は凄いんだ。
『数値的に言いますと、ケン様が人間族というには不適格過ぎますね』
確かにレベル99って、「これでも俺は人間で~す」
と言うのは、とんでもない詐欺のような気がする。
『ご安心下さい、魔力量の回復力もバッチリですよ! 何せ約1分間あれば魔力を全て使い切ってもすぐ満タンになります』
『あはははは…………馬鹿馬鹿しいくらい凄すぎて安心したよ』
こんな俺の笑いの事を『からからに乾いた笑い』っていうのかもしれない。
呆然としている俺を見たクッカが、悪戯っぽく笑う。
『うふふ……それにスキルはですね、魔法系も体術系も武技系もその他系も、オールスキル【仮】という言葉通り、ケン様は全て習得済みです。何でも最初に一回だけ使えば練度は次回からMAXな神クラスへ達します』
『え? MAXな神クラス?』
『はい! 巷で良く言われる〇〇の「達人」レベルの遥か先にですね、「超人」「使徒」「大使徒」そして最後に「神」という、MAXな超究極練度レベルがあるのです』
『……はは……「神」という、MAXな超究極練度レベルかあ……これも馬鹿馬鹿しいくらい呆れるけど……はっきり言ってありがたいな』
『はいっ! ですねっ!』
俺の声に応えて返事をする、クッカのやけに元気な声が心の中に響いていた。
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