い:意識下と無意識下のイデオロギー
みかんもりんごもいちごも嫌い。桃とアメリカンチェリーが好き。
そう考えるのは意識してると言う事。
じゃあ、実際に目の前にいちごと桃が並んでいたとして。あたしは迷わず桃を手に取る。それが無意識。
全ての行動に、その二つの定義しかないとするならば。
この状況を、どう説明すればいいのかしら。
あたしはこの人が嫌い。どっか行っちゃえばいいのに、位は思ってた。ええ、思ってましたとも。
だけど、さすがに死ねばいい、と迄は思ってなかったわ。そこ迄鬼じゃないし、あたし。
向こうは極普通の強気な女子。あたしはちょっと気弱な方の女子。
関わりって程の関わりもないけど、場所も人目もはばからないカレシとのイチャつきぶりは、あたしじゃなくても女子の反感買うよね。周りにね、気を遣わせちゃいけないと思うのよねあたしは。
しかも、ころころ相手が変わるから。しかも、あたしが密かにいいなと思ってた本多君迄!
……いいのよ、付き合うとか。本多君の意志だし、本多君デレデレして嬉しそうだったし。本多君が心底幸せそうだから、そのまま幸せで居てねって思った矢先。
もう別れてるし……! しかも、ショックだったのかそれ以来本多君見掛けなくなっちゃったし!
こんな人どっかに行っちゃえばいいのに、位には思うあたしの理由。
だけど、この状況をどう説明出来るのか。
あたしは一人で階段を上がってた。あの人は、向こうに居るらしい誰かとの会話を続けながら階段を下りて来ようとしてた。
危ない、よそ見して。そう思ったのは意識下。体を壁の方にずらしてぶつからない様に避けた、これも意識下。
なのに、相手はあたしにぶつかった。ぶつかる可能性を危惧してたあたしはよろめかなかった、でもまさか誰かにぶつかるとは考えもしてなかったらしい相手は、見事に態勢を崩した。
階段でのフラツキには、大惨事が待ってる。あたしは咄嗟に助けようとしたの、嫌いな人だってのに。偉いじゃないあたしの無意識。
だけど、助けようとしたあたしの手に気付かないで、多分この人は慌てるままに何か掴もうと必死になって、あたしの服を引っ掴んだ。それを、――あたしは払う様にどかしてしまった。
……あーあ、説明させてくれるかしら? 最初の無意識下では助ける気充分だったのよ? だけど、不意打ちじゃあねえ。伸ばした手と違うとこ持たれちゃったりなんかしちゃったらねえ、ほら……びっくりするし。
……って、ほんとはね。
助けたい、その意識の命令であたしは手を差し伸べた。でもあなたが縋るみたいにしがみつこうとして、そしたら違う無意識が勝ってしまったの。
――やだ、あたしに掴まらないで。
あなたが。あたしから好きな人も、その人を見つめる権利も奪ったあなたが。
……ってね。女の恨みっていやよね、恐いわよね。
だってあたし、見てるだけなんだもの。階段を派手に転がり落ちたあなたが動かなくても、頭の下からじわじわ流れて来た血が結構な血溜まりを作っても。
下手なサスペンスじゃないんだから。階段落ちた位で、何で頭から血なんて流れるの? 冷静に、そう思いながら。
嫌いな人。無意識に、それが一番に頭を占めるのかしら。あたしは立ち上がる。
それは「立とう」という意識。立ち去ったのに――意識が働く筈がないって事。
あなたには、もう分かるわよね?




