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ニート令嬢は断罪拒否、ただし自宅(領地)から出ない。世界は「引きこもりコマンド」で統治する  作者: かげるい


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第8話:安寧の地下室計画と、次なるイベントの解析

婚約という最大の危機を回避したローゼは、アストライア公爵邸の最奥にある自室で、束の間の平和を享受していた。窓の外は、彼女が【HOME・DEFENSE】で張り巡らせた結界により、まるで世界から隔絶された温室のような静けさに包まれている。


(ふう。面倒な王子の排除も終わったし、これでしばらくは安泰だ。やっぱり、自宅からのリモート操作は、外出を伴う物理的な戦闘より圧倒的に楽だ)


ローゼは満足げにソファに身を沈め、筆記用具を手に取った。彼女の次の最優先事項は、「引きこもり生活の質(QOL)の向上」である。


「食料の備蓄、趣味の空間、そして最高のネットワーク環境……。これらがなければ、充実したニート生活とは言えない」


ローゼは、領地内に元々存在する古い地下室を改造し、「ゲーム廃人のための理想の地下拠点」を築く計画を立てていた。設計図には、長期保存可能な魔導食材庫、最新の魔導具を設置した通信ルーム、そして何より「快適な寝床」の配置が緻密に描き込まれている。


彼女が設計した魔導具の回路図は、前世のハードウェア設計の知識に基づいているため、この世界の錬金術師が見れば「神の御業」としか言いようのない、異常なまでに効率化されたものだった。


ローゼはすぐに執事のアルフレッドを呼び、地下室改造のための資材調達と人手の確保(最小限の専門職人)を命じた。もちろん、職人たちには「最高機密の儀式準備」という名目で、領地内のどこにも口外しないという誓約を、魔力的な契約で強制的に結ばせた。


QOL向上のための内政を進める傍ら、ローゼは【LOG・READER】を使い、システム管理者AIが次にどのような強制イベントを仕掛けてくるかを分析し続けた。


SYSTEM:AI_MANAGER

警告:端末アラン・ムーンブルックの行動ログに重大なエラーが発生。


PROCESS

悪役ローゼリアの強制排除に失敗。次のイベントを予測不能な形で実行します。


NEXTEVENT

『ヒロインの孤独と救済』。王立学園入学まで残り2週間。


ローゼは思わず唸った。「ヒロインか」。


ゲームの知識では、ヒロインのリリア・エバーグリーンは、入学前に貴族からのいじめや孤立を経験し、それを王子アランが救済することで恋愛フラグが立つのが王道だった。


「AIは、ローゼの介入がないなら、ヒロインを早めに動かし、王子の役割を強制的に思い出させようとしているな。つまり、ヒロインの孤独をシステムの強制力で加速させるつもりだ」


ローゼは、ヒロインのログを詳細に追った。


LOG:RIRIA_001

現在:平民居住区。状態:強い孤独感と学園への不安。好感度変動:0。


ローゼの行動原理は、「ヒロインの幸福」でも「世界の平和」でもない。ただ「自分の安寧」のみだ。


(ヒロインが王子と予定通りくっつくと、断罪イベントが最終的に発生する。しかし、ヒロインが極端な不幸に陥ると、AIが「システムの暴走」と判断し、世界リセットの強制コマンドが起動しかねない)


ローゼが望むのは、システムが安定しすぎて強制イベントが起きることも、不安定すぎて世界がリセットされることもない、「適度なぬるま湯」の状態だ。


「ヒロインを放置するのは危険。だが、直接会って善行を積むのは、面倒な上に恋愛フラグを呼び込む可能性がある」


ローゼは、最高のニート生活の維持には、ヒロインに「適度な安心感」を与えることが必要だと判断した。


ローゼは、領地の地下室改造に使うはずだった高度な魔導具の一部を、ヒロインが住む平民居住区の孤児院へ、「匿名で」寄付する計画を立てた。


その魔導具とは、魔力効率を自動で調整し、孤児院の暖房や給水システムを安定させるものだった。


CODE:LIFE_SUPPORT_PACK

実行! 目的:ヒロインのストレス値の緩衝。


ローゼの真の目的は、ヒロインのログに「誰かに救済された」という事実を記録させることで、AIが「王子以外の変数」が動いたと錯覚するように仕向けることだった。


「これでヒロインの『孤独フラグ』が緩衝されれば、AI_MANAGERは『王子の救援』を強制する緊急性を失う。結果として、王子は王都で仕事に集中し、私に接触する機会を失う。これが、間接的な引きこもり戦略だ」


ローゼは、優雅な令嬢の姿からは想像もつかないほど、冷徹なロジックで世界を操縦し始めた。


数日後、ローゼの指示を受けた専門職人たちにより、地下室の改造は完了した。


埃まみれの古文書庫の裏に、外界とは完全に遮断された、暖かく清潔で、強力な魔力に満ちた空間が誕生した。壁には高性能な通信魔導具が並び、ローゼはこれで領地外の情報をリアルタイムで監視できる。


ローゼは、改造が完了した地下室のソファに腰掛けた。そこは、最強の防御力と最高の快適性を兼ね備えた、彼女だけの「デバッグルーム」である。


「よし。これで、どんなイベントが来ようと、この場所からなら対応できる」


ローゼの視界には、ヒロインのログが流れていた。


LOG:RIRIA_001

状態:強い孤独感 → 不安の緩衝。王子の救援を待たず、ストレス値が低下。


SYSTEM:AI_MANAGER

警告:イベント『ヒロインの孤独と救済』、進行速度が遅延。原因:不明な外部変数の介入。


ローゼは満足げに微笑んだ。


「不明な外部変数、ね。それは、家に引きこもって、快適なQOLを追求している、この私よ」


彼女の戦いは、この「デバッグルーム」から、さらに深く、世界のシステム内部へと侵攻していく。

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