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ニート令嬢は断罪拒否、ただし自宅(領地)から出ない。世界は「引きこもりコマンド」で統治する  作者: かげるい


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第7話:強制補正の矛盾と、引きこもり令嬢の必殺コード

ローゼは魔力増幅用の水晶の原石に手をかざし、最後のコードを打ち込んでいた。予備室の湿った空気の中で、ローゼの完璧な令嬢の姿と、彼女の顔に浮かぶゲーム廃人のような集中は、異様なコントラストをなしていた。


(王子アランの『強制補正』は、彼が「ローゼを確保し、正しいルートに乗せる」という役割を果たすためにAI_MANAGERから与えられている。ならば、その確保行動自体が『正しいルート』に反すると認識させれば、システムはエラーを起こすはずだ)


ローゼが考案した「必殺コード」は、王子アランの行動を「正義の味方」から「悪役」へと、システム評価上で矛盾させるものだった。


その時、ローゼの視界に、王子アランが館の応接室から一歩も動いていないことを示すログが流れた。


LOG

17:00:15 第一王子アラン、館内にて待機中。ローゼの『強制排除』を検討中。婚約成立まで残り1時間30分。


「まだいるのか。本当に面倒くさい男だ」


ローゼは憎々しげに呟き、最後の仕上げとして、コードに「真実の情報の偽装」というプロセスを組み込んだ。


ローゼは、溜め込んだ魔力を水晶の原石を通して一気に解放した。領地全体を覆う結界を媒介として、そのコードは館にいる王子アランへ向けて静かに実行された。


CODE:ROLE_DISRUPTER

実行! 対象:第一王子アラン。依存ファイル:『ヒロインの守護者』


PROCESS

王子アランの『ヒロインの守護者』としての役割ログに対し、『現在、王子の行動はヒロインの危機を無視している』という『真実』を強制的に上書き。


これは、王子の記憶や感情を直接操作するチートではない。ローゼが操作したのは、あくまで「AI_MANAGERが王子を評価するためのデータ」だった。


AI_MANAGERが王子の行動を解析する瞬間、そのシステムログには、「王子アランは、ローゼの婚約を強要するために、既に王都で危機に晒されているヒロイン・リリアの救援要請を無視している」という、偽装された『真実』が挿入される。


その瞬間、応接室の王子アランは、突如として強い頭痛に襲われた。


「リリア……?」


彼は婚約文書を握りしめたまま、「自分が今、最も守るべき存在を蔑ろにしている」という、システム的な矛盾に苛まれた。王子自身には理由が分からない。しかし、彼の「正義」という役割を司る部分が、激しく警鐘を鳴らし始めたのだ。


SYSTEM:AI_MANAGER

警告! 王子アランの行動と役割に重大な矛盾が発生! システムの安定性が低下。


CODE:FORCE_AUTHORITY

状態:不安定化。依存ファイル:『ヒロインの守護者』との矛盾により、実行不可能。


王子アランの身体から、先ほどまで放射されていた「強制的な権威」の魔力が、水が引くように消えていった。そして、ローゼの視界には、彼女が待ち望んでいたログが流れた。


LOG

婚約の強制執行フラグ、100% → 0% へ解除!


EVENT

『婚約の強制執行』イベント、システムエラーにより強制終了。


SYSTEM:AI_MANAGER

端末アラン・ムーンブルック、不安定な状態にあるため、王都への緊急帰還を推奨。


ローゼは大きく息を吐き、ソファに崩れ落ちた。勝利だった。自宅から一歩も出ずに、世界のシステムをハッキングし、最大の危機を回避したのだ。


数分後、館の玄関から、王子アランが従者に支えられながら、困惑と苦悩に満ちた表情で馬車に乗り込む音が聞こえた。彼はローゼへの怒りよりも、「何を守るべきか」という自身の役割の矛盾に、打ちのめされていた。


ローゼは再び自室に戻り、扉を固く閉めた。執事のアルフレッドが、恐る恐る王子の退去を報告してきたが、ローゼはただ一言、「ご苦労様でした。わたくしは『精神集中』を終えます」と告げ、完璧な令嬢の笑顔で彼を退けた。


誰もいなくなった部屋で、ローゼは窓の外の広大な領地を見渡した。


「ふう。これで一応、ニート生活を破壊する最大の脅威は去った。今日の勝利は、『外出する面倒くささ』に対する、『自宅からの遠隔操作』の勝利だ」


ローゼの目的は達成された。しかし、彼女の視界には、AI_MANAGERから、まるで遺言のような、別のログが表示されていた。


WARNING

ローゼ・クリスタル・アストライアの行動は、世界の安定を著しく損なう。


SYSTEM:AI_MANAGER

次なる補正イベントは、より予測不能かつ強力なものとなります。


ローゼはそれを読んで、少しだけ顔を引き締めた。


「面倒くさい。まあいい。どうせ、私の安寧を邪魔する奴は、誰だろうと敵だ」


彼女はデスクの上にあった、領地内の食料庫と趣味の地下室の設計図を手に取った。システムの警告など、とりあえず無視して構わない。今は、次なる長い引きこもり生活のための、生活の質(QOL)向上計画を優先させるべきだった。


ローゼの、世界を相手にした自宅警備は、この「婚約回避」を突破したことで、新たなステージへと移行した。

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