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ニート令嬢は断罪拒否、ただし自宅(領地)から出ない。世界は「引きこもりコマンド」で統治する  作者: かげるい


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第6話:執着と解析。ニート令嬢の復讐計画

ローゼ・クリスタル・アストライアは、邸宅の図面上にも使用人の記録にも存在しない、古文書庫の裏にある「魔力駆動室の予備室」に身を潜めていた。床板は古く、埃が舞い上がっている。彼女の豪華なローブには、優雅な令嬢にはあるまじき塵が付着していたが、ローゼは気にしなかった。


(くそっ。私の完璧な引きこもり計画を、強制執行というクソ機能で破壊しやがって!)


疲労困憊ではあったが、彼女の怒りは「肉体的な苦痛」ではなく「精神的な不快」に起因していた。ニートにとって、予測不能な事態や計画の破綻ほどストレスの溜まるものはない。ローゼの紫水晶の瞳は、まるでゲームの難敵に敗れた廃人のように、闘志に満ちていた。


LOG

16:05:58 第一王子アラン、館の応接室にて待機中。強制補正継続。


ローゼの肉体はまだ微かに震えていたが、彼女の頭脳は冷静に機能していた。


(あの王子の権威は、単なる魔力じゃない。システムが定義した役割を無理やり実行させるための強制スクリプトだ。文書のオーラを消しても、王子自身が権威の端末ターミナルとして機能し続けた)


ローゼは、【LOG・READER】を集中させ、遠くの王子のステータスログをさらに深く読み込んだ。


CODE:FORCE_AUTHORITY

状態:実行中。依存ファイル:『イベント:断罪のトリガー』


AI_MANAGER

意図:ローゼの行動が、世界システムにとって不安定要因バグであるため、定められた『断罪ルート』に強制的に引き戻し、システムの安定化を維持すること。


「やはりか。AI_MANAGERの目的は世界の安定。そのために、ローゼをシナリオ通りの場所に配置しようとしている」


ローゼにとって、「世界の安定」などどうでもいい。彼女の「安定」とは、誰にも邪魔されない快適な引きこもりである。


ローゼは埃まみれの床に地図を広げた。優雅な指先で、彼女は王都と公爵領の位置、そして学園の位置を指し示した。


(AI_MANAGERは「定められた安定ルート」を信仰している。そのルートは、ヒロインが王子と出会い、ローゼが悪役としての役割を果たすことで成立する)


しかし、ローゼは気づいた。AI_MANAGERがローゼを急いで王都へ連れ戻そうとするのは、ヒロインの成長が遅れているからではないか。


LOG

ヒロイン・リリア・エバーグリーン、王立学園入学まで残り1ヶ月。好感度変動:0。


「ビンゴだ。システムは、断罪イベントが起きる前に婚約を成立させ、ローゼを王都に「確保」しておきたいんだ」


婚約成立後の王都での社交界こそが、ローゼを本格的な悪役として機能させ、ヒロインとの確執フラグを強制的に立たせる場所だからだ。


ローゼは深く考えた。王子アランの『強制補正』は、『イベント:断罪のトリガー』というファイルに依存している。そのトリガーを実行する動機が、AI_MANAGERのロジックから外れれば、王子への強制力は不安定になるのではないか?


ローゼは、物理的な衝突という面倒な方法は完全に放棄した。次に打つべきは、ローゼの自宅から実行可能な、システムへの論理的な反撃だ。


「よし。王子を物理的に追い出すのは面倒で時間がかかる。だが、王子の存在価値を、AI_MANAGERのロジック内で『不安定な端末』として評価させることはできる」


ローゼは、古文書庫から埃を被ったまま放置されていた魔力増幅用の水晶の原石を見つけ出した。それは、公爵家が代々伝えてきたとされる、魔力の記憶媒体だった。ローゼは、それを自身の【コードウェル・コマンド】に接続した。


そして、ローゼの瞳に、新しい復讐コードの設計図が浮かび上がる。


そのコードは、王子の心に直接干渉するものではない。代わりに、王子の「強制補正」の基礎となっている『王子の役割(ヒロインの守護者)』というデータ自体を、AI_MANAGERの内部評価基準から外すことを目的とした。


「王子が今、この領地にいるのは、ローゼを確保し、王子の役割(正しいルート)を果たすため。ならば、ローゼを追いかける行為そのものが、王子の役割に反するとAI_MANAGERに錯覚させればいい」


ローゼは、魔力増幅水晶に微細な魔力を流し込み始めた。その顔は、優雅な令嬢ではなく、徹夜明けでサーバーの脆弱性を突き止めた廃人のそれだった。


「婚約の強制執行? 上等だ。私は『婚約を邪魔する者』という役割を、別の誰かに書き換える。AI_MANAGERよ、貴様が信じる『正しいルート』とは何か、見せてやる」


彼女の計画は、王子アランの心に、この世界で最も不快な「矛盾」を植え付けるという、ニートの怨念にも似た、静かで凄惨なものだった。ローゼの瞳の奥で、クリスタルのような魔力の光が、システムへの復讐を誓うように瞬いた。

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