第40話:絶対的管理者の復権と、自宅防衛システムの緊急再構築
リリアの客室。ローゼは、涙を流しながらも管理者としての意識を強制的に再起動させた。カイルが振り下ろした剣は、通信魔導具の一部機能を破壊したが、ローゼの自宅防衛の生命線を完全に断つことはできなかった。
ローゼの女性の身体は涙を止められないが、その目には感情の読み取れない冷酷な光が宿っていた。
ローゼ(管理者):「アルフレッド。カイルの論理は崩壊した。リリアに彼の搬出を手伝わせろ。感情をシステム的な武器として使用した『感情の報復コード』は、一時停止。感情の非効率な学習は、システム再構築後に再処理する」
ローゼは、「面倒な感情」の処理を先送りし、論理的な効率を最優先に戻した。
ローゼ(管理者):「最優先事項。最高の座椅子は修復不可能。QOLの欠損は自宅防衛システムの致命的な欠陥だ。そして、通信魔導具の演算能力が50%低下している。自宅の安寧が危機的状態にある」
アルフレッドは、カイルの処理とリリアへの適切な指示を外部で遂行しつつ、ローゼの指令に応えた。
ローゼは、安寧の欠損という致命的な欠陥を補うため、システム再構築の最優先事項として「最高の座椅子 Ver.2.0」の設計に取り掛かった。
(最高の座椅子を失った今、システム再構築はQOLの回復に直結する絶対的な義務だ。座椅子こそ、自宅防衛システムのコアインターフェースであり、ニートの魂の安息の地である!)
ローゼは、無限魔力炉の無尽蔵な魔力を前提に、これまでのデータとTSの葛藤を全て投入した究極の座椅子を設計した。
【DESIGN: ULTIMATE_QOL_THRONE_2.0】
機能:無重力浮揚機構: 座位姿勢を最も快適な角度で自動調整し、長時間の作業による肉体的負荷をゼロにする。
感情バリアシステム: ローゼの女性の身体に流れ込む外部からの感情(リリアの調律魔力など)や内部の不必要な衝動(優雅さへの欲求など)を自動でフィルタリングする。
広域防衛インターフェース: 座椅子に座ったまま、別邸全体の防御システムを指先一つで操作できる、完全一体型インターフェース。
資材要求:希少金属「静寂のアダマンタイト」: 感情バリアシステムのコア素材。王国の辺境にある旧魔導技術採掘場にのみ存在する。
ローゼは、最高の座椅子 Ver.2.0のコア素材である「静寂のアダマンタイト」の存在座標を確認し、絶望的なシステムエラーに直面した。
(資材が、別邸の敷地の外にあるだと!? 外出は敗北! ニートの哲学に反する! だが、最高の座椅子がなければQOLの回復は不可能……!)
ローゼは、ニートの哲学を最大限に捻じ曲げることで、この矛盾を論理的に処理した。
ローゼ(管理者):「私が外出するのではない。私の自宅防衛システムが、資材の座標まで『出張』するのだ!」
ローゼは、無限魔力炉の力と失われた座椅子の残存技術を利用し、「出張防衛システム」の設計を開始した。これは、ローゼが地下要塞に居ながら、採掘場全体を自宅防衛システムの拡張エリアとしてリモートで支配する計画だった。
ローゼが自宅防衛システムの再構築に集中する中、外部の脅威が再び、そしてより直接的な形で別邸に迫っていた。
カイルが精神的に崩壊し戦線離脱したことで、王子アランの護衛ポジションが空席となった。システム管理者(AI)は、ローゼへの新たな干渉者をその穴に送り込むことを決定した。
LOG:AI_MANAGER
状態: ローゼへの「感情の干渉」が一時停止。新たな『物理的な干渉者』が必要。
対象: アベル・ヴァイス。王都騎士団の若きエリート。「任務遂行」の論理に深く支配されている。
イベント: 王子アランの「献上」が未遂に終わったため、『献上品護衛』の名目で別邸へ強制接近。
ローゼの通信魔導具に、新たな脅威である騎士アベルの接近ログが表示された。彼はカイルのような非効率な裏技ではなく、「任務遂行」という絶対的な論理で動く、管理者ローゼにとって最も厄介なタイプの論理的な敵だった。
アベルの接近ログ: 「任務達成率100%」「感情介入度0%」という、ローゼの管理者思考と酷似したパラメーターを示していた。
ローゼは、最高の座椅子を失った客室で、新たな論理的な敵の接近を確認した。
ローゼ(管理者):「任務遂行100%だと? 感情を持たないロボットか……。私と同じ管理者思考を持つ敵。最も予測しやすいが、最も排除が困難だ」
その時、花瓶の破片を片付けていたリリアが、ローゼの涙の跡が残る床の一部を、無意識に調律していた。
リリア(内面の調律): (ローゼ様の涙が、この床に残っている……。この温かい魔力こそが、ローゼ様の冷たさを溶かす鍵……)
リリアの調律能力は、ローゼの「絶対的管理者」の論理回路から完全に認識外の場所(床の微細な魔力)に、ローゼを攻略するための『人間的な鍵』を無意識に仕込み始めていた。
ローゼは、「管理者」として論理的な敵への対処に集中するあまり、リリアの「感情によるシステムキー」という最も非効率で人間的な盲点に、全く気づいていなかった。ローゼの自宅防衛戦は、論理と非論理、管理者と感情の究極の対決へと進む。
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