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ニート令嬢は断罪拒否、ただし自宅(領地)から出ない。世界は「引きこもりコマンド」で統治する  作者: かげるい


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第4話:婚約者という名のシステム補正と、自宅からの遠隔拒否

ローゼが領地内の結界とトラップの最終チェックを終え、ようやく自室の快適なソファに身を沈めたときだった。


「ローゼ様、大変申し訳ございません!」


使用人の入室を完全に拒否する彼女の部屋の扉が、控えめながらも焦燥感を滲ませるノックと共に開けられた。執事のアルフレッドが、ローゼの厳命である【対人回避】の指示に逆らう形で入室してきたのだ。


ローゼは微かに顔を顰めた。彼の顔は、滅多に見せない焦りの色に染まり、高級な執事服の襟元すら乱れている。


「外から、第一王子アラン・ムーンブルック殿下がお見えです。緊急かつ重大なご用件とのことですが、いかがいたしましょうか?」


その言葉と同時に、ローゼの視界には、青いログが血のように鮮やかに流れた。


LOG

15:30:10 第一王子アラン、公爵領に到達。イベント:『婚約の強制執行』フラグ、98%へ上昇。


SYSTEM:AI_MANAGER

婚約成功時、ローゼの領地外への強制移動(王都への転居)が発生します。


ローゼは一瞬にして血の気が引くのを感じた。


「は? 婚約? 強制執行?」


王子との婚約は、貴族社会における最高の栄誉だ。しかし、ローゼにとっては、王都の社交界という地獄への転居、そして引きこもり生活の完全破壊を意味する。


(ありえない! クソゲーにも程がある! 王子との結婚なんて、ニートの死活問題だぞ!)


男性の魂を持つ小森拓海は、女性の身体になったことよりも、自由な引きこもり生活が脅かされることの方が、遥かに大きな危機だと認識した。ローゼの表情は、完璧な令嬢の仮面の下で、憎悪に近いほどの焦燥に歪む。


「アルフレッド、殿下をここへ案内するつもり?」


「い、いえ! ですが、殿下は国王陛下の名代として、ローゼ様との正式な婚約文書を携えております。これを門前払いすれば、公爵家が――」


王子の怒号と、王家の権威。それこそが、この世界で最も強力な強制イベントのトリガーだ。


ローゼは冷静を装うために、ゆっくりとソファから立ち上がった。窓の外に目を向けると、アストライア公爵領の正門の前に、騎乗した王子アランの姿が見えた。彼の横顔は、ゲーム内で見たどのスチルよりも真剣で、「イベントを強制的に遂行する」というシステムの強烈な意志を感じさせた。


「会う? 直接拒否する?」


ローゼは内心で自問した。直接会えば、王子のカリスマと、女性の身体になったローゼの「潜在的な恋愛フラグ」が強制的に起動しかねない。対面拒否という手間は、ニートにとって最大の負担だ。


ローゼの頭脳がフル回転した。前世のゲームで、最強のイベントを回避する裏技を検索するように。


CODE:AURA_DISRUPTION

発動可能。対象:文書。


視界に再び現れた青いログが、打開策を示唆した。


「婚約文書……」


ローゼは静かに執事のアルフレッドに目を向けた。


「アルフレッド。わたくしは今、『精神集中』の最終段階にあり、一歩も部屋を出ることはできない。いい? 殿下に、わたくしの言葉を一字一句、正確に伝えるのよ」


ローゼは、冷静な令嬢の表情を浮かべながら、アルフレッドに耳打ちした。


「『わたくしは殿下との婚約を断固として拒否いたします。ただし、その文書は国王陛下の権威を尊重し、この公爵家内に一度だけ届けさせるようお伝えなさい』と」


ローゼは、「拒否」という言葉を、あえて令嬢の最高の権威をもって王子にぶつけた。そして、「文書を届けさせる」という一見、譲歩に見える行動が、彼女のシステムハッキングの罠の第一歩だった。


アルフレッドは王子の逆鱗に触れることを恐れ、顔面蒼白になりながらも、ローゼの指示を遂行すべく、震える足で部屋を後にした。


ローゼは窓に張り付いたまま、自宅警備員として、世界を相手に最初の戦いを挑むべく、次のコードを頭の中で記述し始めた。


(さあ、王子。その文書が、ただの羊皮紙に成り下がる様を、自宅から見物させてもらうぞ)


彼女の瞳は、クリスタルのような冷徹な光を放っていた。

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