第31話:感情変質と執事の共闘
ローゼは、『ニートの自己嫌悪コード』で感情を鎮静させたはずだったが、AI_MANAGERが強制的に再ルーティングした『女性の魅力』の魔力経路は、ローゼの内なる意識を侵食し始めていた。
ローゼは、最高の座椅子に座り、リモート活動のコードを組んでいる最中に、システム的な違和感を覚えた。
(なぜだ? なぜ、この地下室の空気が粗末に感じられる、以前は最高の安寧だったのに……)
ローゼの意識に、「公爵令嬢たるもの、清潔で優雅な空間にいるべきだ」という社会的役割に基づく違和感が、システム的な強制力をもって湧き上がってきた。
さらに、ローゼは通信魔導具を通じてリリアの活動を監視している際に、女性特有の感情をシステム的に認識し始めた。
(リリアはあんな地味なドレスを着て、私の名の布教活動をしているのか……。いや、待て!なぜ私は、他人のドレスを『地味』だと判断している? 前世の私は、他人の服装など興味なかったはず! これは、女性の身体が持つ『優雅さへのこだわり』を、AIが無理やり起動させている……!)
ローゼは、ニートの魂と女性の役割というシステム的な矛盾に引き裂かれ、強い吐き気と精神的な混乱を覚えた。
その時、システムの影響から覚醒した執事アルフレッドが、音もなく地下デバッグルームの扉をノックした。彼は、ローゼの真の目的である「安寧」を守るため、自発的な行動を開始していた。
「ローゼ様、システムエラーと王子の異常な接近から、真の安寧を得るには組織的な支援が必要です。私が、ローゼ様のリモート活動における全ての物理的・現実的な面倒事を引き受けます」
アルフレッドは、ローゼのリモートPR活動(慈善活動の捏造)が、王都の貴族たちに「ローゼは反省し、優雅な慈善活動を始めた」と誤認させる絶好の機会だと分析していた。
「王都には、ローゼ様の『新たな活動』に関心を持つ者が現れ始めています。これを無害な方向へ誘導し、ローゼ様の平和な引きこもりを揺るがせないようにしなければなりません」
ローゼは、最高の座椅子から通信魔導具を操作し、アルフレッドへすべての情報戦の権限を委譲した。
(面倒事を全て押し付けられる……! これこそ、最高のニート環境だ! アルフレッド、お前こそ最高の執事だよ!)
ローゼとアルフレッドの間に、システムの影響を超えた、「ニートの安寧」という共通の目的に基づく共闘体制が成立した。
アルフレッドは、リリアが発信するローゼの偽情報を、現実の貴族社会に最も自然な形で浸透させる情報戦を開始した。
しかし、ローゼの内面的な変化は進行していた。
ローゼは、通信魔導具でアルフレッドに指示を出しながら、無意識に「装飾品の配置」や「地下室の配色」について具体的な指示を出し始めていた。
(なぜ、私は『部屋の模様替え』を気にしているんだ!? ニートの要塞に美観など不要だ! 効率が全てだ! クソッ、この身体は、生存に不必要な社会的役割を私に強制しようとしているのか!)
ローゼは、身体に宿る女性の役割が、「部屋を美しく保つ」「優雅な立ち振る舞いをする」といった面倒な衝動を、無意識のうちに引き起こしていることに戦慄した。彼女のニートのアイデンティティと、女性の器が持つ社会的規範が、脳内で激しく衝突していた。
アルフレッドの巧妙な情報操作により、ローゼは王都の貴族たちから「反省し、静かに努力する公爵令嬢」として少しずつ認識され始めていた。
しかし、このポジティブな情報が、予期せぬ関心を引き起こした。
LOG:NOBLE_FACTION_001
認識: ローゼの慈善活動は、反王子派の旗印として利用可能。
行動目標: 別邸への「慈善活動への協力」を名目とした表敬訪問を計画中。
ローゼの「最も面倒ではない活動」が、最も面倒な「人間関係の再構築」という形で、新たな危機を呼び込んでしまった。ローゼは、最高の座椅子に座ったまま、社会の複雑な波に巻き込まれ始めていた。
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