第26話:最高効率を求めるお風呂
ローゼは、リリアとアルフレッドの間で発生した「システム的な恋愛フラグ」のログを解析し、頭を抱えていた。恋愛イベントの発生は、AI_MANAGERの次の行動を誘発する最大の面倒事である。
(くそっ! なぜ私が自分の要塞内で恋愛イベントの監視をしなければならないんだ! ニートは恋愛から最も遠い存在で、そうであるべきなのに!)
ローゼは、「恋愛イベントの強制停止コード」の設計に取り掛かったが、長期的な引きこもり生活に必要な、もう一つの切実な問題に直面した。
それは、衛生面である。
「この地下デバッグルームは、最高のQOLのためにシステム面は完璧だが、物理的な快適さが足りない。特に、お風呂だ。転移から数日が経過し、この身体の維持にも限界がある……」
ローゼは、女性の身体が持つ生理的な面倒くささに直面していた。前世のニート男であれば、数日のシャワーをサボることは許容範囲だったが、公爵令嬢ローゼの優雅な肉体は、それを許さなかった。
(この身体は、前世の男の肉体よりも遥かに面倒くさい! 毎日優雅に清潔に保たなければ、健康面だけでなく、私の公爵令嬢としての権威にも関わる……! ニートにとって最悪の労力だ!)
ローゼは、お風呂という面倒な作業を「最高効率」で済ませるためのシステムを設計した。それは、別邸の予備魔力炉を利用した「瞬間高温浴槽生成システム」だった。
CODE:INSTANT_BATH
実行準備!
目的: 浴槽のお湯の準備時間をゼロにし、入浴時間を5分以内に抑える。
しかし、このシステムは地上階の浴場を使わなければならない。ローゼの地下デバッグルームはシステム的には完璧だが、浴槽という物理的な設備はなかった。
(地上へ出るのは最大の屈辱だ。しかも、「愛の波動」の影響で狂信的な忠誠心を持つ使用人がいる。物理的な非接触の維持が、最も難しい「お風呂イベント」だ!)
ローゼが地下で入浴コードの最終調整をしていたその時、地上階の浴場では、執事アルフレッドが狂信的な献身を発揮していた。
アルフレッドは、ローゼの「愛の波動」の影響で、ローゼの全ての行動を『ローゼ様のQOL向上という聖なる儀式』だと認識していた。
(ローゼ様は、神の啓示を受けるために、最高の清潔さを保たねばならない! 私がこの愛をもって、完璧な浴場を準備せねば!)
アルフレッドは、ローゼの入浴時間を把握するため、ローゼが過去に使用していた入浴時間管理のログを解析し、ローゼの「お風呂イベント」をシステム的な任務として実行しようとしていた。
ローゼは、通信魔導具を通じて、アルフレッドが浴場を監視しているログを見て、激しい羞恥心に襲われた。
ローゼは、「INSTANT_BATH」コードを起動させ、音もなく地下から地上階の浴場へ忍び込んだ。浴槽は瞬間的に最適な温度のお湯で満たされた。
ローゼは、最高の効率で入浴を済ませ、羞恥心から顔を紅潮させながら急いで身体を拭いていた。
その時、ローゼの「愛の波動」の副作用が最悪の形で現れた。
アルフレッドが、ローゼの入浴完了時間のシステム予測に基づき、「完璧な清潔さの維持」という献身的な使命のために、バスタオルと優雅なバスローブを持って浴場の扉をノックもせずに開けたのだ。
「ローゼ様! 最高の清潔さを保つため、このアルフレッドがバスタオルを完璧なタイミングでお持ちしました!」
ローゼ(中身は男)は、女性の裸体を執事に見られたという極限の羞恥に襲われた。それは、ニートの美学だけでなく、前世の男としての尊厳を完全に破壊する瞬間だった。
(見られた!? この身体のせいで、こんな屈辱を味わうなんて! 消えたい! 今すぐ世界から消えて引きこもりたい!)
ローゼは、羞恥と怒りで、浴槽の壁を叩きつけた。彼女の純粋な感情エネルギーが、浴場全体に制御不能な魔力として放出された。
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