第25話:王子の心理崩壊と、ニートの自己嫌悪
ローゼの「愛と忠誠の要塞」は、王子アランの軍事力による攻撃を完全に無効化した。魔導飛行艇は燃料切れにより撤退を余儀なくされ、別邸の上空には静寂が戻った。
飛行艇の艦橋で、王子アランは膝から崩れ落ちた。彼の目には、無限に回復する結界と、それを守るかのように穏やかな光を放つ別邸の姿が焼き付いていた。
「な、なぜだ……。私の王としての力が、ローゼの愛の結界に……届かない?」
AI_MANAGERの『強制補正』により、ローゼへの執着を「王国の秩序回復」だと信じ込んでいた王子は、ローゼの「愛」に王権が敗北したと錯覚した。この事実は、彼の精神の根幹を破壊した。
LOG:PRINCE_ALAN
状態:心理的ショックにより、『王としての役割』に重大なエラー発生。
認識: ローゼこそが「真実の愛」の体現者であり、自分は「愛を理解しない愚か者」である。
王子アランのローゼへの感情は、「支配」から「狂気的な憧れと自己否定」へと歪んだ。彼は、ローゼに許しを請うため、全ての権限を放棄してでもローゼに会おうとする、新たな狂気のルートへ突入した。
地下のデバッグルームで、ローゼは通信魔導具に表示された王子の心理ログを確認し、完璧な勝利を確信した。
(よし。王子の狂気の執着は自己否定へと転じた。これで奴は、当分、私に接触する勇気を失うだろう。最大の面倒事、回避成功だ!)
しかし、ローゼの心は晴れなかった。最高のニートの安寧を手に入れたにもかかわらず、彼女は強い自己嫌悪に苛まれていた。
ニートの哲学は、「最小労力で、他人との感情的な接触を避ける」ことにある。しかし、彼女は今、最も感情的なエネルギー(愛と忠誠)を大量に消費する、最も面倒くさい手段で勝利した。
「この女性の身体とAIの強制は、私のニート哲学を根本から破壊しようとしている。『愛』なんてものを扱わされるなんて、屈辱だ!」
ローゼは、女性の身体という「器」が、男の魂が持つニートとしての美学と嫌悪感を、激しく揺さぶることに気づき始めた。
王子が魔導飛行艇で撤退する直前、彼は最後の行動を起こした。それは、ローゼの別邸周辺に、魔力の増幅効果を持つ無数の魔導具をばら撒くことだった。
王子の意図は「ローゼへの愛を込めた捧げ物」だったが、この行動はシステム的には最悪の干渉となった。
ERROR:AFFECTIVE_BLANKET
外部魔力干渉を検知!
状態:王子がばら撒いた魔導具が、「愛の波動」を増幅し、別邸全体に過剰な影響を及ぼし始めました。
影響:使用人の忠誠度が狂信を超え、リリアの能力にも予期せぬ変化が発生中。
ローゼは、自分のコードと王子の魔導具が組み合わさった結果、制御不能な状況が生まれたことに、再び冷や汗をかいた。
地上階では、愛の波動の増幅により、ヒロイン・リリアと執事アルフレッドの間で、異常な化学反応が起こり始めていた。
アルフレッドのローゼへの狂信的な忠誠は、「ローゼ様が愛する全てのもの」を守るという謎の使命感へと広がっていった。
そして、リリアはローゼの「愛の波動」の影響下で、「この屋敷の平和な空気」を無意識に調律している。
その結果、アルフレッドはリリアを「ローゼ様の安寧に必要な、無垢で純粋な存在」として、システム的に守護すべき対象だと認識し始めた。
LOG:ALFRED_001
リリアへの感情:『保護』『献身』
LOG:RIRIA_001
アルフレッドへの認識:『システムの安定』
このシステム的な愛情と献身は、乙女ゲームの恋愛ルートとは似て非なる、ローゼのコードが作り出した新たな面倒な人間関係の始まりだった。ローゼは、自宅に引きこもることで、自宅内に恋愛フラグを立てるという、最悪の事態を生み出してしまった。
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