第23話:ニートの「愛の波動」コードと、王子の急接近
ローゼは、「愛の波動」という、最も反ニート的な概念をコード化するという屈辱的な作業を、保存食料と魔力ゼリーを消費しながら強行した。彼女のニートの哲学が悲鳴を上げる。
(愛? 興味ない。波動? 面倒くさい。だが、この屈辱的なコードが引きこもり要塞の安寧を守る唯一の方法だ。我慢だ、ニートの魂よ!)
ローゼは、乙女ゲーム知識に基づき、システムが『ノイズ』ではなく『絶対的な安定』と認識する「愛情の周波数」を解析し、別邸の魔力経路を通じて、地上階のリリアの周囲へ放出する。
CODE:AFFECTIVE_BLANKET
実行! 目的:リリアの調律能力の修正対象を、システム的に『無』にする。
リリアが休む客室の周囲の魔力フィールドは、一瞬にして極度の安定を取り戻した。リリア自身は何も気づいていないが、彼女の無意識の調律能力は、周囲の魔力が完璧なバランスにあると認識し、再び静かに停止した。
LOG:RIRIA_001
状態:周囲の魔力フィールド、『修復不要』と認識。
ローゼ:ヒロインの脅威、一時的に無力化。
ローゼは、最高の座椅子に深くもたれかかり、勝利を確信した。
「ふう。これで、外部からの追跡も、内部からのシステム干渉も、一時的かも知れないが防げた。最高の引きこもり時間の始まりだ!」
ローゼの安堵は、わずか数秒で打ち砕かれた。彼女が構築した「愛の波動」コードが、予想外のシステムエラーを引き起こしたのだ。
愛情の波動は、本来ヒロインの能力を欺くための偽装信号だったが、別邸全体の魔力経路を通じて放たれた結果、建物の魔導システム全体に影響を及ぼし始めた。
ERROR:AFFECTIVE_BLANKET
副作用発生!
対象:別邸の使用人(執事アルフレッドを含む)
症状: ローゼに対する『献身度』『忠誠度』が異常なレベルで上昇。
AI_MANAGER: ローゼへの人間的な接触イベントが、想定外の協力関係へと変化。
ローゼは驚愕した。
(嘘だろ!? 愛の波動が使用人の献身度を上げる!? これでは、彼らは私を崇拝し、私の引きこもりを絶対的に守ろうとする! 人間関係の面倒くささが異常なレベルで増幅するじゃないか!)
過剰な忠誠心は、ローゼにとって「ほどよい距離感」を破壊する最大の面倒事だった。ローゼは、無害化したはずの自宅内で、新たな人間関係の脅威を生み出してしまったのだ。
ローゼが「愛の波動」の副作用に頭を抱えているその時、通信魔導具に赤色の警告ログが点滅した。
これは、カイルが残した「裏技の真実」という断片的な手がかりを、狂気に駆られた王子アランの情報機関が特定し始めたことを示していた。
LOG:PRINCE_ALAN
状態:ローゼの新たな要塞の概略座標を特定。
王子アランの移動速度: 王家の魔導飛行艇を駆使し、異常な速度で進行中。
到達予測:残り2時間以内。
王子は、ローゼを「確保」し、「狂気の執着」を満たすために、国家の軍事力をもってローゼの新たな要塞へ向かっていた。
ローゼは、椅子から立ち上がった。
「馬鹿げている! 公爵令嬢一人を追うために、王子の執着が国家の危機を引き起こしている! 私は自宅に引きこもりたいだけなのに!」
ローゼは、過剰な忠誠心を持つ使用人、無害化されたヒロイン、そして狂気の追跡者である王子という、三重の面倒な脅威に挟まれた。
ローゼは、最高の座椅子と最高のQOLを守るため、最終的な戦略を立てることを決意した。
(この要塞が、王子の軍事力に耐えられるとは思えない。物理的な破壊を防ぐには、最後のチートコードを使うしかない)
ローゼは、乙女ゲーム知識の中でも「最終防衛システム」として知られる、最も危険で大規模なコードを思い出す。それは、王子の追跡と使用人の暴走、そしてヒロインの能力を全て逆手に取る、究極の戦略だった。
「王子の執着、使用人の忠誠心、ヒロインの調律能力……全てをシステム的に再定義し、私の自宅を守るための防衛システムとして利用する!」
ローゼ・クリスタル・アストライアは、ニートの安寧をかけた最後の自宅防衛戦に向け、システムの根幹を揺るがすほどの最終コードの設計に取り掛かった。
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