第15話:地下室の完全隔離と、二つの脅威の接近!
ローゼは、ヒロイン・リリアの持つ「システムの調律」という予測不能な特技に直面し、即座に最終防衛線の構築を決意した。
「ヒロインがシステムのノイズを修正するなら、私はノイズのない空間に引きこもるしかない」
ローゼは、地下のデバッグルーム全体を覆うように、【HOME・DEFENSE】結界を再設定した。この結界は、領地全体の結界から魔力供給を切り離し、この部屋だけの独立した魔力回路で動作するよう設計された。
CODE:ISOLATION_MODE
実行! 目的:デバッグルームを世界のシステムログから完全に切り離す。
結界が作動した瞬間、ローゼの視界の隅に表示されていた青いログの表示が、一瞬だけ途絶えた。ローゼのいる空間だけが、世界のシステムから認識されない「無」の状態となったのだ。これで、リリアの「無意識の調律」が、この部屋に干渉することは不可能になった。
ローゼは、隔離された部屋で、保存用魔導食と高純度魔力ゼリーを手に取り、最高の座椅子に深く身を沈めた。
「よし。私は、自宅から一歩も出ずに、最高の引きこもり要塞を確保した。ここが、私とAI_MANAGERの決戦の舞台だ」
ローゼが地下に引きこもっている間、領地の庭園に転移したヒロイン・リリアは、無意識に「システムの調律」能力を発動させていた。
リリアの周囲に広がる魔力は、ローゼが「時間稼ぎ」のために仕掛けた魔力効率の悪いトラップや、結界の歪みを、優しく撫でるように修正していった。
LOG:HOME_DEFENSE
状態:リリアの調律により、安定性が急速に回復中。
LOG:TRAVEL_DELAYER
状態:魔力吸収フィールド、効果が急激に減衰。
SYSTEM:AI_MANAGER
認識:ヒロインの能力により、ローゼの攪乱コードが次々と無力化されている。
ローゼは、隔離した部屋の通信魔導具を通して、地上のログだけは受信し続けていた。
「くそっ、本当に厄介な能力だ。このままでは、王子アランの遅延トラップまで解除されてしまう!」
リリアの無意識の行動により、ローゼの防衛ラインが次々と崩壊していく。ローゼは、リリアを物理的に排除することは避けたい。それは面倒であり、悪役としての役割をAIに強制されるからだ。
そして、ローゼの焦燥を煽る次のログが届いた。
LOG:KYLE_001
カイル・ブライト
状態:魔力歪みの消失により、移動速度が平時の80%へ急上昇。
目的:「ゲームの裏技データが示す隠し要素」の発見。
到達まで:残り1時間。
リリアの調律能力によって、王子アランの馬車の遅延トラップが解除され、遅れていたモブ騎士カイルが、異常な速度で領地へ向かっているのだ。
「最悪だ! 王子よりも先に、あの『ゲームの裏技』に夢中の騎士が来る!」
ローゼは、カイルが「裏技の提供者」としてローゼに接触すれば、小森拓海としての過去が暴露されかねないことを危惧した。
ローゼは、ヒロインのいる地上とカイルが向かう領地の境界線という、二つの物理的な脅威に、地下のデバッグルームから同時に対応を迫られた。
ローゼは、通信魔導具に表示された領地の地図とログを睨みつけた。
「ヒロインはシステム修復、カイルは私的な記憶の暴露。どちらもニートの安寧を脅かす最大の敵だ」
ローゼは、二つの脅威を同時に無力化するための、究極の「自宅防衛コマンド」の設計に取り掛かった。
(カイルを排除すると、王子が加速する。ヒロインに接触すると、断罪イベントが始まる。……残された手段は一つしかない)
ローゼは、「ヒロインの調律能力」を逆手に取り、「バグ」を仕掛けるのではなく、「ヒロインが調律したくなるような、極めて不自然な『システムの安定』を演出する」という、高度な欺瞞コードの構築を開始した。
「面倒くさい! 全くもって面倒くさい! 世界はなぜ、こんなにも私を外に出したがるのか!」
ローゼ・クリスタル・アストライアの、地下からの世界支配は、今、高度な情報戦とシステムの欺瞞を駆使した、新たな局面へと突入した。
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