第12話:学園への強制入学と、ローゼの「登校拒否」戦略
ローゼが地下のデバッグルームで、長時間座っても疲れない椅子の最終調整を終えた直後のことだった。地上階の館から、執事アルフレッドの焦燥に満ちた声が魔導通信機を介して届いた。
「ローゼ様! 王都から王立学園の学長が、特別な馬車で緊急に到着されました! 拒否しましたが、国王陛下の勅令を携えているとのことです!」
ローゼの視界には、AI_MANAGERのログが鮮やかに点滅した。
LOG
10:00:00 王立学園への強制入学イベント、開始。フラグ:100%。
SYSTEM:AI_MANAGER
意図:ローゼの領地外への強制移動(王都への転居)を完了させ、断罪イベントを確実なものとする。
ローゼは顔を青ざめさせた。以前の婚約強制執行よりも、この「学園への強制入学」の方が、遥かにローゼのニートの魂に深いダメージを与える。
(入学すれば、朝から晩まで集団生活、面倒な人間との交流、そして外出が強制される! それは私にとっての死だ!)
ローゼは即座に指示を出した。
「アルフレッド、学長を応接室で最大級にもてなすのよ。わたくしは今、『学園の学習内容を深く理解するための精神集中』に入った。決して会うことはできないと伝えなさい」
ローゼは、「学園」という敵の存在を認めた上で、「会う面倒」だけは徹底的に回避する姿勢を崩さなかった。
ローゼは急いで、王立学園に関する情報を【LOG・READER】で検索し始めた。
「学園のシステムを停止させる。それが、『登校拒否』を完璧に実行する唯一の方法だ」
ローゼが解析したログによると、王立学園は単なる教育機関ではなく、世界の魔力供給ネットワークの一部であり、その中央に「魔導中枢システム」が稼働していることが判明した。これは、学園内の結界維持、魔導具の運用、そして生徒の魔力管理(出席確認を含む)を担う、極めて重要なシステムだった。
CODE:GAKUEN_SYSTEM_CORE
脆弱性:システム停止時の魔力供給の代替ルートが存在しない。
リスク:学園システムが停止した場合、安全上の理由から全授業が停止し、全生徒が強制的に自宅待機となる。
ローゼの瞳が輝いた。
「これだ! 学園そのものを『機能不全』に陥らせれば、登校は不可能になる。集団生活が嫌なら、集団生活の場そのものをなくせばいい」
ローゼは、王立学園という巨大なシステムに対し、自身の地下のデバッグルームから「バグを仕込む」という、前代未聞のサイバーテロ計画を練り始めた。
ローゼが構築するコードは、学園の「魔導中枢システム」に対し、「システムに致命的なエラーが発生している」という偽装データを送り付け、中枢を安全停止させるものだった。
「学園を物理的に破壊するのは、面倒だし社会的信用を失う。だから、システム的に『今日は休校です』という状態にすればいい」
ローゼは、学園の魔導中枢に接続するためのリモート接続コードを設計し始めた。
CODE:SCHOOL_SHUTDOWN_SIMULATOR
実行予定。
戦略:学園の魔力源に対し、『無限ループの処理要求』を送り付け、中枢の処理能力を意図的にパンクさせる。
これは、前世のニート時代に、オンラインゲームのチート対策サーバーに仕掛けていた「サーバーダウンを装う攻撃」の応用だった。
ローゼは、最高のニート生活を守るため、「世界中の学生の権利」など知ったことではない、という顔でコードを仕上げていった。彼女の集中力は極限に達し、優雅な令嬢の表情は完全に消え去っていた。
その時、ローゼの通信機に、アルフレッド経由で学長の声が繋がれた。
「公爵令嬢ローゼ! 貴女が学園に来ないことは、王国の秩序を乱す! 勅令により、貴女には学園の敷地内にある寮への入居が義務付けられます! 逃れることはできません!」
ローゼは、地下室の冷たい魔導具に手を触れながら、静かに、そして完璧な令嬢の声音で返答した。
「ごきげんよう、学長。わたくしは学園の『平和な教育環境』を尊重いたしますわ。ですが、わたくしの『精神集中』を優先いたします。わたくしが望まない限り、学園に足を踏み入れることはございません」
ローゼは通信を切ると、完成した【CODE: SCHOOL_SHUTDOWN_SIMULATOR】を見つめた。
「集団生活? 登校? 面倒くさい。学園が機能しないなら、誰も登校する必要はない」
ローゼ・クリスタル・アストライアは、自身のニートの権利を守るため、王立学園という国家システムに対し、自宅からのリモートによる全面戦争を宣言した。
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