表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ニート令嬢は断罪拒否、ただし自宅(領地)から出ない。世界は「引きこもりコマンド」で統治する  作者: かげるい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/41

第1話:悪役令嬢、目覚める。ただし、世界よりも入浴が優先だ!!!

視界に飛び込んできたのは、重厚な天蓋付きベッドだった。次に、シルクのシーツと、そこから覗く白く細い、覚えのない腕。


「…………は?」


小森拓海、27歳。無職ニート歴5年。昨夜、徹夜でオンラインゲームのイベントをクリアした達成感と共に意識を失ったはずが、今、全く知らない豪華絢爛な部屋にいた。そして、自分の身体が、どう見ても自分の身体ではないという、理解不能な事実。


思わず飛び起きた拓海は、ベッドを飛び出し、部屋の隅にある磨き上げられた鏡の前に立った。


鏡の中には、アメジスト色の髪を優雅にカールさせ、透き通るような白い肌を持つ絶世の美少女が立っていた。彼女の瞳は冷静な紫水晶だが、今は驚愕に大きく見開かれている。


「うそだろ……俺、死んだのか? で、これは……ローゼ・クリスタル・アストライア?」


ゲーム廃人だった拓海は、この顔を知っていた。プレイしていた乙女ゲーム『ルナ・アメシストの星導』における最悪の悪役令嬢。断罪イベントまで残り三ヶ月の、破滅ルート確定キャラだ。


ローゼの肉体を得たという現実を理解するのに、そう時間はかからなかった。拓海の心は、驚愕と安堵の奇妙な中間で揺れていた。驚愕は、自分の肉体を失ったこと。安堵は、これで仕事探しから永遠に解放されたことだ。


拓海の頭の中で、元ニートとしての「生活の優先順位」が瞬時に構築される。何よりもまず、快適な生活の維持。断罪されて修道院送りや国外追放などという、不慣れな土地での一からの生活構築は絶対に避けたい。


「断罪回避が最優先事項……か。国外追放なんてされたら、快適な引きこもり生活が破壊されるじゃないか。ありえない」


悪役令嬢としての恐怖よりも、面倒くさいことへの嫌悪感が勝った。拓海ローゼの顔に、高貴な令嬢らしからぬ、究極に面倒くさそうな表情が浮かぶ。


その時、ローゼの視界の隅に、青い文字がチカチカと点滅しているのに気づいた。


LOG

12:45:03 王子アラン、ヒロインに挨拶。断罪イベントフラグ、1.2%上昇。


「うわ、本当にログが見える。チート能力か」


これは前世のゲーム解析スキルが異世界で具現化した【コードウェル・コマンド】の一部だろう。ローゼは内心でガッツポーズをした。これさえあれば、破滅ルートを確実に避け、安全な引きこもり生活を維持できる。


まずは身なりを整えようと、部屋を見回す。ローゼはアストライア公爵家の令嬢。部屋は広大で、部屋の奥には煌びやかな装飾が施された扉があった。


「よし、情報収集の前に、まずはこれをクリアしないと。TS後の最初の難関だ」


拓海ローゼは覚悟を決めてその扉を開いた。そこには、大理石の床に囲まれた巨大な浴槽が鎮座していた。そう、入浴である。


浴槽には、ふわりと湯気が立ちのぼり、心地よいアロマが香っている。ローゼは、自分の細い指先をそっと湯に触れさせた。


「やばい。このぬるぬるした肌触り、本当に女の体だ……」


心理描写は複雑だった。男性としての記憶を持つ拓海は、鏡を見るたびに、自分の女性の身体に違和感と戸惑いを感じている。しかし、それ以上に、湯の誘惑が強かった。快適なニート生活のためには、ストレス解消と清潔感は必須。入浴は絶対的な優先事項だ。


ローゼは令嬢の優雅なローブを脱ぎ捨て、湯船に身を沈めた。


「ふぅ……」


至福の溜息が漏れる。湯に溶け込むアロマの香りと、絹のような肌触りのローゼの身体。頭の中では「やめろ、俺は男だぞ!」という声が響いていたが、身体は正直だった。


湯に浸かっていると、ローゼの視界に、再び青いログが流れた。


INFO

ユーザー:ローゼ・クリスタル・アストライア、ストレス値:-50。HP:+30。


SKILLGET

【対人回避:LV1】


「……風呂に入っただけでスキル獲得かよ。ニートの習性がスキルになる世界なのか」


ローゼは湯船の中で腕を組み、ニヤリと笑った。この世界は、面倒なことばかりではないかもしれない。


入浴を終えたローゼは、ローブを纏い、公爵令嬢としての完璧な外見を取り戻した。髪から滴る水滴を、窓から差し込む朝日の光が反射させ、まるでクリスタルのように輝かせた。


「よし、次は断罪回避の戦略だ」


拓海の頭脳が、ゲーム廃人らしい論理的な思考に戻る。王道的な断罪回避ルートは「善行を積むこと」だが、ローゼはそれを即座に否定した。


(ログに「フラグ補正」って出た。善行を積んでも、この世界は俺を断罪ルートに引き戻そうとする。王道はめんどくさいし、時間の無駄だ。)


ローゼは静かに部屋の隅にあるドレッサーの引き出しを開け、筆記用具を取り出した。


「断罪? 結構。俺は絶対に領地から出ない。王族がどうだろうと知ったこっちゃない。領地で引きこもって自給自足できれば、勝てる」


そして、彼女の瞳に、システムログが再び流れ始める。


CODE:LOCALE_ASTRAIA_001

現在:辺境の貧しい土地。魔力効率:35%


CODE:HOME_DEFENSE

発動可能。最低限の労力で、最大効率の魔力結界構築を提案。


ローゼはペンを握り、優雅な令嬢の筆跡で、紙に数式と魔法陣の設計図を書き始めた。それは、前世のゲーム解析とニート時代の「資源の最小限活用術」が融合した、究極の自宅防御システムの設計図だった。


ローゼの最初の仕事は、領地を世界最強の「ニート要塞」にすること。


「さてと。まずは結界を二重に張って、庭に自動迎撃トラップを仕掛けて……。今日の引きこもりは、忙しくなりそうだ」


ローゼ・クリスタル・アストライアは、優雅な令嬢の姿で、ニートの信念に基づいた世界のシステム改変という壮大な戦いを、自室のデスクから静かに開始した。

読んでくれた皆さん、ありがとうございます! 感想やブックマークや評価も良かったらお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ