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それゆけ!パピヨンちゃん!

「滅!」

「悪霊退散!」


 目の前で繰り広げられる、霊力者同士のプライドバトル。普段忘れがちな、吉光の神主見習いという設定をこれでもかと思い出させてくれるその能力に、私と和水は呆気に取られていた。向かってくる僧侶たち相手に、一歩も引いていないのだ。年齢的にはこちらの方が下なのに、大したものだ。


 バチバチと激しく光り輝きながら、吉光のお札と慈念の数珠はぶつかり合っていた。その力は丁度互角といったところか。ただ吉光にとって不利なのは、圧倒的な人数差。慈念と戦っている横で、別の僧侶が私と和水に襲い掛かろうとするのを、結界を張って守ってくれている。このままでは、実力は互角でも人数で押されてしまいそうだ。


「私だって…………!」


 そんな様子を見ていた和水が、意を決して立ち上がる。背に持っていた弓を取り出して、向かってくる僧侶たち目掛けて矢を放つ。真っ直ぐ飛んだ矢は、僧侶の頬を掠めて後ろの木に突き刺さっていた。そして再び、間を空けずに次の矢を手に取り構える。


「これ以上私たちに近付くなら、次はその光った頭を撃ち抜きますわよ!」

「和水かっこいい………!」


 まさかここまで対抗してくるとは思っていなかったのか、僧侶たちが動揺している。思い通りに事が運ばない弟子達に、苛立った様に舌打ちをする和尚の姿が見える。対して私は、何もできないままただ吉光と和水の後ろに隠れていることしかできなかった。そんな自分が自分で嫌になる。私も何かできることをしたいのに、このままでは2人の足を引っ張るだけ…………。


(私も何かできることをしなくちゃ………!)


 2人が時間を稼いでくれている間に、何とか目隠しさんと人形ちゃんを解放できないかと、今一度檻の方へ駆け寄った。試しに光で出来た鉄格子を掴んでみると、バチ!と凄い音と共に手が焼ける様な痛みを感じて慌てて離す。ジワリと火傷のように赤くなった手を見下ろして、とりあえず力技でこの檻を何とかすることは不可能であることが分かった。


「恋白、お前は安全なところへ逃げろ」

「………わ、私だってみんなの役に立ちたい………!」


 私が戦えないことを知っているからか、目隠しさんは逃げる様に言ってくるが、私はそれを拒んだ。みんなが戦っている中自分だけ逃げるなんて、そんなの嫌だ。しかし私が出来ることなんて、この場にはない事も理解している。むしろ逃げた方が、みんなの足を引っ張らずに済むのだろうか。


「私だけ何の役にも立てないなんて………!」

「……………」


 どれだけ檻を観察しても、ここから目隠しさんたちを出す方法なんて見つからない。きっとあの和尚をどうにかしない限りは無理なのだ。でも、私にはその力がない。段々、吉光もスタミナ切れのように慈念に押され始め、和水も持っている矢が底を尽きそうであった。ジリジリと追い詰められていくのを感じる。どうしよう、どうしよう、と、ただ思考が焦っていくだけ。


「恋白!危ない!!」


 吉光の叫びにより、私はすぐ背後に1人の僧侶が迫っていることに気付いた。どうやら吉光と和水の攻防を掻い潜って、そこまで迫ってきていたらしい。目の前で錫杖を振り被るそいつに、私はぎゅっと固く目を閉じた。やっぱり、私には何もできないのかな。せめて抱き抱えているパピヨンちゃんだけでも守らなければと背を向ける。


 その時であった。突然、腕の中にいたパピヨンちゃんが眩く光り輝き出した。その光は眩しくて目を開けていられない程で、他の戦っていた人たちも全員、その光に意識を奪われる。私の腕の中から飛び降りたパピヨンちゃんは、光の中でみるみる体を大きく変化させていき、やがてその光が消えた時には、大きな大きな狛犬のような姿に変貌していた。


「な……………、パピヨンちゃん…………?」


 呆然とする私を守るように立ち塞がるパピヨンちゃん…………基狛犬は、大きく咆哮を上げると口から青い炎を吐き出し、周囲にいた僧侶を一掃した。


「恋白の生命力を吸って化怪たのか………!」

「化怪………!?パピヨンちゃん、あなた化怪れたの!?」


 驚く私に対して、狛犬はパピヨンだった時と同じ様に目をキラキラさせて、嬉しそうに尻尾を振ってきた。じゃれついてきたが、大きさが半端じゃないので吹き飛ばされそうになる。まさかいつの間に私の生命力を吸っていて、いつの間に化怪の力を得ていたのか。


「………お前を守りたいという強い意志が、この犬をそうさせたんだ」

「………パピヨンちゃん………」


 目隠しさんの推測に、私はパピヨンちゃんが愛おしくて堪らなかった。大きいモフモフに抱きついて、ありがとう、と呟くと、「わん!」と一言返ってくる。姿は大きくなっても、その心はパピヨンちゃんのままだ。そして私はパピヨンちゃんから体を離し、狼狽える僧侶たちを指差した。


「さあパピヨンちゃん!いっぱい遊んであげて!上手にできたらまたオヤツあげる!」

「わんわんっ!!!」


 そうして尻尾を振りながら、多数の僧侶たちに戯れ付くパピヨンちゃん。思いもよらぬ展開に、一気に形成は逆転だ。このまま和尚のこともお仕置きして、目隠しさんを取り戻せれば………。


 しかし、そう簡単にはいかなかった。次々と弟子たちが薙ぎ倒されていく中、和尚はあくまでも冷静であった。数珠を手に掛けて、ブツブツとお経を唱える。すると、寺のあちこちに置かれていた石像たちがブルブルと震え、動き出したのだ。


 複数の鴉天狗と、大きな阿形像と吽形像。それらに命が吹き込まれたかのように、ゆっくりと動き出したのである。


「我々に楯突く者には、神の裁きを与えよう」

「像が………動いてる………!?」

「こ………、こんなの聞いてませんわよ!」


 目の前で起こっている夢の様な光景に、私は勿論、吉光も和水もパピヨンちゃんも目を疑った。まさかこの寺の守り神たちと戦わなければならないなんて。強大すぎる相手に絶句する。私たちの前に落とされるその大きな陰に、ごくりと生唾を飲み込む。


「ど、どうしよう…………」

「ああ神様仏様……………」

「目の前で俺たちを捻り潰そうとしてるのが神様ですよ!」


 神頼みを始める和水に突っ込む吉光。私たち、神様と戦うの…………?

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