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百鬼夜行と迦睡斎の真実

 物陰に隠れてひっそりと見守る迦睡斎は、放課後に見た時とは全く違う雰囲気を纏っていた。時間も時間なので、勿論人気も無く、それがまた不気味さを増長させている。しんと静まり返るそのお寺には、恐らく攫われた目隠しさんと人形ちゃんがいる筈で、私たちはその攫われた幽霊2人をどう助けるかの作戦会議をしていた。


「まともに戦えるのは………吉光だけ?」

「ですが、流石に俺1人で何人もの僧侶を相手にするのは…………」

「わ、私も一応弓道部の道具は持って来ましたけれど………」


 人に向かって弓を打ったことなんてありませんわ、と当然の事を言って、自信無さそうな和水。私はこれといって得意なことも自信があることもなく、強いて言えば、大量の生命力を持っているくらい………。しかしそれも、頼みのパートナーがいない今、最早宝の持ち腐れ同然である。いつも戦闘の場面になれば、目隠しさんと人形ちゃん頼みだった私たちにとって、その2人を失うというのはかなり深刻な戦闘力不足。このまま寺に攻め込んでも、簡単に追い返されることは明白だ。


「この子は戦えませんの?」


 和水に言われて、3人の視線が一気に私の腕の中に集中した。相変わらず私に抱っこされながら、尻尾を振るパピヨンちゃん。多分状況を分かっていないのだろう、その表情は散歩を楽しむ普通の犬のようである。


「幽霊には幽霊だけど………、目隠しさんや人形ちゃんみたいな能力は持ってないんじゃないかな………」

「そうですわよね………。それに、こんな愛くるしい子に戦わせるなんて、心が痛みますし」

「愛嬌で怯ませるくらいのことはできるかな?」


 この場で唯一の幽霊枠であるパピヨンちゃんも、先程のようにカラスを追い払うくらいの力しかなさそうである。だが、だからといってすごすごと帰る訳にもいかない。目隠しさんには何度も助けて貰っているのだ。今度は私が助けてあげなければ。


 そうして、物陰で足踏みをしている私たちの前に、どこからか、ジャラジャラと何かを引き摺るような音が聞こえてきた。3人ともその音に目を見合わせ、急いで音の正体を探る。すると、私たちがいる場所とは反対の方向から、徐々に黒い影が見えてきた。それも1つではない。ずらっと後ろ1列に並んでいて、かなりの数だ。


「なに………あれ…………!」


 音の正体。それは、鎖のように数珠に縛られた霊たちが1列になって、数名の僧侶たちに引き摺られていく、異様な光景だった。百鬼夜行とでもいうかのように、沢山の霊たちがゾロゾロと綺麗に並んで寺の方へと連れていかれる。その表情や声は苦しみに満ちていて、思わず言葉を失った。


「………やっぱり………母さんの言っていた通りだ………」

「え?」

「迦睡斎の連中は、夜な夜なこうして霊を捕らえているんです。ここら辺の霊を狩り尽くしたのか、最近は俺の家の周辺まで嗅ぎ回っています」

「そんな………あの幽霊さんたちは、何も悪い事をしていないのでしょう?」


 腕の中で、ウーとパピヨンちゃんが小さく唸り声を上げている。こんなに霊を集めて、ここで一体何が行われているのか。彼らの表情を見るに、きっといい事ではない。最早躊躇している時間は無いように思えた。


「………行こう」

「ま、待ってください!私たち、どうやって戦いますの!?」

「目隠しさんと人形ちゃんを1番に助けよう。そうしたらきっと何とかしてくれる………」


 それしか方法はない。具体的にどう助けるかなどは思い付いていないが、ここで迷っている間にも霊たちは苦しみ、下手すれば目隠しさんたちも危ない目に遭っているかもしれない。


 私たちはそれ以上は何も言わず、お互いに頷き合った。全員覚悟は決まったようだ。とはいえ、正面から堂々と侵入する勇気はないので、ぐるりと寺の周りを回る。中に入れそうな別の入口を見つけて、そこから無事に迦睡斎へと足を踏み入れたのであった。











 バチっ!と激しい音を立てて弾かれた髪は、その場に力無く垂れ下がる。強い霊力によって作られた檻の中で、人形は何度も脱出を試みようと、その檻を攻撃していた。しかし当然びくともせず、やはり幽霊にとって霊力者というのは天敵なのだと再認識していた。


「脱出は無理そうじゃの」

「………………」


 隣で同じように捕まっている目隠しの男にそう告げる。目隠しの男も既に同様のことを試していて、自力で脱出することは難しいことを理解していた。檻の中で静かに腕を組む彼に、人形は溜息をつく。


「随分寛いでいるみたいじゃが…………、わらわ達も早く脱出しないと、アイツらの二の舞じゃ」


 人形の目線の先には、本堂の中へゾロゾロと引き摺られていく幽霊の列。彼らは抵抗もできず、僧侶達にされるがままだ。そして中に入った霊は、けたたましい断末魔を上げて、魂諸共無へと消え去る。霊にとっては酷い仕打ちである。と同時に、バリボリと、骨が砕けるような咀嚼音が響いていて、ここからでははっきりと様子が窺えないが、恐らく『誰かが霊を食べている』のではないかと推測していた。一体何のために、この寺はこんなことをしているのか。


「目隠しさん!!人形ちゃん!!」


 そこに響いたのは、紛れも無い、己の契約者の声。裏手の木々生い茂るそこから、頭や服に沢山葉っぱを付けた恋白、吉光、和水がいて、あと…………あの犬だ。何故犬も共にいるのかは分からないが、彼女達が助けに来てくれた事を悟った。


「よかった!まだ無事だった!」

「吉光、この檻を何とかできんかの」

「やってみます!」


 人形に促され、吉光がお札を取り出す。それを人形の檻に向かって貼り付けようとしたが、吉光の霊力と檻に込められた霊力がバチバチと激しくぶつかり合った後、吉光の体は後方に勢い良く吹き飛ばされてしまった。どうやら吉光のお札では、2人を解放することはできないようだ。


「やはり駄目か。この檻はあの和尚が作ったやつじゃからの」

「クソッ…………俺にはまだまだ伸び代があるということですか…………!」

「すごいポジティブ」


 悔しそうな吉光が、自分の手を見下ろす。母さんだったら………と一瞬考えて、頭を振る。自分だって毎日修行と特訓を積んでいるのだ。すぐに人に頼ろうとせず、自力で何とかするべきだ。


「別の方法を試します!今度はこの神楽鈴で………」

「おや、人間のお客さんも混ざっているようだな」


 背後から聞こえて来た声に、人間一同は皆びくりと肩を震わせて、後ろを振り向いた。そこにいたのは、吉光にとっては2度目の邂逅となる、この寺の和尚。そして慈念と呼ばれていた僧侶を含む、数名の弟子達。先程、沢山の霊の軍団を引き連れていた僧侶たちだ。


「アンタたち!目隠しさんたちを返しなさいよ!」

「そうですわ!私は別に人形ちゃんを祓ってなんてお願いしておりません!」

「ワン!!」


 威勢だけはいい恋白たちの言葉も、和尚には右から左へ聞き流されているようで、やれやれ、と呆れたように首を振る。どうやらそう簡単には、目隠しの男と人形を解放するつもりはないらしい。


「霊に味方する人間たちがいるとはな………。全く、出雲神社の神主様は、どういう教育をしているのか」

「うちの教育方針は、すくすく、のびのびです!そして例え霊でも、魂は皆平等に救われるべきだと考えています!よって、貴方たちのやっている事は看過できましぇ…………、できません!」


 大事なところで噛んでしまう吉光はイマイチ格好が付かないが、恋白も和水も同じ気持ちだった。幽霊だから虐げられていい筈がない。


「………邪魔をするというのなら、幾ら子供でも容赦はせんぞ」


 和尚のその言葉を合図に、弟子たちがその手に数珠を構えながら前に乗り出してきた。やはりこうなってしまった。まだ目隠しと人形も解放できていないし、どう応戦すればいいのか。圧倒的不利な状況に、恋白と和水を庇う様に立つ吉光の後ろで、恋白が抱きしめるパピヨンの体が、地味に恋白の生命力を吸い取りながら光り始めていた。

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