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迦睡斎の風鈴祭り

 ちりーん、ちりーん、と僅かな風を受けて響く綺麗な音色。色鮮やかな無数の風鈴たちが、簡単に設置された木製のアーチに設置されて、幻想的な風鈴のトンネルを作り出している。その下でキャッキャッとはしゃぐのは、制服に身を包んだ女子高生2人。


「恋白、九重さん、はしゃぎ過ぎて、風鈴を割らないようにして下さいね!」

「分かってるよー!」

「そんな子供じゃありませんわ!」


 恋白と和水、その人である。子供のようにはしゃいでいる癖に、子供じゃないなんてどの口が言ってるんだ、と呆れながらも、吉光は小さく笑みを溢す。楽しそうに笑い合う女子2人がとても微笑ましかった。


 場所は、例の迦睡斎。昨晩の出来事を受けて、オカルト研究部の招集をかけた副部長、吉光は、放課後にみんなを連れてここまでやって来た。今の時期は、夏にぴったりな涼しげな風鈴祭りというのをやっていて、女子2人はすっかりそっちに夢中だ。同じ女子といえば、吉光の肩に乗っている人形は、そっちに混ざっておらず、呆れたように2人を見守っていた。


「たかが風鈴に何をはしゃいでおるのか…………」

「でも、すごく綺麗ですよ」


 すごく綺麗、という言葉は、風鈴に向けられたものなのか、それともその下で笑顔を見せる2人に向けられたものなのか。人形も釣られるようにもう一度そちらに視線を移す。楽しそうな笑顔を浮かべる和水の姿があって、結局は人形も優しげな笑みを浮かべながらそれを見守っていた。加えて目隠しもただ無言で恋白の姿を目で追っており、何も言わないものの、吉光の綺麗という言葉に納得していた。


「ちょっとみんな、なにをそんなはしゃぐ子を見守る親のような顔で見ておりますの?」

「親…………?」

「実際、おぬしたちがガキ過ぎて引いてたんじゃ」

「まあ、人形ちゃん、あなたにはこの美しさが分かりませんの?」


 一頻りはしゃいだ2人が、離れた所で見守る吉光たちの元へ戻ってくる。すっかり見惚れてしまっていたが、はしゃいでいる所を写真にでも収めておくべきだった、と後悔する吉光を他所に、恋白が目隠しの所へ歩み寄る。


「目隠しさん、寺内に入って来ちゃったけど、体は平気?」

「全く影響がないと言えば嘘になるが、本堂に近付かなければ問題はなさそうだ…………」

「じゃあ、目隠しさんも風鈴もっと近くで見よ!」


 パシッ、とごく自然に、恋白が目隠しの手を握る。ほら、吉光も人形ちゃんも!と笑顔で促す彼女に引っ張られて、風鈴の下まで行くと、色鮮やかなガラスが空一面に広がっているようで、確かにとても美しい光景だった。死んだ後に、こんな景色を見れるとは、なんて思いに耽る目隠しの手を、恋白が急にパッと離して。


「ご、ごめん!つい………」


 今更自分が手を握っていたことに気付いたのか、顔を赤くしてモジモジとする恋白。目隠しはその姿を暫く見下ろすと、今度はそっと、目隠しの方からその小さな手を握り取った。驚く恋白の揺らいだ瞳は、まるで風を受けて揺れる風鈴のように輝いている。恋白は、目隠しさんとこの風鈴を見上げる細やかな時間が、ずっと続けばいいのに、と思いながら、彼の黒い手袋を嵌めた手を握り返す。


「……………何をイチャついているんですか」

「私たちもおりますのよ」


 その2人の間に、じっとりとした吉光と和水の視線が割り込み、恋白と目隠しは慌ててその手を離した。ぎこちなく視線を逸らす2人に、恋白には和水、目隠しには吉光がそれぞれ詰め寄って、恋のライバルを睨んで牽制する。やれやれ、とまたしても呆れたように首を振る人形。いつもの光景だ。


「キッチンカーだ!何か食べようよ!」


 少し離れた所にはキッチンカーが出ていて、昔懐かしいかき氷やベビーカステラ、オシャレなレモンスカッシュ、ホットドッグなどの軽食も売られていた。今度はそっちにはしゃぐ恋白と和水。そして、人形も食べ物に関しては興味があるようで、風鈴からそっちへ吸い込まれていく。


 しかしその中で、吉光だけはじっと本堂の方を睨むように見つめていた。ここに来たのは、みんなで仲良く風鈴祭りを見るのが目的ではなく、昨晩出会った和尚のことが気になったからであった。迦睡斎まで来れば、何か分かるかもしれない。そう思ったものの、今の所何も掴めていない。和尚に出会った時に感じた嫌な胸騒ぎは何なのか。そして今も感じる、この妙な感覚…………。


「…………妙な匂いがする」

「目隠しさん…………」


 そんな吉光に声をかけたのは、目隠しの男。彼もまた、吉光同様にこの寺に異様な雰囲気が漂っているのを感じていた。恐らく同じ霊である人形も、言ってはいないが何かしらを感じ取っている筈だ。


「………ここには、成仏できなかった魂や、苦しみと共に消された魂の怨念が渦巻いている………」

「ここの和尚は、どうやらかなり手荒な方のようでして………、彼の霊力によって消された魂の思念が、残っているのかもしれません。昨日も、恋白が可愛がっているあの犬と飼い主の霊を、消そうとしている所に出会したんです」


 霊は悪、消すべき、救いなど要らぬ、という考えを持つ聖職者も、少なくはない。生きている人に危害を加える前に、危ない芽を摘んでおく、という意味では、和尚も間違ったことをしている訳ではないのかもしれない。しかし、吉光には何かが引っかかっていた。警戒しろ、と言った藤香の言葉も頭に残っている。母が怪しんでいるということは、恐らくあの和尚には…………。


「ここの和尚様は、ここ最近うちの近辺も彷徨いているみたいで。まるで、霊を探しているような…………」

「霊を探している………?」

「はい。お坊さんですから、その行動自体は不思議じゃないんですけど…………、何か別の目的の為に、必死に霊を探しているような気がするんです」


 わざわざ隣町からやってきて、夜な夜な消す霊を探している。そこに変な必死感があるから、違和感を感じる。


「吉光ー!かき氷食べる!?」


 相変わらず呑気な恋白が駆け寄って来た。眩しい笑顔で、「はい!」とスプーンを差し出される。さっきまで真剣な顔で警戒していた吉光だったのに、好きな人からの『あーん』でその表情は一気にだらしなく綻び、ブルーハワイ味に舌を真っ青にして喜んでいた。


 凛々と響く風鈴のその先…………、本堂の奥で、そんな吉光たちの戯れを見つめる和尚の視線には、気付かないままであった。

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