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呪い

 夢を見た。綺麗な花いっぱいの野原に、私は眠っている。そんな私の周りを、蝶や鳥が躍る。御伽話のような幻想的な風景。そして、眠り続ける私の前に、1つの足音が響く。


 現れたその気配の姿は、眠っている私には確認できない。けれど、音と気配で私のすぐそばまでやって来た事を感じ取った。それでも私は目を覚まさない。


 やがてその気配は、私のすぐ横に膝を付いた。肩にそっと手を添えて来て、そのままその人影と私の影は、1つになる。王子様が眠り姫をキスで起こすように、その人もまた、私に目覚めのキスを施したのだ。


 そしてその瞬間、私はハッと目を覚ました。一気に頭は現実に引き戻され、見えて来たのは自分の部屋………ではなく、見慣れない、無機質なコンクリートの天井。そういえば体の下も、フカフカないつものベッドではなくカチカチの固くて冷たいコンクリートで、そこで漸く私は自分の状況を思い出したのだった。


 ゆっくりと視線を動かすと、私のすぐ上に目隠しさんの顔があった。彼は私が起きたことを知り、こちらに顔を向けてきた。そういえば、体は冷たいコンクリートの上なのに、頭だけはそれよりも少し高い位置に横にされていた。そして気付く。私は、目隠しさんの膝を枕にして寝ていた。


「ご、ごめんなさい!!!」


 申し訳なさと恥ずかしさで、まるで跳ねるように体を起こした。私、知らない間に寝ちゃってたんだ………と、寝る前までの記憶を辿る。………いや、寝たんじゃない、急に体調を崩して意識を失ったんだ。


 今はすっかり体調は良くなっていて、意識を飛ばす前の不調など、まるで嘘かのように元気だった。少し寝た為か頭もスッキリしていて、全く問題はない。ふと、思い出したように右脚の怪我の具合も見てみると、恐らく寝てる間に目隠しさんがやってくれたのだろう、ボロボロの古びた包帯が巻かれていて、簡単な治療が施されていた。


「………体はどうだ」

「あ………、もうすっかり元気!何だったんだろう………」


 心配する目隠しさんに、もうすっかり大丈夫であることを伝えるように、少し大袈裟に体を動かしてみせた。右脚は、止血してくれてあるとはいえ、ちょっとでも動かすとズキンと痛みを伴ったが、それもまだ何とか我慢できるレベルだ。包帯を指差しながら、「これ、あなたがやってくれたんだよね?」と聞くと、相変わらず返事はなかったが、状況的に目隠しさん以外あり得ないので、「ありがとう!」と一方的にお礼を伝えた。


「…………お前は呪いを受けている」


 しかし、そんな私の喜びも束の間。目隠しさんから出てきた『呪い』という単語に、私は動きを止める。そういえば、意識を飛ばしかけていた時も、目隠しさんがそんな事言ってたっけ。呪いを受けたのか、とか何とか………。言葉の意味こそは知っているが、呪い、とは一体何なのか。私には想像できなかった。


「呪いって………?」

「………あの異形、倒される寸前に、最期の力でお前に呪いをかけた」


 そしてその呪いがお前の体を蝕んだのだと、そう告げられて、なるほどと納得した。だから急に、あんな経験したことのない体調の悪さに襲われたのか。しかし、不思議なことに今はなんの症状もない。その呪いとやらも、私が眠っている間に目隠しさんが解決してくれたのだろうか。


「もう私、何ともないけど………。呪い、治してくれたの?」

「………俺には解呪の力は無い」

「え………じゃあ何で………」

「………俺が一時的に抑えている………」


 どうやら聞くところによると、呪いの悪影響が出るのは生きている者だけらしく、目隠しさんのような幽霊には効かないらしい。なので、私の呪いを目隠しさんが吸収して症状を抑えている、という事だ。そのまま全部吸収したら治らないかとも聞いてみたのだが、やはり泉源そのものを解呪しない限りは無限に溢れ出てくるもののようで、それも不可能らしい。つまり………。


「つまり………、目隠しさんと一緒にいないと、私………死ぬってこと………?」


 何も言わない目隠しさん。沈黙は、肯定ということ。目隠しさんに呪いを抑えて貰わなければ、私は今ここで死ぬ。その事実を知って、私は絶望に打ちひしがれた。せっかく助けてもらって、生きて帰れると喜んでいたのに、今度は呪いで死ぬ?そんなの絶対に嫌だけど、そうすると今度は、目の前にいる幽霊………目隠しさんと共に生活しなければならなくて………。


「の、呪いのこと………もう少し詳しく教えてくれたり………する?」

「…………」


 目隠しさんは、分かりやすく説明してくれた。呪いには色々な効果があって、私のように体調を崩したり、体を操られたり、何か体の一部を奪ったり………とにかく様々な症状が出るらしい。呪いの強さは、呪いをかけてきた幽霊の強さに比例するらしいが、私に呪いをかけたと思われるあの異形の強さから考えると………、かなり強力な呪いではないかと推測された。


「………強い呪いは………解呪が困難だ………。同等の強さと力を持った者では無いと、完全には取り除けない………」


 そういった事を仕事にしている聖職者でも、かなり強い者でないと解呪は難しいらしい。一瞬、私にお札を渡してくれた幼馴染の姿が頭に浮かんだが、アイツはまだ見習いだからなぁ………と、可能性の低さに諦めて振り払った。


「解呪できないと………、私はこのままってこと………?」

「………そうなるな。そしていずれ死ぬだろう………」

「な、何か方法はないの………!?解呪できる人を探すしかない………?やっぱり目隠しさんでも無理………!?」


 必死に縋り付く私に、目隠しさんは残酷にも首を左右に振る。目隠しさんも異形と同等の力はあるが、解呪の力を持っていない。要は、RPGゲーム風に言うと、レベルは足りているが、解呪という技を覚えていない、という状態らしい。そんなぁ………と脱力する私を、目隠しさんはただ静かに見下ろしている。解呪できるお坊さんとか、神主さんとかを片っ端から当たって探すしかないのか。時間はかかるかもしれないが、それがたった1つの方法なのかもしれない。でも、もし………もしこの呪いを解ける人が居なかったら………。シクシクと悲しみに打ちひしがれる私の姿が、哀れに映ったのだろう。


「………俺が解呪の力を得れば………」

「助かるの!?」


 ポツリとぼやかれた可能性に、私は再びガバリと目隠しさんに縋り付いた。まだ最後まで言っていない途中で食い付いてきた私の勢いに、目隠しさんは若干引き気味だが、構ってはいられない。こちらは命がかかっているのだ。


「………俺たちのような存在は、同じ存在か、もしくは生きている者を食らう事で階級が上がる………」

「階級………。そういえばあの異形のヤツも、階級がーとか言ってたっけ………」

「………階級が上がれば、単純に強くなる………。新しい力を得ることがある………」


 それはつまり、レベルアップすれば解呪を覚えるかもしれない、ということか。目隠しさんが今よりもっと階級を上げて、解呪を覚えてくれれば…………、もしかしたら、私は助かるかもしれない!


 一筋の希望の光が見えて、私はガッチリと目隠しさんの服を掴んだ。この希望を逃して堪るか、とそう言わんばかりに。


「目隠しさん!!お願い!!解呪の力、手に入れて!!」

「……………………」


 こうして、私と目隠しさんの奇妙な運命の糸は、徐々に、徐々に絡み合っていくのである。

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