表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/45

幽霊の手も借りたい

 私は昔から、普通の人には見えないものが見えてしまう体質であった。街を歩けば幽霊とすれ違うなんて、日常茶飯事。だから、もう驚くこともなくなっていた。


 けれど、幽霊と会話をするのはこれが初めてであった。


「ありがとう………幽霊さん」

「………俺の声が聞こえるのか」


 幽霊騎士さんは、僅かに眉を寄せたように見えた。驚いているというより、私を値踏みしているみたいで………。少しだけ緊張する。


 そして彼は、そのまま大した言葉も交わさずに立ち去ろうとした。私は慌てて叫ぶ。


「待って!!」


 振り返った彼に、思い切って頼み込む。頼れるのは、この人しかいない。


「お願い、この廃墟を出るまで………私を運んで欲しいの」


 忘れかけていたが、私の脚はかなりの怪我を負っていて、歩くことはおろか、立つことも難しかった。震える声で頼み込むと、彼はしばしば黙した後、冷ややかに言い放つ。


「ここに入ったのはお前自身だろう」

「………そ、そうだけど………」


 至極真っ当な意見。しかし、それに納得する訳にもいかない。思わず食い下がったが、彼は淡々と私を見下ろすだけであった。ならば仕方ない、私はカバンから部誌を取り出し、必死に言葉を重ねる。


「私、オカルト研究部なんだ。この辺、最近インフルエンサーとかオカルト好きとかが忍び込んできて、騒がしいでしょ?」

「……………」

「だから、ここが本当に"出る"って証明できれば、冷やかしで来る人も減ると思って………」


 ここでの実体験や写真なんかを学校新聞に取り上げて、噂を広めれば、また以前のような静かな廃墟に戻るかな、という安直な考えからの行動だった。決して私は、冷やかしで来た訳ではない。

 私の話を聞いた彼は、少しだけ雰囲気が和らいだ気がした。畳み掛けるように、私の正直な気持ちも伝える。


「私、幽霊が怖くないの。むしろ………安らかに過ごして欲しいって思ってる」


 ふと、画面の奥から息が溢れた。小さな溜息。そして、次の瞬間。

 彼の腕が私の膝裏に回り、軽々と抱き上げられていた。


「えっ………」


 冷たい体温が、制服越しに伝わる。けれど胸の奥は、逆に熱くなって息が詰まる。お伽話のお姫様みたいな姿勢で、私は幽霊騎士に抱きかかえられていた。


「………何を驚く。頼んだのはお前だろう」

「ほ、本当に………運んでくれるの………?」


 彼はそっぽを向き、咳払いを1つ。どうやら肯定らしい。


「ありがとう!目隠しさん!!」


 嬉しさのあまり、思わず首に腕を回す。硬直した彼の体から、微かな動揺が伝わってきた。


「………軽率なことはするな」


 低い声が叱るように響く。けれど、その言葉の裏にあるのは怒りではなく、照れ隠し。そんな気がして、私は小さく笑ってしまった。


 こうして私は、幽霊騎士の腕に抱かれながら、この廃墟からの脱出を目指すことになったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ