8 偽りの言葉は届かない
【衛星軌道上 みんなの地球連邦株式会社所属 試験練習船 J―NAS メインデッキ】
ミケアを連れてきたタクシー改め、大気圏連絡艇は、両方のウインカー、ハザードランプを点滅させた状態で、大型船内のデッキへ到着しハッチが閉じられた。
重力制御や与圧状態を確認してから、運転手が降りる。なぜか料金メーターだけは、16万円を回っていた。
「降りても大丈夫だよ」
声をかけられて、ミケアもドアを開けて恐る恐るドッグ内の甲板に立ってみた。
身体が浮かない程度の、軽い重力制御がかけられているようだ。
元々、複数の艦載機をメンテナンス出来、かつ積載出来るように作られているので、今のほとんど何も無いガランとした状態は、とても広く感じた。
ドッグ内の少し離れた場所に、起立させた機動兵器が見えた。
【試験練習船 J―NAS 談話室】
「アレに乗れって? 乗れるわけないでしょ! パイロットって、話が違うじゃない!?」
「パイロット?大袈裟だよ。乗務員って書いてあったでしょ?」
ミケアは、もらった資料を机に並べて抗議する。
「このタクシーの写真、嘘なの!? 虚偽!?」
「これは、さっき乗ってきたタクシー風大気圏連絡艇さ(笑)
ほら、ここに小さく『これに乗っていただくこともございます』って、書いてあるでしょ?」
ぬぉおー、そういうことかぁ! ミケアは、騙された。騙されたが、騙されたと認めたくはない。
「イヤイヤ、もう帰るんで!」
「どうやって?」
ミケアは、地球が遠くに見える窓を見た。
「こんなの、誘拐でしょ!!」
「応募されたし、乗務員だし、待遇面でも納得されたんじゃないの?」
「振込されて、日本円どこで使えって言うの!!」
「蟹工船と同じだよ。現地の口座には振り込まれるから、帰ったら貯まってるよ。ここでは、衣食住タダだし」
このあとしばらく二人の口論が続くが、次第にお互いの妥協点へと終着しつつあった。
「正直、部屋に残してきたハムスターが心配なんで」
「駐在員に言って、ハムスターは社内便で上に上げてもらおう。冷蔵庫の中は期限前に食べてくれるって」
ミケアは、署名の途中でペンが止まったが、頑張って最後まで書き進めた。
「で、こんな宇宙船、どうやったんですか!? 地球には帰れるんですか!?」
運転手だった男性、この船の船長は、説明を続ける。
「マスコミで、宇宙人がどうのこうのって騒いでるでしょ? あそこがうちの親会社」
「親会社!? あいつら会社なの!?」
他にも詳しい話が聞けた。
今回やってきた地球外文明・親会社は、他社が乗り込んできた場合、星域での権利を守るために、必要なら威嚇行為も必要な場合が生じる。
しかしながら、艦船が直接手を出した場合、責任問題等も含め、先に攻撃を仕掛けたのか、または攻撃を受けたから自衛手段に出たのかで、その後の対応が変わってくる。
そこで、原住民が自衛手段に出るという形にする。
「つまり、自分達の手は汚したくない。そこで、自治権を奪われると考えた現住民が、自衛手段に勝手に出るという形にしたい。
その一方で親会社は、地球と共存共栄を図ることの証明に、技術供与を行うと」
ミケアは、問い詰めた。
「だったら、自衛隊から隊員が詰めるべきでしょ?」
船長は、やっぱり聞いてきたかと、どこでも使う同じセリフを口にした。
「うちは、民間の上場企業だもん」
「は? 昔の『タケオゼネラルカンパニー』の世界じゃん」
「そんな昔のアニメよく知ってるねぇ、感心感心」
「いやいや、そもそもなぜ私なんですか!?」
船長は、申し訳なさそうに答えた。
「応募者が、他にいなかったから」
「ぐっ⋯⋯他の社員は?」
「みんな嫌がって、残ってたのがこれ」
「でしょうね。わたし、重機の免許持ってませんが」
「安心してください、不要です!」
ミケアは、負けない。
「だったら、宇宙飛行士募集とかでJAXA が求人出すべきでしょ!?」
「⋯ああ!」
【月裏側 母艦オウムアムア ファンド系投資顧問星系探査艦 ブリッジ】
「⋯ということにはなるが、原住民だってバカじゃない。こちらの現地制圧の目的も、内心は把握しているかもしれん」
ファンドマネージャーから借りたそろばんを嬉しそうに、パチパチ珠を動かしていたストラテジストは言葉を続ける。
「ライバル企業がなお良い条件で、原住民に接触してくる場合もある。その場合、逆に我々を排除してくる可能性がある。今の我々のようにな」
【衆議院臨時国会 内閣総理大臣】
「船体及び収納機体は、地球外文明より基本構造を有償で貸与。日本側の設計データを元に改修を施しています」
総理は、野党代表から質問を受けていた。
「諸外国からは、戦艦であり、搭載しているのは機動兵器ではないかとの疑問が懸念されています。
首相の考えをお聞かせください」