7 母なる船、冒険する子
【月裏側 母艦オウムアムア ファンド系投資顧問星系探査艦 指揮官ブリッジ】
彼らは現地制圧を目的にしているが、避けられる武力衝突は、避けたいと思っている。
もちろん、地球に対して武力制圧すれば、容易に制圧も可能であろうこともわかっている。
「それが出来れば、こんな田舎の星域、すぐに終わるだろうがな」
ファンドマネージャーは、お気に入りになったそろばんをパチパチ弾いた。
「武力制圧した場合、破壊された星を掃除するのに、多額の費用が必要です。
破壊されたままなら、どこも買い付けて来ません。綺麗なまま渡すから、高値で転売出来るんです」
ストラテジストは、マネージャーが持っているそろばんを、自分もパチパチしてみたい衝動にかられたが、大人だから我慢した。
【愛知県 日間賀島 西港】
島内に着くと、地元の一台のタクシーが出迎えていた。
運転席から出てきたのは、中型中背の普段着の紳士だ。
「ミケアさん? だね? さっそくですが、今から会社へ案内します」
なるほど、やっぱりタクシーを使った高齢者の送迎が仕事なんだな、楽勝だな、と思った。
【タクシー風、大気圏連絡挺 車内】
ミケアが後部座席に座った瞬間、
「じゃあ、今から軌道上に向かうので、少し揺れるから気をつけてね」
「!?」
アナウンスがあったと同時に、バシュンッと与圧状態に車内が密閉された。
「ああ、これね。タクシーに偽装してあるけど、大気圏往復用の連絡艇ね。
まぁ、往復するから、タクシーっちゃタクシーか(笑)」
ふわりと浮いたのがわかったのと、タイヤ付近から機械音がするのが聞こえた。
どうやら、タイヤを格納しているのか、タイヤにカバーが展開されたのか。
中から見えないので、分からない。
「えっ!? キドウジョウってどこです? 今日、帰れます?」
ミケアは、部屋に残してきたハムスターが心配だった。
慌てふためくミケアをそのままに、運転手は後部座席に声をかけた。
「んじゃ出るね♪」
唸るような機械音を上げて車体が後方へ傾き、前部が浮き上がる。
フロントの窓が全面空の景色になった瞬間、ものすごい勢いで上昇を始めた。
しかし、かなりの上昇スピードなのにも関わらず、そこまでGは感じない。
スピードメーターはゼロキロのままだ。
まぁ、タイヤが動いていないから、車のそれとはちがうのだろう。
窓からは、眼下に雲を見ることが出来る高度まで上がってきたところで、運転手が話しかける。
「ほら、こういうの、市内でやると目立つでしょ?
ので、少し離れた島からの往復にしたの。便利だよね♪」
ミケアもこの状況に少し慣れてきたので、運転手に話しかける。
「もしかして、キドウジョウって、軌道上のことですか?」
「そうそう。面接で聞いてない?おかしいなぁ」
地元のタクシーと称する大気圏連絡艇は、やがて成層圏を抜けても、ぐんぐん上昇を続ける。
高度400キロくらいで運転席窓から、徐々に大きな宇宙船が見えてきた。
車内で、運転手はあの船の船長と名乗り、見えてきた宇宙船の概要の説明を始める。
【衛星軌道上 みんなの地球連邦株式会社所属 試験練習船 J-NUS】
全高 160m
全幅 180m
全長 315m
搭乗人員 13名前後
メインナセル ワープドライブ(使用不可)
補助エンジン インパルスドライブ
姿勢制御 DREバウスラスター
最大出力 非公開だが、元の1割ほどにダウングレード
搭載機 小惑星探査機1機、外装メンテナンスポッド20機、補給機1機、大気圏往復用タクシー型連絡艇1台
船体は全体に白く、三つのブロックで構成されている。
先頭上部に、指揮と戦闘を目的とした名残のある第一船体。
下部から中央に第二船体として整備格納を居住を目的としたカーゴブロック。
後方にエンジンブロックとして、四発の補助エンジンと、左右に大型の二対のメインエンジンのナセルが太いアームで支えられて展開されている。
日本政府と地球外文明との共同出資による第三セクター方式で設立された会社。
その会社が唯一保有する、探査機の支援母船である。
元は、地球外文明の艦隊の複数の宇宙船のうちの、一隻。
船歴としては古く、戦艦としての役目を終え、第二の人生としてメンテナンスを主要任務とするドッグ船に改修されていた。
彼らにとっては一番優先度の低い、安価な船体が選ばれた。とはいえ、地球の技術レベルを超えていることには、違いない。
それを地球原住民向けに改装を施して有償で貸与され、第三の人生を歩み始めた宇宙船である。
生命維持や慣性制御装置、安全装置、システム系はそのままで、エネルギー供給ジェネレーター、固定武装等は貸与前にリミッターを課されるなど、徹底的な必要最低限度にダウングレードされている。
また、最高出力を誇る左右の大型エンジンは、封印されて使えない。
補助エンジンでのみ、それも出力を抑えられた状態での航行を可能としている。
メンテナンス面においては、機関部は封印ブラックボックス化され、技術漏洩が出来ないようにされていた。
【タクシー風、大気圏連絡挺 車内】
「もうすぐ着くから、荷物まとめといてね」