表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/42

6 祝 新規上場

【月裏側 母艦オウムアムア ファンド系投資顧問星系 貸与予定メンテナンスドッグ船 デッキ構内】


「空っぽだな。全部片付けたのか?」


 日本政府へ引き渡す予定のメンテナンスドッグ船の船内。

 ストラテジストと参謀は、最後の確認に来た。


 同行した参謀は、表情を変えずに淡々とした口調で質問に答える。


「心配ございません。メンテナンスに必要な機材は、置いていきます」


 ストラテジストは、久々にこの船の甲板に降りた。周囲を見渡したが、以前と違い殺風景になっていた。


「メンテナンスはいいとして、これだけで大丈夫か?

 ちょっとした小型機の二つ三つでも置いていったら、使い勝手がいいだろうに」


 参謀は、初めて難しい表情に変えた。


「実のところ、搭乗員の募集が思ったより集まりが悪く。

 機体を置いていったところで、乗る人材がおりません。待遇面で、いささか⋯⋯」


「十分な予算は、先方政府に提示したはずだ。中抜きされていないか?」


 だとしてもと、断った上で、


「内政には干渉出来かねますので。

 代わりといってはなんですが、保守点検の無人タイプのドローンは置いてあります」


 ストラテジストと参謀は、何も無くなった格納デッキを歩いて進む。


「一応安全保証の観点から、母艦と支援機は先方に引き渡す際にはダウングレードさせています。

 メインコンピューターは、最新にバージョンアップしてありますので、生存率は当方の機体と比べても遜色ない仕上がりになっております。

 そうそう不都合も生じないかと」


「そうか。しかし、ここまで性能を落とす必要があるのか⋯?」


 ストラテジストの後ろを歩く参謀は、デッキ奥を見ながら説明を続ける。


「型遅れの装備といえど、彼らが手のひらを返せば脅威になりかねません。

 とはいえ、単艦ではやりづらいでしょうからということで、これを置いていくのです」


 目の前には、作業棟に拘束されている巨大な人型をした軌道兵器が佇んでいた。


「んん~⋯とは言え、我々の代わりに矢面に立つのに、この装備でライバル会社と勝負出来るのか?」


 参謀は手元の資料を見ながら続ける。


「彼らの要望、デザインを聞いた上で、うちでは使わなくなった機体を人型にモディファイしています。

 慣性制御は最新ですし、駆動系は改修ついでにチューニングを施してあります」


「使わない機能は、外したのか?」


「軽量化にはさほど寄与しないのと、元に戻す際の利便性を考慮した結果、部品はそのままに搭載させております。

 配線は生かしてありますので、万が一には、codeの入力でリミッター解除も可能です。

 お渡ししてはおりませんが、オプションパーツも、ご用意がございます。

 最悪、我々へ銃口を向けた際には、遠隔で自爆も⋯⋯」

「脱出装置を装備しているなら、それでいい」


 ストラテジストは、支援機の足元に近寄ると、手でコンコンと叩いた。


「現地写真で見た機動兵器な。あれをコピーしたほうが強そうじゃないか?

 あっちのほうが、カッコいいぞ」


「ごもっともです。

 それは皆思いましたが、問い合わせると著作権の問題があるとかで」


 二人は、完成した人型支援機を見上げていた。




【東京証券取引所 前場開始】


 拍手喝采の中、鐘が鳴る。

「カーンカーンカーン!」


 東証アローズの電光表示には、文字が流れる。

「祝 『みんなの地球連邦株式会社』東京証券取引所グロース市場上場」




【月裏側 母艦オウムアムア ファンド系投資顧問星系探査艦 ブリッジ】


「『みんなの地球連邦株式会社』? なんだ、このふざけた名前は?」

「なんでも、現地で個人投資家の注目を集めるためだそうです」


 IPO (新規株式公開)直後は、わりと株価が上がりやすい。

 しかし、『みんなの地球連邦株式会社』の株価は前場の暴騰から一転、後場に入りみるみるうちに株価は下がり、公開価格を割っていった。




【株式SNS】


 通常、公開直後は値上がりすることがほとんどの株式市場で、

 値下がりする株価に、ネットでは阿鼻叫喚である。


「メーデー!メーデー!」

「助けてください、少佐ァー! 減速出来ません!」

「船が沈んでいく⋯」

「さあ、逝こうか、バナージ君!」




【月裏側 母艦オウムアムア ブリッジ】


 想像とは逆に値下がりする子会社の株価に不安を覚える。

 近隣諸国を刺激しているためか、事業の成長が疑問視されているのかもしれない。


「それとも我々の制圧目的が一部にはバレているのか・・・」


 ストラテジストは、マネージャーを横目で見ながら、呟いた。

「大手が嗅ぎ付ける前に、ある程度作戦を進めておく必要がある」




【愛知県知多半島、連絡船 河和発、日間賀島行き 船内】


 ハローワーク通いが終わり、晴れて失業から卒業出来たミケアは、指示された日間賀島を目指し、フェリーの座席でのんびりしていた。

 日間賀島というさほど大きくない島内で乗務員だというから、タクシーの運転手とか、高齢者の送り迎えかと考えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ