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5 恐れず怯まず顧みず

【月裏側 母艦オウムアムア ファンド系投資顧問星系探査艦 指揮官ブリッジ】


 彼女は、見えない速さで指先を動かして、パチパチと珠を動かしている。


「資金は、現地政府と共同出資する第三セクター方式で持ち株会社設立。

 現地市場で子会社を上場させて、資金を集めます」


 ストラテジストは話の内容よりも、マネージャーが持っていたパチパチと動かす木製のおもちゃが気になって仕方ない。


「現地政府へ、一部譲渡ですが、我々の機材を貸与します。そのレンタル料を、我々の運転資金に充てます」


「ところで、先ほどからパチパチと、それは何だ?」


「ああ、これですか? 日本政府と呼ばれる現地機関との交渉の際に、お土産にいただきました。

 『そろばん』と言うそうです。これがあれば、計算に電力を必要としないという、大変ユニークな小物です。かわいいですよね」




【総理大臣官邸 首相囲み取材】


「民間企業による探査開発を目的とするものであります」


 過去に例が無いため、政務官が用意した手元のペーパーを必死に見ながら、総理大臣は記者からの質問をかわしていく。


 だが、記者も引き下がらない。

「周辺国からは、未知のテクノロジーの技術供与を、日本の軍備拡充との声もあります。」


 すぐに影から政務官が耳打ちしに首相の後ろからボソボソとささやくので、首相はそのまま記者へ回答をする。

「第三者委員会においても、現憲法下で矛盾しないとの結論であります」


 記者は、少しの間を置くことなく、質問責めにする。

「アメリカからの技術開示の要求は?」

「隣国を刺激するおそれは?」

「スイッチⅡをお土産に渡したと聞いてますが」


「それらにつきましても、民間企業の活動に対して、政府が介入することもありませんし、他国政府が介入することがあってはならないと考えます」


 記者は質問を止めることはない。

「外宇宙文明からの技術を日本が独占しているとの批判がありますが」


「相手があることでもありますので、回答は控えさせていただきます」


 首相は、記者の質問を振り切り、足早に去っていった。




【SNS】


 すでにネットではスクープ記事として、運用が予定されている探査機および運用母船のシルエットが流出していた。

 また、スペックにおいても、おおよその予想記事が散見されていた。


「ついに、時代が追いついたか」

「宇宙世紀紀元か。胸熱」

「俺、戦争が終わったら、プロポーズするんだ」

「この艦でダイダロスアタック出来るのか?」




【月裏側 母艦オウムアムア ファンド系投資顧問星系探査艦 指揮官ブリッジ】


「人型にする必要があるのか?」


 ストラテジストは、現地政府から渡されたデータを処理した完成予想の立体画像を見ながら呟いた。


「資金が潤沢にあれば、用途別に目的化させるべきです。が!」


 ファンドマネージャーはため息をして、そんなことは百も承知とばかりに反論した。


「しかしながら、あれもこれも一つでとなると、人型が一番安価で応用が効きます。

 もっと安価なタイプはありますが、長い目でみれば、これが最適解です。

 オプション次第で、調査探索、前衛にも支援にも回れます」


「⋯参謀!」


「は、マネージャー殿と同意見です。応用型の最たる物が、人型に収束されます。

 近接戦であれば、被断面積を少なくするための流線形も考えられますが、遠距離ではさほど変わりません。

 また、お互いがステルスに特化された場合、やはり目視戦になります。

 つまりは、殴り合うなら人型一択でしょう」


 言いくるめられている気もするが、そういうものかと、ストラテジストは納得した。


 報告にあった、日本の首都圏にある巨大な立体機動兵器の写真を見ていたので、一応付け加える。


「変形機構は不要だからな。高くつく」




【名古屋市 アパートの一室 ミケアさんの自宅】


 ミケアの鼻息は荒かった。ポストに入っていた一通の封筒を開封する。


『採用通知 貴殿を弊社に採用する』

「ッダっしゃあ!」


 失業保険が切れる寸前での採用。

 危うく一緒にいるハムスターと路頭に迷うところだった。


 役所と、今まで落とした不採用の会社にはもれなく、不幸になる呪いの念を送っておく。

 役所は以前、定額給付金の申請に行った際に、ハムスターを扶養に入れようとしただけで門前払いにあったからだ。

 冗談がわからん奴らだ。まぁ、黙っていればワンチャンとは思ったが。


 とりあえず、出社の日時と場所が指定されていたので、確認する。

 会社記載住所とは違い、離島を指示している。フェリー代金は、当日払われるとのこと。


 「離島で乗務員? 高齢者の送り迎えの運転手とかだろうか?」

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