40 金星大気圏、硫酸の雲へ
【金星周回軌道投入 みんなの地球連邦 試験練習船 J―NAS ブリッジ 船長】
「主砲展開! 最高出力で同方向に10秒斉射。撃て!」
【同 人型支援機トゥラン コクピット】
ミケアが太陽の黒点と認識していたのは、逆光シルエットに映った未確認機影だった。
未確認機影に向かって、トゥランはパワーランチャーを連射するが、当たらない。
未確認機は太陽を背にされているので、光学センサーが役に立たない、太陽に近いため周辺温度のほうが高く、熱源追尾も赤外線センサーも使えない。予測軌道を計算した着弾ポイントに向かって打つが、相手からはこちらが丸見えなので、回避行動も容易である。
トゥランは、パワーランチャーを左腕部に装備された耐熱シールド裏面に収納する。代えて背面の脱着マウント右肩から実剣を取り出す。
当たらないなら、当てに行くしかないと踏んだミケアは、背面のエンジンを点火させてトゥランで未確認機に向かっていく。
金星の周回軌道、地上400km程度のところでニ機は接触する。
未確認機は、おそらく無人機であろう、到底考えられない機動速度を見せる。
「こう近づけば、避けられんでしょ!」
トゥランは右手で実剣を未確認機に向かって振り下ろす。
早い衝撃は、相手を飛ばすことなく、その質量を相手の装甲がきしみながらその衝撃を受け止める。
衝撃の際に、強化された肘の2本の油圧ダンパーがそれでも悲鳴を上げる。
相手の表層の硬化コーティングが砕けて宙へ舞う中へ、トゥランの頭部砲身から30mmレールガンが両砲身共に磁気コイルをフルパワーにして砲弾を撃ち込む。
【金星周回軌道投入 みんなの地球連邦 試験練習船 J―NAS ブリッジ 船長】
「ミケア、奴をこちらへおびき寄せろ。本線からジャミングを掛ける」
【同 人型支援機トゥラン コクピット】
「>_前方から迎撃。誘導弾です_レーダー追尾_」
「離脱! チャフ!」
ミケアはすぐにトゥラン前方向のスラスターを噴射させて、相手から距離を取る。
そのまま追ってくる誘導弾にチャフを発射。
【金星周回軌道投入 みんなの地球連邦 試験練習船 J―NAS ブリッジ 船長】
無人機であれば、交信を遮断すればおとなしくなるであろうと考えた船長は、ボギーへジャミングの起動準備に入らせる。
【同ブリッジ 船オペレーションAI ボギー】
「>_これより本船にてECM最大にてジャミング開始。ミケア様、識別信号出力最大でお願いします_」
「>_ジャミング開始_」
【同 人型支援機トゥラン コクピット】
一斉に通信機にジャミングノイズ信号が入る。たまらず、音声をミュートにした。
未確認機は、直後行動を停止。無力化に成功……
……したかに見えた。
【同ブリッジ 船オペレーションAI ボギー】
「>_ジャミング停止。通信を回復します_」
「ミケア聞こえるか? 奴を生け捕りにしろ。料理するぞ。美味いメシ食わせてやる!」
【同 人型支援機トゥラン コクピット】
ミケアは実剣を背面に収納させると、ゆっくりとトゥランを未確認機へ近づけていく。
「>_ミケア様。これは美味しいのですか?_」
「どうだろ? 硬いと思うよ」
もうすぐ接触出来るだろう距離に近づいたときに、未確認機は再起動する。
戦闘機の両側から2本のアームを展開させて、トゥランにシールドの上から抱きついてきた。
「うわー、離れろ、ブサイク!」
【金星周回軌道投入 みんなの地球連邦 試験練習船 J―NAS ブリッジ 船長】
「くっそ、生け捕り失敗か。先にシメておけばよかった。ミケア、離脱できるか?」
【同 人型支援機トゥラン コクピット】
未確認機の各部でいくつかの爆発が見られた。
「>_おそらく、通信が遮断されて自立行動へ切り替えの末、自爆シークエンスが起動したものと推測されます_」
コクピット内に、各部から接触するきしみ音が鳴る。
「>_さきほどの各部の爆発が誘爆を繰り返さないところから、自爆は失敗と推測。最初の一撃がどこかの不具合を誘発させたものと思われます_」
しかし、未確認機はトゥランに抱きついたまま進路を変更する。進路を変えると、未確認機は推進エンジンを起動させる。
トゥランは、そのまま未確認機に抑えられる形で身動きが取れない。
「>_おそらく、金星へ引きずりこもうと画策しているようです。_」
【同 中央メインデッキ 控室 作業員 B 】
「こんなことあろうかと、一応、生命維持は問題ないレベルに設定してあります。計算上は地表離脱も可能です」
【金星周回軌道投入 みんなの地球連邦 試験練習船 J―NAS ブリッジ 船長】
「聞いての通りだ。地表衝突を狙っているなら、それまでに拘束を解かないとまずい」
トゥランは抱きつかれているために、背面で畳まれているランドブースターを展開出来ずにいた。
そのまま、トゥランは未確認機と揉みあいながら、急速に金星の大気圏へ吸い込まれていく。




