4 主役機、設計日本、組立異星人
【月裏側 母艦オウムアムア ファンド系投資顧問星系探査艦 ブリッジ ストラテジスト】
「何日持たせるつもりだ!」
この星域に到達してからしばらく経ったが、これといった進展が見えない。
「力で制圧すれば早いだろうに」
マネージャーは、地球の代表政府からお土産でもらった紅茶を嗜んでいた。
「武力制圧してガレキと化した星に買い手は付きません。
そもそも、この星域へ着くだけで、予算の大半を溶かしました。
我々は、任務遂行と同時に、ここで日銭を稼がないと、帰路の予算がありません」
「は?」
「ええ。一隻くらいはともかく、今来た船団を全部帰そうとすると、途中で漂流する可能性が高いかと」
計画段階で十分ではないにせよ、必要な予算も通し、機材も準備して、開拓後の採算性も考慮に入れて挑んだ今回の計画。
「マネージャーの立場から言わせていただくと、まず先遣隊の報告が大きく間違っています。
こんなに距離が遠いとは。指定された座標が間違っています。
運良く、現地発の人工衛星を見つけて、地図があったから良かったものの」
ストラテジストは各種報告に基づき、運用していく。
「しかし、途中で気が付いたなら、なぜ報告が上がって来ないのだ?」
「報告は上げましたが、着いてから考えるとおっしゃっていましたが」
無言の時間が流れる。
「見積もりも、大甘です。予算通過を目的にしただけの、園児のおこづかい帳、農林中金レベルです」
(⋯?)
マネージャーは、火が付くと止まらない。ゆえに、ストラテジストは鎮火するまで黙ることにした。
「つきましては、こちらサイドで資材供与、組立をします。機体デザイン、コンセプト、運用は現地政府が担当します」
【新聞朝刊 各紙見出し記事】
『日本政府、交渉に弱腰』
『中国が日本近海沖に海軍派遣。日本へ圧力か。アメリカ海軍第七艦隊、航行の自由作戦開始』
【月裏側 母艦オウムアムア ファンド系投資顧問星系探査艦 指揮官ブリッジ】
ファンドマネージャーは、すでに行動に移していた。
「すでに、この星域のデータは正しく上書きされて、本星団にも届いているでしょう。
ライバル会社は正しい座標を把握しているだけ、我々よりも安くこの星域へ到達可能です」
本社の意向は、ここをリゾート惑星として開発して売り出す算段だ。
「開発権を死守するには、我々はどのみち交代スタッフが来るまでは、ここで常駐する必要があります」
彼らのミッションは、未開発の星域の開発権を安く入手し、やがて現星域を制圧、手中に納めた上で、他社に転売することを生業としている。
ストラテジストの頭では、早々に制圧して、デベロッパーとして開発販売を考えていた。
とは言え観光資源として生かすなら、現地の文化文明はそのままにしておくというのも理解出来る。
雇用スタッフも、外部から連れて来るより、現地の人材をそのまま使うほうが観光資源としては有用だ。
「この星域での経済活動を当社が独占するためには、他社を排除する必要があります。
ですが、我々が前に出ると、武力で自由経済活動の阻害をしていると叩かれます」
ファンドマネージャーは、手元の資料を見ながら説明を続ける。
「そこで、現地政府に治安維持の名目で一任します。
現星域にとって予想される脅威の排除と、我々の目的は一致します」
地球の技術レベルは、ようやく近隣惑星へ無人機を送るのがやっとだ。
とても、他星域からの侵攻に対して防衛手段になるとは思えない。
「そこで、原住民に艦載機の補修用スペアと無人ドッグを有償で貸与。
機体設計やデザインを地上の原住民に依頼しました。
そのデータを受け取り、無人ドッグで軌道上での組み立てになります。パイロットも現地派遣されます」
「全部、現地で調達するのか?」
「これが一番安く出来る上、技術コンサルタント料やドッグ船のリース料といった日銭も手に入る算段です。
こうでもしないと、我々の赴任手当も出せません」
ビタ一文出そうとしない会社の方針に、来期の給与のベースアップは無いことを感じた。
「了解した。データの受け渡しだけなら、安く済む。地上で組み立てて打ち上げると、金がかかるからな。⋯しかし」
ストラテジストは首をかしげた。
「パイロットは必要か? ドローンタイプでいいだろ?」
【愛知県 日間賀島】
この地区に、タクシーは走っていない。
本来は。
⋯⋯今まで走っていなかったタクシーが、客を捕まえた。
「西港までお願い出来ますか?」
「はい、どうぞ~」
「いつの間に⋯⋯こんな小さな島に、タクシーあったんやねぇ」
【月裏側 母艦オウムアムア ブリッジ】
「星間作戦中は、遠隔操作では通信にタイムラグを生じます。咄嗟の判断には、パイロットの搭乗が不可欠かと」
ファンドマネージャーは、手元で木製の珠を指先で前後に動かしながら、パチパチとリズミカルな音を奏でていた。
「パイロットは、人件費が安い現地スタッフを雇用します。
万が一の時には、『遺憾の意』を表明するだけでいいと、現地政府が教えてくれました」