37 あかふく超えハムスター
【地球周回軌道 みんなの地球連邦 試験練習船 J―NAS】
今回、護衛するのは太陽観測衛星という特殊な機体である。
太陽探査機は、太陽の重力に対抗するために、可能な限り速度を上げて太陽に引き込まれそうな距離では速度を生かして振り切る。
そのため、探査機は太陽と金星の間で複数回スイングバイを繰り返し、最高速度に到達して太陽に接近していく。
今回は最後の金星スイングバイの際の護衛だ。
なるべく金星の軌道外側で護衛していく。
それよりも太陽に近い距離は、妨害を画策するとした場合には、相手の機体も耐えられないと推定している。
【同 中央メインデッキ トゥラン整備塔 ボーディングブリッジ】
じつはメカマニアであるミケアは、トゥランの今のフォルムを見てはニヤニヤしていた。
おそらく、初めての新車を買った社会人の時の気分だ。
蛇足だが、ミケアが初めて買った車は2BOXタイプの普通車だったが、交差点で軽自動車に後ろから突っ込まれて、廃車になった。後ろを振り向いたら、後部荷室部に軽自動車のボンネットが入っていた。
【同ブリッジ オペレーションAI ボギー】
「>_間もなく、大気圏往復艇が到着します。ハッチオープン。ナビゲーションを渡されました。こちらで誘導します_」
【同 中央メインデッキ トゥラン整備塔 オペレーションAI ボギー】
「外部ハッチ閉鎖。与圧確認。気圧差無くなりました。これより内部ハッチのロックを解除します」
与圧扉が開くと、大気圏往復艇から船長が降りてくる。
トゥランがすぐに目に入ってきたようだ。
トゥラン整備塔ボーディングブリッジにいたミケアに声をかける。
「……ずいぶん、荒々しいフォルムになってるけど、こんなに必要なのか?」
すぐに目に着いたのは、左腕に装備されたシールド。敵弾を防ぐよりも、今回の作戦の環境に対応した耐熱のためのシールドである。
チタンジルコニウムモリブデン合金製の耐熱シールド。溶解しやすいアンテナ、センサー部は、タングステン合金カップで保護されている。
トゥランの外装は、地球外文明の素材をベースに発泡カーボンとホワイトセラミックコーティングを施してある。
右腕には、前回と同じパワーランチャーを装備しているが、違うのは砲身がかなり短い。
前回長過ぎて振り回せなかった反省と、長距離射程はJ―NASが担当すればいいだけのことだ。
太陽の重力圏内に近づくことはないが、一応の耐G装備に換装済み。
前回の相手機体との相撲試合に負けた悔しさはミケアの感情なのでそれは置いといて、
今回は極力対抗出来るように、親会社から装備を輸送してきた艦載機を魔改造したランドブースターを背中に装備する。
このランドブースター、元親会社の艦載機は、初期に配備されたJ―NASやトゥランと違い通常エンジンはフルパワー仕様である。
元は、戦闘などでの行動不能に陥った大型艦船、J―NASよりも大型質量でさえも回収曳航出来る能力を持つ。
この艦載機は元々配備予定は無く、トゥランの装備を緊急輸送するために、リミッターは仕込まなかった。ただし、ワープコアは封印されている。
船長は事前連絡で、対象の近接護衛でもないので周囲の警戒だけしておけばいい、と聞かされている。
今の目の前にそびえ立つトゥランを見た時に、『ヤル気装備』になっている。なるべく無駄足に終わるように、船長は祈った。
脚部は、膝下、左右翼のように装甲がオープンされている。
高熱下での熱交換をアップさせたラジエーターパネルを露出させるためだ。
10m上のボーディングブリッジのミケアから声かかかる。
「おかえりー! お土産カモーン!」
【同 談話室】
ミケアは、テーブルに広げられたお土産にがっかりしていた。
名古屋出身のミケアにとって、『あかふく』は、今更感である。しかも、ハムスターにあんこと名付けているが、本人はあんこが食べられない。ただし、おしるこは大好物ではあるが。
しかもお土産あるあるだが、『あかふく』は、三重県伊勢名物である。
名古屋に行くと、『こんにちは、あかふくです。僕も名古屋名物です。どうぞお手に取って下さいね』みたいな顔をして、レジ横に置かれていたりするが、名古屋とは無関係である。
一方甘い物大好物な船長にとっては、あんこ文化の名古屋で、あかふくは同様に大好物である。
ミケアは、あかふくを箸で転がしていた。
「私のぶん、ボギーにあげるよ」
「>______味見してます_」




