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36 ハゲタカ

【名古屋市 七五三書店】


スーツ姿の男が入店してきて、店員に尋ねる。


「社長は、いらっしゃいますか? あさひ銀行から債権を買い取ったカミムラキャピタルと言えば、お分かりになるかと」


 離れた場所で本を探すフリをしていたストラテジストは、スーツ姿の男と店員のやり取りを遠目に見ていた。

 マネージャーは、ストラテジストが何かを感じ取っていたのが理解出来た。



 その後、店の奥から経営者らしき男が出てきて、ひたすら頭を下げている。


「社長、たった3億です。これでも、期日はだいぶ勉強してるんですがね。遅くなれば延滞利息も重なります。

 聡明なご判断をお待ちしております」


 スーツ姿の紳士は、社長としばらくやり取りをしたあとで、そのまま店を出ていった。


 

 

 ここの書店が無くなれば、『薄い本』の入手が困難になるとストラテジストは思案した。それはマズい。

 マネージャーが声をかけるよりも前に、ストラテジストは動いていた。


「主人、すまない。立聞きするつもりではなかったのだが、たまたま耳にしてしまった。

 事情は察する。我々の話を聞いてはもらえまいか」


 突然話し掛けてきた外国人に、店主は驚く。

 その外国人は、とあるファンドの関係者と名乗り、協力出来るかもしれないと持ちかけてきた。




【書店近くのカフェ まろほば珈琲館】


「ファンドマネージャーとして正直に申し上げて、今回の思い付きでの行動は、理解に苦しみます」


 カフェで休憩をしていた二人は、先の書店でのやり取りについて話し合っていた。


「君の発言を肯定する。感情で動くのは、経済的絶対行動とは言えない。反省もしよう。

 ただ、幼稚じみた思春期の意見として聞き流して貰って構わないが、全員が経済的絶対行動を取る中で、出し抜くとしたら最後は閃きとか直感だ」


 マネージャーは、テーブルの珈琲を眺めながら、ため息をつく。

「その意見に、理屈としては反論申し上げるところですが、業界屈指のストラテジストとしての立ち位置に押し上げたのも事実です。この世界、過程よりも結果を重んじます」


 通常、彼らは銀行が回収困難な不良債権を安く買い、債権回収権利が移った段階で、代物返済を迫る。


 先の書店は、昨今の紙の本離れで客足が少なくなり、

 2Fフロアのビデオレンタル、DVD、Blu-ray販売は動画配信の影響で、

 同じくCDも、サブスクの影響で姿を消して、今は空きスペースになっている。


 素人目に見ても、この業態で続けるのは困難に見える。



「彼らはここの土地を狙っているのだろう。

 ここは、交通量の多い一等地で駐車場含めこれだけの広さだ。

 ここへ来る途中で、工事現場を見ただろう? 掲示してある工事責任者表に、原住民の大手不動産会社の名前があった。その会社は、商業施設開発のデベロッパーだ。


 ストラテジストは、窓から見えるおそらくは小学校を指差した。


「あそこの学校、校舎が比較的新築だと見えないか?

 つまり、ここの原住民の都市計画では、将来の周囲の人口増加を睨んでいると判断出来る。

 周囲の人工統計分布などを見たいところだが、土地を転売すれば、3億なんて端数だろう」


 企業が生産活動をして利潤を待つより、企業を解散させて資産売却を計る。


 マネージャーは、原住民の商慣習、金融を勉強している時に、目にした強烈な言葉が印象に残っていた。


『 ハゲタカ 』


 債権者を息の絶えそうな動物に例え、債権回収に乗じて根こそぎ奪っていく様を、死肉に群がるハゲタカに例える、原住民の強烈なパワーワードだ。



「では、勝算はおありで?」


 ストラテジストは、珈琲を混ぜるスプーンが止まる。


「・・・今から考える」




【地球周回軌道 みんなの地球連邦 試験練習船 J―NAS ブリッジ オペレーター】


「ミケアさん、次は太陽行くらしいです。人工衛星の護衛とのことです」


 何かはわからないが、J―NASが火星付近で襲撃を受けたことを重く見たアメリカの関係機関が、日本政府に相談、そこからの依頼とのこと。


「・・・トゥランはそんな高温度に耐えられないよ。この船もそうでしょ?」


「太陽直近は、脅威と見られる機体も近づけないだろうということで、護衛出来る範囲でのお仕事です」


「太陽の重力だよ? 太陽に引きづりこまれるよ〜。

 この前も意味不明な機体と相撲取って、推進力で押し合って負けちゃったんだよ。

 体重230キロの相撲取りに、体重40キロのトゥランちゃんが、ペチペチ!ってやって負けちゃったんだよ。悔しいよ」


 太陽探査機『マーカーソーラープローブ』の護衛だ。時速60万キロで、1600度の中へ突入していく探査機だ。


「全部がトゥランと桁違いだよ、そんなスピード出ないよ。

 凄いよね、地球の探査機のほうが全て上回る性能なんて。まだ、地球のテクノロジーも捨てたもんじゃないんだね」



 ブリッジへ遊びに来ていた一人の作業員が、プライドに触れたのか反論する。


「今回のトゥランは違います。先に送られた親会社の艦載機が、トゥランの背中にガッチャンコします。耐G慣性制御も載せ替えて艦載機のスピードに耐えうるものになりますよ。

 今度土俵に上がれば負ける気がしません!」


 作戦の最終判断は、船長に委ねられる。作戦執行は会社や親会社の意向に沿うが、出港の可否は船長権限である。




 船長は、その頃、名古屋城を見学して、金シャチ横丁でお茶を楽しんでいた。

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