32 武装化改修
【月裏側 母艦オウムアムア ファンド系投資顧問星系探査艦 指揮官ブリッジ 正面モニター】
「僕がフィアンセと名乗ると、隣のストラテジストの紳士が心穏やかではいられないかと思ってね。
彼の心を乱すことは本意では無いんだ。
ここでは、彼女を一番良く知る理解者として、
振る舞うことにしよう」
突然、オウムアムアに星間通信が入ると、相手は、両家の親が決めたファンドマネージャーの許婚と名乗る。
彼はライバル会社期待のホープであり、ストラテジストのライバルでもある、業界でも新進気鋭のアナリストだ。
「ふん、当人同士のことだ。第三者の私が他家のことを、とやかく言うつもりは無い」
その時隣のマネージャーから、何かしらの圧を感じた。
「僕はお互いの親交をゆっくり温めるほうが好みなんだが、麗しの君の御両親は幸を急ぐ方でね。
御両親に良く計らうなら、手加減は吝かではないんだがどうかな?
いいのかい? 今、取り組み中なんだろ?」
【火星から地球へ帰還中 みんなの地球連邦 試験練習船 J―NAS】
火星軌道で、未確認機体を後方へ誘い、J―NASの全力発進の後方プラズマ噴射に巻き込む形で、迎撃出来た矢先、
今度は正面から接敵する形で、危機はまだ去っていなかった。
「正面、主砲威嚇射撃! くれぐれもこちらから当てるなよ。
当たったら仕方ないが、当たらないように当てろよ!」
「>____?_」
難しい内容に、オペレーションAIのボギーがフリーズする。
「ミケア、出すぞ。準備!」
「時間外手当は、出ます?」
「今日は飛び起きてブリッジに来てから、1時間しか経ってない。定時まで働け!」
「>_未確認機体、速度合わせて来ます。間もなく、グレード1へ進入_」
「ミケア君、わかった。
もう間に合わないと思われる、君の横の綱ラーメンの割引き券。私がラーメンをご馳走しようじゃないか」
「・・・・・」
「・・・わかった、餃子も付けよう」
ミケアとオペレーターは、がっつりと握手を交わして、ミケアはブリッジを飛び出した。
眉間のシワをより深くした船長と、満面の笑みのオペレーターが顔を見合わせた。
「あの握手の意味は・・・?」
【同 中央デッキ トゥラン作業整備塔 ボーディングブリッジ】
今回、トゥランは初の武装を施した、標準装備状態になった。
頭部左右固定武装30mmレールガン。
腕にパイロンを介して固定するトゥランの半身ほどの長さのパワーランチャー。
背面に、手作りメタルソード。
実は、固定武装が一番強力である(異論容認)。
頼れるのは、実弾装備だ。レーザー系は、拡散されてしまえばそれまでだ。
なぜ、携行装備でないのかと言えば、レールガン本体が一番高価で一番複雑なので、携行装備としてポイポイ捨てられては困るからだ。
一方、弾は安価なので、経費的な使用制限は設けられていない。
パワーランチャーを含むレーザー兵器は拡散防御されてしまうと歯が立たない。
戦艦の主砲クラスならともかく、支援機のパワーランチャーは、時として拡散防御されてしまう。
逆に投棄しても、経費にダメージが少ないものは、邪魔なら投棄する。
なるべく持ち帰るようには言われているが。
「>_ミケア様、船長、トゥランが発艦許可を求めています_」
「出してくれ」
「トゥランちゃん、出ます!」
「>_PERMISSION GRANTED. GOODLUCK TORUN!_」
(発艦を許可する。トゥランの武運を)
「!<ポーン>」
合図と共に、電磁カタパルトによって、宇宙空間へ巨体が押し出されていく。
「ちっ・・・」
今回は、J―NASの前方進路上からの障害の排除を第一にする。
ほどなく、接敵する。
トゥランは、パワーランチャーを斉射して、未確認機体を牽制する。
J―NASの前方進路上からの排除は、さほど苦労は無かった。
あとは、相手がどこかへ行ってほしい、でなければ、実力をもって排除するしかない。
「>_未確認機体の機影ロスト_」
「・・・」
単に見失ったのか、それともこれで決着したのか・・・。
【J―NASの前方、やや上に位置するトゥラン】
「>_警告。下から高速接近、接触まで3秒。対ショック!_」
『!<ゴッガガガガ!>』
「うわあぁぁぁ!」
急速なショックと加速Gに、トゥランは巻き込まれる。
「>_未確認機のマニピュレータに捕捉されました。後方へ引き込まれています_」
トゥランと同じ程度の大きさの戦闘機。その姿から、両脇にマニピュレータを生やした、独特なスタイル。
このマニピュレータに前から腰部分を掴まれて、未確認機の推力で、J―NAS進行方向とは反対へと引き回されていく。
相撲取りが土俵外へ押し込まれていくような構図だ。
「ミケア、拘束を解け! 正当防衛だ、破壊して構わん!」
携行のパワーランチャーは長過ぎて、上手く銃口を向けられない。
『!<バッババババババ!>』
トゥランはガッチリと組み合った未確認機に向けて、頭部のレールガンを一斉射120発✕2砲を撃ち込む。
頭部の稼働域の関係で、マニピュレータに向かって撃てず、これを破壊出来ない。
未確認戦闘機の背中部位に全弾撃ち込んだが、勢いは止まらない。
【火星から地球へ帰還中 みんなの地球連邦 試験練習船 J―NAS オベーションAI ボギー】
「>_相対速度差から、後ろ方向へこれ以上母艦と支援機の距離が離れると、帰還出来なくなる恐れがあります_」
現行『レールガン』
中国で毎分120発・・・(謎)
日本は、「連続」120発。毎分10発程度。
作中は、毎分120発。見映え的に。




