3 世界の最も長い一日
【お昼のラジオニュース】
「総理大臣の談話です
『国民の皆様におかれましては、落ち着いた行動を』」
「日経平均前場終値をお知らせします。
地球外文明の脅威の一報で、前場終値は4000円超の暴落です」
【月裏側 母艦オウムアムア ファンド系投資顧問星系探査艦 指揮官ブリッジ】
「地域とは?」
ストラテジスト。この船のトップで司令官である。
経済動向を分析し、環境の市場動向や産業のトレンドを分析しアドバイスする。
一方で、ストラテジストの運用方針を踏まえ、具体的に行動を起こすのがファンドマネージャーだ。
長い髪をくるくると指で巻いていた美人ファンドマネージャーにとっては、資料と現地の齟齬は慣れているようだ。
「現星域には、発展途上ではありますが、高度の経済活動を行っているとの報告が上がっています。
ただ、統一政府がございません。各地域でそれぞれが国家を名乗り、それぞれの政府が個別に支配している模様です」
聞いていない内容に、ストラテジストは戸惑いを抱いた。
先行して入っていた偵察部隊からは、特に報告も上がっていない。
資料として上がっているのは、原住民の指令部が置かれているとされる東京ビッグサイトで入手した各資料だけである。
「ふむ。では、あの惑星の軍事力は、如何程か?」
後ろに立っていた軍事部門のトップ、参謀が手元のタブレットを見ながら報告する。
「彼らは星間航行は無人機を上げるのが精一杯で、交戦能力はありません。
ただ、惑星地表面戦闘においては、若干の軍事力を保有しておるようです」
【ハローワーク 名古屋東 入口掲示板】
『乗務員募集。福利厚生充実。レクリエーション多数!かっこよく稼ごうぜ! 仲間募集!』
ミケアは、失業保険の転職活動確認のために、ハローワークへ出向いていた。
そんな彼女は、入り口にあったパンフレットを手に取り、じっと見ていた。
「乗組員募集か⋯トラックもバスも不足してるらしいしなぁ⋯⋯ん〜」
【月裏側 母艦オウムアムア ファンド系投資顧問星系探査艦 指揮官ブリッジ】
「日本という地域政府とコンタクトを取っています。
なんでも、この資料によると大型二足歩行の機動兵器や、大型艦船の開発に特化しているとのこと。防衛装備を開発するなら、この日本が便利ですわね」
ファンドマネージャーは、イケブクロという場所で手配した資料を見ながら、なぜ日本政府を選んだのかをストラテジストに説明していた。
始めて聞く話に船団のトップ、ストラテジストは、驚きの声をあげる。
「待て、何を作るって?」
「ですから、威嚇防衛用の機体のことです。他社に対しての」
「⋯それは理解するが、うちの艦載機じゃダメなのか?」
ファンドマネージャーは、パラパラと別資料を見ながら、説明を続ける。
「今回、パイロット搭乗保険と機体保険が適用されないとのことです。
であれば、パイロット含め、現地で安価な機体を調達したほうが、コスト面で有利です」
ストラテジストは、頭を抱えた。
「惑星開拓業者が、業務上必要な保険を使えないとは、どういうことだ!?」
「限界星域という扱いのためです。未開発星域のため、パイロット、機体の保険が適用外になります。今回は、会社は最低限の保険しか入っていません」
それに、続けてマネージャーは答えた。
「逆に言えば、現地で用意した機体は、登録の必要がありません。ので、登録諸費用や税金が浮きます」
手持ちの艦載機で事故でも起これば、損失した機体に保険が降りず、パイロットにも保険が適用されない。
まして家族への賠償となると、自社の資金体力では、そのまま倒れてしまいかねない。
ストラテジストは、モニターに写された設計段階の機影を見ながらの呟く。
「無登録の機体をハンドメイドで作るのか?」
「はい。こちらで原住民草案の機動兵器と、それを支援する母船を我々で用意します」
【ハローワーク 名古屋東 1番窓口受付】
「すみません、求人案内を見たんですが」
「こちらですね? では窓口でお呼びします。お掛けになって、この番号でしばらくお待ち下さい」