25 動き出す思惑、動き出すハム
【火星軌道へ向けて航行中 みんなの地球連邦 試験練習船 J―NAS 後方エンジンブロック 噴射ノズル】
加工中の実剣を持ったトゥランは、船外へ出てJ―NASのエンジンブロックに回る。
そして、トゥラン本体をノズル側面に位置させて、気を付けながら四つあるうちの一つの噴射ノズル後方に剣だけをかざす。
「いいよぉ!」
「了解。エンジン最小限レベルで稼働開始!」
ミケアからの合図で、J―NASは微速前進にもならない程度のエンジン噴射をする。
ノズルからのプラズマガスに晒された実剣は、徐々に加熱され、赤身を帯びて光だす。
温度センサーを見ながら、ミケアはタイミングをはかっていた。
エンジン噴射で加熱して、すぐに宇宙空間のマイナス270度で冷却して粗熱をとる。
これを加熱温度を変えて三回繰り返す。
最後の加熱を終えると、船長にエンジン停止の合図を送る。
「OK 、もういいよ」
「エンジン停止」
「>_エンジン停止。軌道修正の計算に入ります_」
J―NASは、再び慣性航行に移る。
応力除去と含有炭素の均質化を終えた母材は、硬くしつつ、そのままでは脆く折れてしまうので、焼き戻しの工程を入れて硬度をやや落として、粘り強さ、耐衝撃性能に優れた一品に仕上がる。
真空中なら、急冷の必要は無いかなと考えた。
「真空焼き入れって、こんな感じでいいのかな?」
【同 メインデッキ】
冷ました実剣と、元々の予備の装甲板を、ハンマーで叩いてみる。
「装甲板⋯⋯コンコン」
「焼き入れした実剣⋯⋯キーン⋯」
焼き入れした実剣は、透き通るような高音を奏でる。
「硬くなったんじゃないかな?」
「ボギー、あとは研磨頼める?」
「>_お任せください_」
天井クレーンが実剣を吊り上げて、移動させていく。
【日本 名古屋市中区 吹上ホール投資家セミナー】
「まず、下落時には、慌てて狼狽売りしないこと。しっかりとシートベルトをきつく絞め直し、衝撃にそなえる。
持っている株の価値を見極めること。
株の基本は、安く買って高く売る。十分安くなっら、少しずつ買い増せばいい。
私はこれで、1000万を300万にした」
【月裏側 母艦オウムアムア ファンド系投資顧問星系探査艦 ブリッジ オペレーター】
「子会社のIR担当の元に、苦情が殺到しているみたいです。担当の子、泣いてます。
『補てんしてもらえますか?』
『配当、早く出せ』
『自社株買いしろ』
『いつなら空いてますか?』
等⋯⋯。
他に銀行や香港のファンドから打診が来ています」
銀行は資金管理についてか。
香港のファンドというと、あまりいい話ではないのだろう。
この会社の地球外のテクノロジーは、どこも喉から手が出るほど欲しいのだ。
株価が下がったタイミングで、買収を狙ってきてもおかしくはない。
「参謀。あの人型な。あれ、いくつか用意出来るか?」
「結論は可能です。我々が豊富に持っている予備パーツを、多少の加工は必要ですが、くっつけるだけですから。外装は3Dプリンターで出せます。
ですが⋯⋯」
「ですが、ダメです!」
マネージャーが割って入る。
「現時点でのこれ以上の投資は、回収見込みが低いと推算されます。そして、乗務員不足です」
【アメリカ合衆国 国防総省庁舎 ペンタゴン United States Space Force、USSF】
実のところ、先日、日本船籍の宇宙船が攻撃を受けた事実は、世界の軍事部門を震撼させた。
日本船籍ではあるが、今や地球を代表する星間航行を可能とする唯一の船体である。
先の攻撃は、地球文明に対しての宣戦布告との見方もある。
とは言え、テクノロジーに大幅に開きがあり、宇宙域での迎撃能力は、現状の地球には無い。
アメリカ国内においても、先の相手方とコンタクトを取るべきだとする融和派と、日本に協力して武装化するべきと唱える強硬派に分かれる。
他方、共産国家は今回の襲撃側の集団とコンタクトを試みる方向に向かうと分析されている。
あわよくば、地球外文明のテクノロジーを手に入れたいと考えているに違いない。
今現在、地球とコンタクトを取る地球外文明のオウムアムアは、日本政府以外との接触を拒絶している。
窓口を一つにしていないと、収拾がつかないからだ。
また、他の地域政府に比べ、日本は武器使用に対しての少なからず抵抗感を持っている。
反旗を翻す可能性が他国に比べ低いと判断されている。
【新聞朝刊各紙 一面】
『アメリカ、日本を全面支援。同盟国としての認識共有』
『宇宙域での武装化を容認』
『関税引き下げ。日本を取り込みたいアメリカ』
『中国ロシア、日本の宇宙域での武装化抗議』
『松本、テレビ復帰か』
【月裏側 母艦オウムアムア ファンド系投資顧問星系探査艦 ブリッジ 参謀】
そして、今は日本とのコンタクトに限定しているのは、他国にはハムカツが無いのも大きいかもしれない。
「他地域政府が、資金供与の申し出を現地政府にしているそうです」
それを聞いたストラテジストは、キョロキョロと辺りを見回す。いないな。
「くれると言うなら、もらっておけばいい。マネージャーの機嫌も良くなれば、職場環境の向上に繋がる。
マネージャーに手配させて、参謀は子会社へ追加装備と補充を」
「では、さっそく⋯」
【火星へ向けて航行中 試験練習船 J―NAS 談話室 船長】
「追加装備が届く。装備を載せた艦載機が届くから、届き次第、トゥランの武装化に着手。
艦載機は無人タイプの支援機として、こちらで預かる」
「それだけ?」
「光学タイプのほか実弾タイプも積んでくるし、飾りだった固定武装の補充用の弾薬。これでフル装備で出せる」
ミケアは、首を振る。
「いや、装備てんこ盛りで出るシチュエーションって、危ない場面じゃん。
それより早く帰らせろって言ってんの。横の綱ラーメンの割引券、期限切れる!」
【同 ミケア自室 机上
第一ハムスターケージ "あんこ"さん
第二ハムスターケージ "きなこ"さん 】
主人のいないところで、ある子は着々と作戦を遂行していた。




