22 条件反射、反撃
『!<ゴォォーーーン!>』
「わあああああ!!」
突然ミケアの悲鳴。
【人型支援機トゥラン コックピット】
激しい振動と共に突然モニターがブラックアウトする。
トゥランの顔面に照明弾の直撃。
顔面から被弾した際のガスがゆっくり消え、一瞬焼き付いたメインカメラが機能喪失する。
J―NASほどの質量だと、照明弾程度の被弾にはビクともしないが、トゥランは姿勢を崩した。
「>_被害はメインカメラ損傷。予備に切り替え。姿勢回復します_」
プシュンプシュンと、スラスターの制御が入る。
今回、トゥランは撮影目的での船外活動なので、武装を施していない。
固定武装はあるが、弾は、配備すらしてもらえていない。
配信目的の株主に見てもらうための、見映え良い式典用の装備に換装されている。
背中に実装された実剣も、式典用のダミーだ。
その他背中の装備一式、帰投時にはJ―NASの回収用のマザーアームに干渉するので、投棄する。
ミケア自身、戦闘経験も無ければ、戦闘の可能性なぞ、転職の際にハローワークで聞かされていない。
オペレーターも同じで、自分の職場が戦場になるとは思っていない。
最初こそ一瞬、不明機の存在を確認していたが、改めて見ると消えていた。
ボギーが監視していたが、やはり途中で見失った。
J―NASの船長は、考えあぐねていた。
「追撃が無いな。攻撃目的ではないとすると、威嚇か?
しかし、何に対する威嚇だ?」
【東京市場 前場 株式SNS 】
攻撃を受けた様子は、偶然にも配信用カメラに映り込んでしまった。
その様子から、みんなの地球連邦株式会社の株価は、一転暴落していく。
「勝負あったっぽいな」
「勝負ありましたな」
「「ヨシッ!」」
「今日買っちゃったけど、大丈夫?」
「さよならだよ」
【月裏側 母艦オウムアムア ファンド系投資顧問星系探査艦 ブリッジ オペレーター】
「株価の下落が止まりません!」
ストラテジストは、ここで『敵』だとする正体の、今回の目的に気がつく。
「これが、奴らの目的か!? 配信に合わせたな」
その日、株価値下がり率ランキングに入った。
【日本 動画配信プラットフォーム】
リアルタイムで、『みんなの地球連邦株式会社所属 試験練習船 J―NAS』が被弾する様子が、ネット配信で流された。
信号弾として使われる場合があるが、直接攻撃に照明弾が多用されたことを考えると、殲滅ではなく、別の目的を持った行動と思われる。
カメラ映えするようにわざと照明弾を使用すれば、派手な被弾を演出出来る。
『買い』で株を保有していた個人投資家はもとより、ヘッジファンドも、その様子は恐怖しかない。
次々と投げ売り状態になり、『みんなの地球連邦株式会社』の株価は、売り圧力に耐えられずに、値下がりしていった。
ストラテジストは、子会社の株価の動きを確認していると、それまでの値動きが不自然な出来高に気がつく。
おそらく『敵』は大量に売りで仕掛けたに違いない。売りで仕掛けた場合、株価が値下がりすればするほど、儲かる。
昔からある株価操作だが、今は監視が厳しく、少なくなった。
「やられた⋯」
ストラテジストは、肩を落とし、椅子にバタンと力無く腰を落とした。
今回の売り仕掛けで、敵は大量の資金を市場から吸い上げた。
「本当の敵がわかったぞ。原住民のヘッジファンドなどではない。宇宙規模の仕手筋集団だ」
【地球重力圏離脱航行中 試験練習船 J―NAS ブリッジ 船長】
「トゥラン、回収準備。準備出来次第、帰投させろ」
【地球 配信画面】
『本日のライブ配信は、終了しました』
バックは、ミケアのハムスターのライブ配信映像に切り替わる。
配信コメント欄は、大いに荒れた。
大損した投資家の心理を、ハムスターの映像がさらに逆撫でする。
『ハムケツ、ムカつく』
『ごめん。俺が今日全力買いしちゃったから』
『おまえら、ずっ友』
『まだだ。まだ終わらんよ』
【支援探査機 トゥラン 式典用装備】
トゥランは帰投のために、損傷具合を調べるべく、各モニターを、チェックしていた。
「?!」
巨大な隕石。目視ではただの石ころだが、熱センサーには、隕石の端に少し色が見えた。
ミケアは急遽、条件反射で背面エンジンと後方向きのスラスターを全開にした。
「!」
ミケアの呼び掛けに呼応するが如く、トゥランは、背面のアレスティングフックを90度展開。
アレスティングフックに懸架した式典用の実剣を手に掴む。
船長の交信が割り込む。
「ミケア、交戦するな! 下がれ!」




