18 遠くて届かない場所へ
【名古屋市内 ミケアのスマホ 着信】
『!<~~♪~〜♪>』
「⋯⋯はい、私ですが」
会社からの電話だった。親会社の指示で上に上がって来いとのこと。ダルい。
窓から外を見ると、ムキムキとんかつSPがホウキで道路掃除をしている。
ハムスターは、横で回し車を回している。
今度も宇宙で二週間くらいを予定しているとのこと。
ペットホテルに預けることも考えたが、ハムスターとワンちゃんと料金が同じというのは、わかるけどわからない。
ので、今回は一緒に連れていくつもりだ。いや、公安の彼に押しつけようか。
【日間賀島 西港 大気圏往復タクシーを置いてあった場所】
釣りをしていたオペレーターの子と合流して、大気圏往復タクシーの駐機場所へ戻る。
「⋯⋯⋯!? 前、ここに置いたよね?」
「あの⋯⋯無いなってますね」
日間賀島西港の駐車場に置いておいた、少し焦げ目のある、大気圏往復タクシーが見当たらない。
あれがないと、上に上がれないんだけど。
もう、戻らなくてもいいよ、ってことかな。
「あそこの、大衆食堂の人に聞いてきますね。待っててください」
オペレーターの子が、走って聞きに行く。ええ子やん。
戻るなら、帰りのフェリーの時間もあるからなぁ。
「お待たせしましたあ!」
「何かわかった?」
「えっとですね、モノマネして言いますね。
コホン、
『ずっと放置車両で置いたままだから、タクシー会社に電話したわ。キー置いたままやから、そのまま持って帰ったよ』
⋯⋯だそうです。モノマネ上手でしょ? 5分くらい練習しました♪」
「じゃあ、5分前には来れたと。
それに、モノマネされても、食堂利用したことないから、オリジナル知らないし」
さて、船長に連絡入れてから、車両取りに行くか。
「行くよ~。それか、釣りでもして待ってる?」
オペレーターは、即答で、
「釣りして待ってます!」
「⋯⋯そ。じゃあ、ちょっと行ってくるから」
【某地元タクシー 名古屋市内走行中 ラジオ】
「では、次期総裁選の方々にお話をお伺いします。まず、さなえあれば憂い無しで⋯⋯」
後部座席に座るストラテジストは、ますますヒートアップしていく。
「おい、運転手! 車両交換だと? よく見たら、ナンバーが白? だからなんだ!?」
「スミマセンねえ、お客さん。これ、よく見たら、違う車持ってきちゃったみたいで。
いったん営業所戻りますね~」
「むぅ、こっから近いんだろうな!」
激オコなストラテジストの横で、まだ二人のドライブを楽しみたいファンドマネージャーは、このままでもいいかなと思っていた。
【某地元タクシー営業所】
ミケアは、肩を落としていた。
「あの車、営業に出ちゃった!?」
「仕方あらせんがぁ、どえりゃあそっくりな車に仕上げてあったもんだで」
ミケアが電話で問い合わせると、ここにあると聞いてきたのでやって来たら、車は無かった。
「運行前点検で、ナンバー、白色だから個人の自家用車って、わかるでしょ! 点検してないだろ!」
「紛らわしい塗装にするからだがや。戻ってくるから、待ってちょ。お姉さん喉カラカラ? ネクターあるでよ」
「嫌がらせか!」
【某地元タクシー営業所で待つこと、15分】
「お、帰ってきたがや。見たってちょ、お姉さん。こっち!」
大気圏往復タクシーがやって来た。
大気圏突入時の、やや要所要所で焦げ目がある、一目でわかる。
「散々な目にあったな」
後部座席から出てきた男女の二人は、外国人かな、日本人でないとはわかった。
が、降りてきた外国人男性が、こちらをじっと見ている。
「どうも」
「⋯⋯おい、貴様。現地採用した原住民だろ? 母艦に履歴書が回ってきた。写真を見たから覚えているぞ」
「母艦? 原住民? ⋯⋯親会社の人?ビッグBOSS?」
「こんにちは」
もう一人のご婦人は、すごく丁寧なお姉さんだ。
「呼び出しがかかっているはずだが。
なんでこんなとこで、のんきにネクターを飲んでいるのかね?」
現地のタクシーにカモフラージュした大気圏往復艇が、間違えて本物のタクシー業者が回収してしまったことなど、詳しく事情を話す。
「ふざけた乗り物、仕込みおって。事情はわかったから早く行きたまえ」
「遠いのよ。今から知多半島有料道路に乗って⋯⋯経費で請求するから」
「すぐそこから、真上に上がればよかろう」
「相方が、現地で釣りして待ってるから、拾ってからになるの」
「この忙しいときに、釣りだと!? 査定に響くと思いたまえ」
カチンっ!
「なにぃ? 辞めるぞ、このやろう! 上に戻ったら、精密部品に塩かけてやる!!
原住民呼ばわり失礼だな!
ネイティブ ”なごやん” だぞ!」
ストラテジストは、ミケアの圧力に押され目を丸くした。
「うむ、さすがだ。それくらいの気負いが無いと、この世界ではやっていけない。人選にミスは無かった」
「んじゃ、先を急ぐから」
急いで戻ろうとするミケアを突然、ストラテジストは呼び止める。
「ときに、原住民。聞くが、周囲に美味しいハムカツのお店はあるかね?」




