15 おかえりなさい
【人型支援機トゥラン コックピット】
「トゥランちゃん、帰投しますよお」
ミケアの指示に従って、ボギーは人型支援機トゥランの帰投制御を始めた。
トゥランがボギーと交信を始める。
[管制 ボギー]
「>_THIS IS CONTROL M.C.C . TURN 180 DEGREE INVERSION_」
(こちら、マザーコンピューターコントロール。反転帰投せよ)
トゥランが各所のスラスターを吹かして、反転。メインエンジンを稼働させて、J―NASへと帰投する。
スロットルが勝手に動いていく。
最近の車のディスプレイのタッチ操作は嫌いだが、この機体はあえて物理スイッチにしてあるのは、こだわりなのだろう。
[管制 ボギー]
「>VECTOR TO FINAL APPROACH COURSE_」
(最終進入コースへ案内します)
「>_BRAKINGIN TO LANDING SPEED_」
(着艦スピードまで減速中)
バシュンと音と同時に減速Gを感じた。トゥランは、着艦スピードまで減速を開始する。
ミケアが緊張して見つめるのは、正面モニターに映るJ―NASの中央ハッチ。
どんどん大きくなっていく穴に吸い込まれていく感覚になる。
ハッチ上部から、ドッキング用のマザーアームが展開されているのが見えた。
J―NASは、前発進、前着艦を基本とする。
なぜ、普通の海上空母と同じように、前発進、後着艦ではないのか。
止まっているように見えるJ―NASもトゥランも、通常航行時、時速数十万キロのスピードで動いている。
後部からの着艦だと、時速数十万キロで動く母艦に後ろから追いつくには、さらに早いスピードが必要で、最大噴射でのエネルギーロスが大きい。
前部からの着艦は、トゥランはスピードを緩めるだけで、母艦が前から接近してくれる。スピードを合わせにいくだけで効率がいい。
[管制 ボギー]
「>_YOU'RE RIGHT ON THE GLIDE SLOPE_」
(進入角度問題無し)
「>_HOOK UP_」
(アレスティングフック展開)
「>_ONE MINUTE AND COUNTING_」
(着艦まで一分。カウントダウン続行)
[管制 ボギー]
「>_WELCOME HOME, TORUN_」
(おかえりなさい、トゥラン)
トゥラン、背面からアレスティングフックを展開。
ハッチ上部に見える回収用マザーアームとドッキング体制に移行する。
シュンシュンと、スラスターの姿勢制御音が聞こえる。
それでもかなりのスピードで接近していく。
一応の、実戦も想定された練習船ではあるので、のんびりと着艦する想定には無い。
[管制 ボギー]
「>COMING IN CONTAT WITH MOTHER ARM」
(間もなくマザーアームと接触)
「>_ALL GREEN. READY_」
(全て順調、レディ)
[管制 ボギー]
「>_3・2・1 CONTACT_」
(3・2・1、コンタクト)
接触のタイミングで、二秒ほど逆噴射方向のスラスター最大。
衝突エネルギーを打ち消すためと、失敗した場合でも最大推力で離脱するため。
推力の影響を内部に受けないように、デッキ内の与圧扉は閉じている。
トゥランのアレスティングフックにマザーアームがドッキングする。
マザーアームがトゥランの質量を、マザーアームの油圧ダンパーと、双方の慣性制御最大、トゥラン側の逆噴射で受け止める。
ガクンっと強い衝撃を受ける。
「>_CONTACT_」
(コンタクト!)
[管制 ボギー]
「>_CONFIRMED THE LANDING, TORUN_」
(トゥランの着艦確認)
「>_お帰りなさいませ、ミケア様_」
トゥランが回収され、J―NASのデッキのハッチが閉じていく。
内部の与圧ハッチがオープンになって、トゥランを収用していく。
【J―NAS メインデッキ奥 人型支援機トゥラン コックピット】
トゥランは反転され、作業棟に収用された。
「>>_THANK YOU_MIKEA_」
手元のモニターに表示されたあと、しばらくしてモニターの灯りが消え機械音が静かになっていき、電源が落ちていった。
コックピットハッチが開いて、ミケアが降りてくる。
「異世界の文明、恐るべし」
【試験練習船J―NAS ブリッジ 搭載AI ボギー】
「>_発進回収時の衝撃による、艦の姿勢が俯角0.3度影響。修正しました_」
「>_最終試験プログラム、正常に完了_」
一仕事終えて、船長はホッと胸を撫で下ろした。
「よし、あとは適当な石ころ見つけて帰るぞ。メンテナンスポッドで適当に回収するべ」
オペレーターとミケアは、きょとんとしていた。
「忘れた? トゥランちゃんは、小惑星探査機だよ。はやぶさ3号。お土産持って帰らないと」
【二日後 月裏側 母艦オウムアムア ファンド系投資顧問星系探査艦 ブリッジ】
試験練習船J―NASはまだ帰路の途中だが、一足先に、採集試験成功とハムスター帰還の報は、『みんなの地球連邦』からIRが出された。
「ようやくここまで来たな」
ストラテジストは、地球原住民にリースした機体が宇宙のゴミにならなくて、ホッと胸を撫で下ろした。
証券会社のアプリをモニターで見ていたファンドマネージャーも、そろばんをニコニコしながら弾いていた。
保有株価も上がり、融資も下りやすくなる。
日本では、おめでたい時には、お寿司というものを笑いながら食べるらしい。
さっそくアプリでの注文画面を開く。
自転車・バイクでの配達は、衛星軌道上までのサービスは対応していないとのこと。
一方、ストラテジストは、いつか地球に降りたら、焼いたハムが食べたいなと思った。
あんなにも地球人が慌てるほどだから、さぞかし美味しいらしいと、わかったので。
【東京証券取引所 東証アローズ】
『みんなの地球連邦株式会社』の株価は、2営業日ストップ高張り付き。3営業日後に、ようやく株価が落ち着いた。
【太陽系外】
しかしながら、新たな脅威が近づこうとしていた。
無人哨戒機がじっと、こちらへ目をむけていた。
低軌道の人工衛星は時速28,800km。
人類最速は、太陽探査機ParkerSolarProbeで現記録時速630,000km(東京―大阪2.8秒)




