14 目覚めの時です
【J―NAS ブリッジ 船長】
続けて、人型支援機トゥランの発艦訓練に移る。
「ミケア、行けるか?」
「会社辞めます」
「殉職する覚悟、見事! ボギー、出してくれ!」
【J―NAS 整備格納デッキ奥 気密エリア 作業棟】
殺伐としたデッキ格納庫で警告音が、鳴り響く。
「>_セーフティー解除。作業棟を下げます。ご注意ください_」
「>_気密エリア、三分後に大気開放します。気密服未着用の作業員は退避してください_」
デッキ内部に、ボギーの声がやや反響気味に案内放送を開始した。
【同 人型支援機トゥラン コクピット】
作業デッキの準備に平行して、トゥランの起動シークエンスがスタートする。
立ち上げまではボギーが、立ち上げ後はトゥラン自身が担当する。
「>_MAIN PWR-BATT ON
>_INS ON
>_EXT PWR OFF
>_APU START」
(メインパワーバッテリーオン、自立航法装置作動、外部電源切断、補助電源スタート)
「>_HYD SET
>_OIL PRESSURE RISING」
(油圧システムセット、油圧上昇)
電力系統が母船供給から、自前のバッテリーに切り替わり、自身のエンジン起動を担当する機器が立ち上がる。
トゥランの油圧が上昇し、規定値に達する。
「>_ミケア様、ハッチを閉めます。ご注意ください_」
トゥランのコクピットハッチが閉じられる。
「>_トゥランは、武装を装備していません。
照準ロックとシュミレーション上でのヒット判定になります_」
トゥランの作業棟の台座部分は、そのまま電磁カタパルトになっている。
無人でのメンテナンスを可能とするエレベーターを兼ねる作業棟が、トゥランの前部分を開放、台座を残して後ろへ下がる。
シューという音。三分を待たずに、気密エリアのエアーを抜いているようだ。
音が静かになり、最低人員を除き退避ブロックへ。前部を仕切る与圧扉が開放される。
すでに、外部装甲ハッチはオープンにされていたため、目の前には真っ黒で、遠くの星がキレイな、宇宙空間が現れた。
機体の振動を通じた音が少し。
デッキ内の空気は抜かれ、外部マイクから音を拾わなくなる。
宇宙は、静かな海だった。
【トゥラン、コックピット モニター表示】
「>_WAKE UP MY BOY. WE ARE WAITING FOR YOU_」
「ん?」
「>_発進はお任せください_」
各所のパイロットランプが点灯を始め、遠隔で電源が入る。
「>_TDLのアトラクションと思って、楽しんでください_」
モニターに、外の映像が写し出される。
ボギーなりに気を遣っているのが、なんだかなぁと思った。
ボギーの操作で、作業台座を兼ねたカタパルトがゆっくり前方に動き出す。
一方ミケアは、あと何ヵ月いれば、失業保険の再取得が可能か考えていた。
別の手元の情報モニターに灯が入ると、トゥランとボギーが会話を始める。
「>_HELLO. THIS IS TORUN. _」
(こちらトゥラン)
[管制 ボギー]
「>_EXAMINE DATA LINK , CHECK_」
(データリンク、確認)
母船とのデータリンクの常時接続を確認する。
「>_MAIN TRANS ENGINE
NO.1.2 ON.
NO.3.4 OFF.
NO.5.6.7.8 ON
APU SHUTDOWN_」
(メインエンジン、NO.1.2 オン、 NO.3.4 オフ、NO.5.6.7.8 オン APUシャットダウン)
補助電源装置でメインエンジンを起動。
役目を終えた補助電源装置をシステムから切り離す。
ここから、電力供給はメインエンジンの発電に頼る。
[管制 ボギー]
「>_CONFILMED TORUN. INSTRUMENT RECORDER ON_」
(トゥランの起動状況確認。フライトレコーダー、オン)
「>_REQUEST STANDBY_」
(待機状態まで誘導願う)
ゆっくり台座を進める。
やがて台座をカタパルト状態へ移行、発進準備が整う。
トゥランが突然動き出す。カタパルト上で、前傾して発艦姿勢をとったようだ。
電磁カタパルトから、なんとも言えない振動が徐々に大きくなっていく。
ミケアは、観念した。
「>_ミケア様、船長、トゥランが発艦許可を求めています_」
「出してくれ」
いよいよかと観念して、歯を食いしばるが
「………おや?」
動こうとしない。
「>_ミケア様、安全上、搭乗者の意思確認が必要です。意思表示をお示しください_」
あれか!有名なやつか!
「……言うの? 恥ずかしいじゃん」
「>_____」
「うぅ、……ミケアいきまあーす」
「>_PERMISSION GRANTED. GOODLUCK TORUN!_」
(発艦を許可する。トゥランの武運を)
「!<ポーン>」
合図と共に、電磁カタパルトによって、宇宙空間へ巨体が押し出されていく。
「おお、こりゃまた……」
重力制御が効いていても、それなりのGがかかった
バシューッと船外へ出てから、トゥラン自身のスラスターエンジンに火が入る。
「>_機体は順調です。テストモード、セルフチェック入ります_」
船長からも通信が入る。
「普通に、出る!とか、自分でスロットルを押せばいいよ。乗ってる人の意思が確認出来ればいいだけだから」
往年の名台詞が、ミケアは恥ずかしかった。
「>_ミケア様、善きところでスロットルを戻してください。静止します_」
スロットルを見ると、今も微妙に勝手に動いている。言われるまま、スロットルをゆっくり戻してみた。
トゥランの両肩のノズルや両脚部のノズルから逆噴射。しばらくして、J-NASからの距離が付かず離れずの一定になる。
「どうかね、調子は?」
「……さぁ?よくわからんっす」
時々、シュンシュンと音が聞こえるのは、自動制御のためのスラスターが作動しているらしく、ミケア自身、さほど無重力空間を意識しない。
トゥラン自身も重力制御が効いているらしいことも聞いた。
この機体を中国に持って行ったら高値付くんじゃないかと邪推する。
「宙に浮いてるゴミ袋が三つほど残してあるから、それに照準を合わせてくれ。こっちに向けるなよ」
ボギーが自動認識で、ゴミ袋にロックをかける。
「>_ミケア様。スロットルのボタンを押せば、シュミレーションでレーザーが照射されます_」
これか。言われたままスロットルのボタンを押すと、モニターで遠くのゴミ袋に当たり判定が出る。
「問題無いね。オーケー! 付近を散歩して、適当に帰ってきてくれ。
ボギー残りのゴミ袋、主砲で焼いといてくれ」
「>_ミケア様、飽きたら帰投を指示してください。自動で帰投します_」




