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11 生ハム、焼ける

【衛星軌道上 みんなの地球連邦株式会社所属 試験練習船J―NAS ブリッジ オペレーター】


「えっとそれが⋯⋯中身が、ミケアさんちのハムスターだそうです」


 ミケアが思い出して発狂する。


「そうじゃん! え、どうすんの? 受け取れるの? ちゃんと中に空気あるの!?」

「確認出来るか?」


 オペレーターが社内便のバーコードを入力すると、各種情報がモニターに表示される。

「えっと、送り主は、地上諜報、じゃないですね。はい、ミケアさんのペットカメラがそのまま着けてあるみたいです」


「中の様子を出せるか」

「お待ち下さい⋯はい、正面に出します」


 オペレーターが、正面モニターにペットカメラの様子を写した。

 ご飯も十分らしく、ふたりとも元気で回し車に掴まって浮いている。


 無重力で回し車を回すと、永遠に回り続けようとするので、あえて少し固めにセッティングしてあるとのことだった。

 へぇ、気が利くじゃん。⋯⋯無重力で回せるか!


「>_エンジン出力上昇_」

 AI のボギーが割り込んでくる。


 船内の機械の作動音が高音に変わってくる。

「>_当艦は、エンジン始動カウントダウンスタートから、V1を越えました_」


 ミケアは当初から、部屋に残してきたハムスターを連れてくるように注文していた。

 しかし、よりによって小包で送るとは思わなかった。しかも、このタイミング。


「>_エンジン始動シークエンス、カウントダウンより、発進意思決定レベルを越えています_」


 この試験練習船J―NASは、アニメに出てくるような宇宙船とは違い、徹底された低性能までダウングレードされている。


 地球人が手のひらを返して反撃してこないように。また、地球外文明からのテクノロジーを必要以上に渡さないようにするため。


 まず、融通が利かない。


 発進準備を取り止めるためには、ある程度エンジン出力が低い状態で止めなければならない。


 エンジンを止める止めないの最終意思決定するタイミングが、V 1と呼ばれる。これを越えたら発進を決断しなければならない。


 エンジン出力が上がり、発進意思決定レベルを越えてしまってからのエンジンオフは、エネルギーのオーバーフロー(使われなかったエネルギーが、行き場所を失う)を生み、危険だからである。


 また、実際にエンジンスタートさせ、稼働状態にあっても、噴射させるのは数分間だけでエンジンは停止し、以降は慣性航行及び、コース上に惑星が重なるなら、その惑星軌道上で重力を使って加速させる。


「って、ことみたいだけど」

「イヤイヤ、マズいでしょ! ハム回収してよ! なんで生き物、宅配便使うの!? 直接待って来てよ!!」

「社内便だからねぇ。そもそも、民間の宅配便は来ないぞ」


 しかし、あれだけの大きさの小包サイズに数週間の生命維持装置は積んでないだろう。

 宇宙放射線のことも、さほど考えてあるようには見えない。せいぜい数日の受け渡ししか想定されていないと思われる。


 ミケアは、混乱を隠せない。


「ロボットあるじゃん、あれで取りに行く!! で、もう帰る!!」

「乗ったことないだろ、無茶言うな」


 有史初の地球外技術の初動が、

『ハムスター取りに行った』

なんて、歴史の教科書に書けない。


「乗ったこともないロボットに、この後乗れって言うくせに!

 シュミレーションは、やれたもん!」


「>_警告。該当のドローンは、当艦後方より接近。予定通りなら、発進に巻き込まれます_」


 正面モニターに、船のエンジン噴射口の後ろを斜めに横切って後方側面サブデッキ、通称郵便ポストへの、小包ドローンの軌跡が描かれた。


「マズいな。最悪、噴射に巻き込まれたらハムが焼けるぞ。じゃなくても、噴射の勢いで、そのまま弾き飛ばされる」


 ミケアは声を荒げた。


「『あんこ』と『きなこ』が焼けちゃうじゃん、なんとかしてよ!! なんとかしろっ!! コンソール壊すぞ!!」


 船長とオペレーターは、焼けたお餅を一瞬想像したが、すぐにハムスターの名前だと気がついた。


「>_提案します_」

 ボギーが会話に割り込んできた。


「>_外装メンテナンスポッドでの回収が可能です_」


 外装の損傷データから、自身で考えて補修を行うため、宇宙空間で自由に立体機動をこなす、外宇宙用メンテナンスドローン。

 また、元々は積載機の回収も可能なように、そこそこの推力とパワーのあるマニピュレーターを実装する。


「間に合うのか?」

「>_ドローンの推力では、タイムオーバー。

 メンテナンスポッドなら、最大出力で回収往復した場合の可能性は、90%_」

「よし、ポッド出せ! 目標固定させろ! 今の状態で、まだハッチは開けられるな? 正面デッキでポッドごと回収する。人払いの確認出来たらハッチ開けておけ」


 外装用のメンテナンスポッドは、通常デッキには積載されておらず、各所に分散して格納されている。

 1機のメンテナンスポッドがJ―NASから飛び出ていった。

 かなり早い。もう見えない。




【月裏側 母艦オウムアムア ブリッジ オペレーター】


「問題が発生しているようです」

「何があった?」

「わかりません。問い合わせに、『ハム小包未着』と回答有り」

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