33 クラウスの帰省 理解の先に
※この話には魔術戦が含まれます。
魔術の系統や適性などの世界観設定(5話時点)は、2025/05/20の活動報告にまとめています。
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未読でも読めるように書いていますが、設定を把握しているとより楽しめます。ぜひご活用ください。
兵士たちの目には、二人が互いの動きを完全に読み合っているように映った。
だが実際には、戦場の流れを読み、構築していたのは、レオナルドただ一人だった。
クラウスは戦術を思考して動いているわけではない。
本能が告げる答えに従ったもの。生まれつき備わった“才能”だ。
『なんとなくあっちよりこっちを守った方がいい』
『後ろから攻撃が来る気がする』
そんな獣じみた“天性の勘”で、彼は動いていた。
そしてその“勘”こそが、理性で構築された戦術の構図を、いともたやすく破壊した。
木剣はすでに折れ、投げ捨てられていた。
二人は素手で――身体一つで戦っている。
攻撃し続けているのはレオナルドだ。
だが、クラウス相手となれば、攻める側が有利とは限らない。
クラウスはとにかく頑丈だ。軽い攻撃なら、何発か喰らってもほとんど効かない。
むしろ下手に打ち込めば、反動でダメージを負うのはレオナルドの方だった。
さらに、クラウスも要所要所で反撃をする。
それが渾身の一撃でなくとも、レオナルドにとっては十分すぎる打撃になる。
現状、傍目から見てダメージが大きいのは、レオナルドだった。
──とはいえ、こう思う者もいるかもしれない。
「そもそも、クラウスは〈障壁〉を使えるのだから、ダメージを負わないのは当然ではないか」と。
だが、それは誤解だ。
〈障壁〉とは、〈風〉と〈土〉の魔術を応用して発現される防御魔術である。
この魔術を扱うには、両属性の高い適性に加え、展開に必要な知識と技術を備えていなければならない。
〈風〉が障壁の形状を作り、〈土〉がそれに強度を与える。
つまり、〈障壁〉とは、場の魔力を凝縮し空間に固定して作る“魔力でできた透明な壁”である。
魔術をはじき、形や大きさを自在に変えられる。それが、ただの壁とは異なる点だ。
その性能は、使い手の技術と注ぎ込まれる魔力量に大きく左右される。
技術が拙かったり、魔力が足りなかったりすれば、強い衝撃を受けたときに結合が乱れ、〈障壁〉はあっけなく崩壊する。
また、展開されていない部分──いわゆる“隙間”からの攻撃は当然、防げない。
〈障壁〉による防御を成立させるには、敵の攻撃の方向や軌道、威力を瞬時に読み取り、それに合わせて適切な形を想像し、十分な魔力を注いで展開しなければならない。
さらに〈障壁〉は発現中継続して魔力を消費し続け、そのうえ、集中が途切れれば即座に霧散してしまうという性質もある。
だからこそ、これを自在に扱える者は極めて少ない。
アイゼンハルトが“王国の盾”と称されるのは、“軍の家”であることに加え、その血に〈障壁〉を扱うだけの適性を宿し、幼い頃から〈障壁〉を叩き込まれる家系だからだ。
〈障壁〉を崩す手段の一つは、ただひたすら攻撃を続けることである。
〈障壁〉が耐えきれないほどの衝撃を加えるか、展開し続けるための魔力が尽きるまで攻撃をやめないこと。
しかし、クラウスは化け物級の魔力量をもっている。
レオナルドの膂力と魔力では、クラウスの〈障壁〉を正面から破ることはできない。
──けれど、彼にはそれを崩す“術”があった。
なにせ彼は、誰よりも長くクラウスを殴り続けてきた男なのだから。
喧嘩をし、実戦を重ね、どうすればクラウスを倒せるかを、誰よりも真剣に考えてきた男だ。
どうすれば〈障壁〉を破れるのか。
考え、突き詰め、導き出した答えは、こうだった。
「魔力が空間に固定されているのなら、その結合を崩せばいい」
学者や魔術師が聞けば、こう返すだろう。
「そりゃそうだけど」
──そんなこと、できない。
第三十話時点までのキャラクター・家系設定を活動報告にアップしました。
お役に立つと幸いです。
https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3452086/
次回のタイトルは、「化け物と少年 」です。




