111 戦術合同演習 教官室の前哨戦
「その……何がそんなに大変なんですか?」
オスヴァンは、おずおずと訊く新任教官に苦笑した。
質問に返したのはイヴァールだ。
「簡単に言えば価値観の相違だよ。アイツらと俺らじゃ見るとこが違う。クラス分けだって揉めただろ」
イヴァールは、フン、と鼻を鳴らして続ける。
「今年は例年以上に荒れるぜ。なんせ、クラウスが居る」
「そうだな……」
教師陣からのクラウスの評判は、あまり良くない。
授業中の落ち着かない態度。
赤点とまでは言わないが、振るわない筆記テスト。
そのくらいの生徒なら、まぁ居るものだ。
しかし、クラウスはアイゼンハルトである。
アイゼンハルトならば、「できて当然」なのだ。
クラウス本人は懸命に頑張っているが、その結果は、常に主席であった兄たち二人と比べることはできない。
「チッ。あいつはどう考えても上位クラスだろ」
「我々から見たら、下のクラスには置けない」
けれど教師陣から見るとそうではない。
だから、クラス分けのときは場が荒れた。
授業態度やテスト結果を考えると、どうあっても上位クラスではない。
そう言う教師陣の台詞も分かったが、こちらからすると彼を中位クラスや下位クラスに回すこともできない。
「実技ができれば座学は関係ないと言うのですか」
この言葉までは、我々も冷静に返せた。
もちろんそんなことはないが、彼は特別だ。
テストの得点も“良い”とは言えないが、“悪く”もない。
座学と実技両方を合わせたら、上位クラスに入れて問題がないだろう、と。
そこに放たれたのが、これだ。
「あんな出来損ないを上位クラスにだなんて。信じられません」
クラウディウス・アイゼンハルトを理想の軍人だと崇める教師の言葉だ。
その教師はクラウディウスの息子であるクラディアンとクラヴィスのことも、共に高く評価していた。
そこに連なるクラウスが“ああ”なことに納得がいっていないのだろう。
しかし、だからといって、言っていいことと悪いことがある。
机を叩く音や怒声が部屋中を響いた。
最前線を知る者たちからのそれは、一種の暴力でもあったのではなかろうか。
斯くいうオスヴァンもいろいろと言ったが、イヴァールに比べればまだ冷静だった……はずだ。
今回も絶対に、クラウスの対応については揉める。
「レオナルドの方も、あれはあれで面倒なんだよな」
クラウスとは逆に、教師たちからの受けが異様に良い。
これは、仕方のない面もある。
何せ授業態度は真面目、試験は満点かそれ以上。
しかしそれを鼻にかけることもなく、授業外でも積極的に質問をしてくる。
入学当初は「高位貴族の気まぐれか?」と穿っていた者たちも、その姿勢に好感を深めていった。
「あのバカ教師が消えたのもデカいよな」
「イヴァール、もう少し言葉を控えろ……」
彼が一学年の頃、公然とレオナルドに嫌味を言っていた教師が居た。
だが、あるとき消えた。不正が発覚したのだ。
そして、それまでの問題発言も取り沙汰された。
その教師に追従していた者たちは、一斉に口を噤んだ。
自らは彼とは違うと、態度を改めた。
そういった積み重ねの結果、教師陣の中でのレオナルドの評価は最上級だ。
なお、生活指導を担当している教官側からすると、レオナルドはその周囲でしょっちゅう問題が起こる、扱いづらいガキである。
「……で、どうすんだ? 合同演習統括教官殿?」
「その呼び方はやめてくれ、イヴァール」
自分を茶化すように呼ぶ彼は、一応協力体制にあるようだ。
「皆で膝を突き合わせて考えるぞ。お前も、新任だからと言って甘やかせないからな、ミアス教官」
「はっ!」
敬礼をするこの後輩は、自分たちの話をどう感じただろうか。
大袈裟だと思ったか、それとも緊張したか。
どちらにせよ、今感じている百倍は大変だぞと心のうちで呟いた。
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次回のタイトルは、「初回授業」です。




