表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/111

105 クラウス語入門 グゥッとスゥッの違い

 コックスは今、困っていた。


 今日の授業は午前で終わり、午後は各自自主訓練だった。

 レオナルドは『貴族学院にレポートを提出してくる』と校外へ向かい、クラウスは一人、ふらふらと校内を歩いていた。


 訓練場が空いていれば身体を動かそうか。

 それとも気ままに走り回ろうか。


 その強面と巨体さえなければ、のんびりと散歩する大型犬のようである。


 なお、レオナルドに「今日の授業は大事なところだから、しっかり復習しておけよ」と言われたことは、すっかり頭から抜け落ちていた。


 コックスは、そんなクラウスを見つけると声をかけた。

「魔術の訓練に付き合ってほしい」と。

 クラウスは一も二もなく「おう」と頷いた。


 彼らは、長距離行軍訓練のときに、「今度、魔術の訓練に付き合う」と約束していた。

 その約束を果たすため、二人並んで訓練場へ向かったのだ。


 ――そして今。

 クラウスの助言を受けたコックスは、非常に困惑していた。

 クラウスが何を言っているのか、まるで分からないからだ。


「あの訓練のとき、俺の魔術をどう思った?」


 コックスも、自分の訊き方がざっくりしていたとは思う。

 だが、この返答は想定外だった。


「コックスは“グゥッ”って魔術を使うなって思った。それもいいけど、もっと“スゥッ”としてもいいんじゃないかって」


「……ん?」


「こう、スゥッとだな」


 クラウスは腕を曲げ、ゆっくりと打撃するように真っ直ぐ伸ばしてみせた。

 その動きには、たしかに“スゥッ”という音がよく似合う。


「クラウス、悪い。どういうことだ?」


 しかし、魔術を教わる身としては、“グゥッ”も“スゥッ”も何を表しているのか、まるで見当も付かない。


「あぁ。えっとだな、コックスは魔術を使うとき、こうやってグゥッとなってた」


 クラウスは腕を折りたたみ拳を握りしめ、力を込めながらゆっくりと突き出した。


「でも、もっとスゥッとした方が疲れないんじゃないかって。それに、その方がシュッとする」


 ……自分はいま、打撃の助言を受けているのだろうか。

 クラウスの動きは魔術というより、武術の指導にしか見えなかった。


 そういえば――と、コックスは思う。

 以前グループ課題で一緒になったときも、クラウスはこんな調子だったかもしれない。


「そこはもっとぐるっとしていいと思う」

「俺はズンズン行った方がいいと思う」


 そんな発言を、いつもレオナルドが深掘りして具体化していた。


 クラウスは、説明が下手なのだろうか――そう気付いたものの、厚意のこもった真っ直ぐな瞳に、「何言ってるか分からん」とは言えなかった。

 クラウスは何度も、コックスに伝えようと腕を折り伸ばしして見せているのだ。


 ――なおレオナルドがコックスの立場であれば、「分かるように話せ」と舌打ちしていた。


 レオナルドは付き合いの長さで慣れただけで、今でもたまに、全く分からないことがある。

 理解できても、擬音語や擬態語の選び方、表現の癖には、毎度首をひねっている。

 そしてそのたびに、「これだから感覚派の天才は」と、才能の理不尽さに苛立つのだ。


 クラウスの才能に惹かれながら、才能に苛立つ。

 その二つを併せ持つレオナルドは、実に面倒な男だった。

登場人物も増えてきましたので、ここまでの内容に基づいた一覧を活動報告にアップしました。

もしよろしければ、ご活用ください。

https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3557717/


次回のタイトルは、「逃げられない善意」です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ