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09 孤独の形

 レオナルドは一度、瞳を閉じた。


 人生で初めて感じた『胸を揺さぶられる感覚』に耐えながらも、冷静に思考を巡らせた。

 クラウディウスと同様に、「コレは管理せねばならない“モノ”だ」と考えた。

『家』や『国』のために、どのように運用できるか、またどのような関係を築くべきかを計算した。


 しかし同時に、彼はクラウスの「才能」に魅せられていた。

 どうしようもなく心が動かされていた。

 それらの激情を無理やりに抑え込み、自らを冷静な状態へと引き戻した。


 思考を動かし、感情を制御して、瞼を開いた。


 ――そこで目に映ったクラウスの背中で、彼は「孤独」の形を知った。

 人生で初めて「孤独」がどんなものか分かった。


 瞼を開いたその瞬間、レオナルドの中で初めて『クラウス』という個人が浮き彫りとなった。

 政治や血統、才能から切り離した『クラウス』個人が見えた。


 レオナルドには、全てから切り離された「ただのクラウス」が見えてしまった。分かってしまった。

 「孤独」が何か知ってしまった。

 クラウスの寂しさに、気付いてしまった。




 出会ってから短い期間ではあったが、レオナルドはクラウスを“観察”していた。

 だからこそ、“知って”いた。


 真っ直ぐすぎること。優しいこと。素直で人が好いこと。人を思いやること。

 あれほど大きな身体をしているにも関わらず、たまに捨てられた子犬のように情けない顔を見せること。


 レオナルドにとっては、笑顔で感情を隠すなどできて当然だった。

 嘘をつかずとも人を騙す術も知っていた。理想の貴公子を装うことができたし、実際貴族らしく優秀だった。

 けれどクラウスは、そんなレオナルドの笑顔に裏があるとは考えず、疑いもせず、恥ずかしげに応えるのだ。

 それを、レオナルドは知っていた。


 レオナルドは、クラウスの才能を目の当たりにし、抗えないほどに焦がれた。

「格の違う生き物だ」と自らとの間に線を引いた。

 故に気付いた。……気付くことが、できた。

 これまで『クラウス・アイゼンハルト』を観察していても見えていなかった――見ようとすらしていなかった『クラウス』という一人の男の輪郭が、初めて見えた。


 そこにいたのは“アイゼンハルト家の出来損ない”でも“化け物”でもない一人の男――いや、『少年』だった。


 困ったような、諦めたような顔で、必死に寂しさを飲み込もうとする、『少年』の姿が見えた。


 圧倒的すぎる才能だったからこそ、いつもの「情けないクラウス」が切り離された。

「想定の範囲内」の才能なら、「情けないクラウス」のみを見ることなどなかった。


 そして、クラウスとのいままでのやりとり、クラウスの在り方、クラウスの表情や反応が脳裏をよぎった。

 自分が関わってきた誰とも違う、真っ直ぐで、感情がすぐ表に出る、他人を、レオナルドを思いやる、優しいクラウスの心が、レオナルドの心に触れた。


 たぶん、心が揺さぶられたからこそ、クラウスの感情に触れてしまった。

 普段のレオナルドなら「ただのクラウス」に触れなどしなかった。"孤独”の苦しさなど考えなかった。


 皮肉にも、誰もがクラウスを"化け物”と認識し、レオナルド自身もそう認識した瞬間に、レオナルドは、"少年"クラウスの心に触れた。


 ――端的に言えば、この瞬間、レオナルドはクラウスに絆されたのだ。

「天才」「化け物」そう言って、切り捨てることなどできないほどに。

今回の話は短めだったので、夜にもう1つ投稿します。

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