00 プロローグ
王国において〈貴族〉とは、単なる特権階級ではない。
かつて、〈貴族〉というのは、〈魔術〉を扱う者に与えられた称号であった。
土地を切り開き、民を魔獣の脅威から守り、導き、歴史を紡ぐ。
その使命を果たすには、〈魔術〉という力が不可欠だった。
魔術の才能が〈血〉によって受け継がれるという事実が、貴族による支配の正当性を裏づけてきた。
だが、建国から数百年の時が流れ、すべての貴族が剣を振るう時代が終焉を迎えると、〈血〉以外に価値を見出す者たちが姿を現した。
これまで通り血統による才を宝とする家、家の歴史を誇る家、資産や政治を重んじる家。
現代の〈貴族〉とは、それぞれに異なる信念と伝統を抱える者たちの集合体である。
これは、始まりの物語。
貴族社会の歪みの中で、寂しがり屋の少年が“友”と出会い、やがて〈英雄〉と呼ばれるまでの長い旅路である。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
次の話から、クラウスという少年の物語が始まります。
第5話「完璧な侯爵令息」までで、主要キャラの価値観や生い立ちが少しずつ見えてきます。
もしよろしければ、そこまで読んでいただけたら嬉しいです。