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目覚会

「ふぅ…ごめんね。傷つけちゃって…」

「あ、いえ、お気になさらす…」

「あ、私は暁 京香(アカツキ キョウカ)。彼と同じ夢師をしてるの。階級は雄花。よろしくね。」

「あ、えっと、よろしくお願いします…」


 渡は差し出された手を握り、握手を交わした。出雲は頭を押さえながら立ち上がる。まだふらふらとしながら、渡の方へと近づく。


「京香、この子はすごいで。橋や。それも、夢の中で自我を保ってる。」

「ねぇ、夢橋ってあの…?」


 京香が出雲へこっそりと何かを呟くと、出雲は軽く頷いた。


「さぁ、行こうか渡君!」


 出雲はそう言って渡の肩を強引につかみ、目覚会の建物の中へと入っていった。


「ここが、目覚会や。なかなかいい建物やろ?」

「…わぁ、綺麗…」


 渡が思わず綺麗だと呟いてしまうほど、目覚会の建物は美しかった。建物全体が朱色や小豆色をベースとしている。ところどころに木製の看板や赤い提灯が吊り下げられている。看板やちょうちんには「依頼受付」、「報告・相談」、「夢具調整・修繕」、「入会・昇級試験」など、色々なことが墨で書かれている。渡はなんだか、お祭りに来たかのような雰囲気を感じた。


「ここが目覚会の本部。ここには全国の夢師たちが集まるわ。地方にも建物はあるけど、入会や昇級の試験を行ってるのはここだけよ。」

「あの…夢師には階級があるんですか?」

「そうよ。一番下から、(シュ)()()(クキ)双葉(フタバ)若葉(ワカバ)雄花(オバナ)雌花(メバナ)(ハナ)(ミノリ)という十の階級があるわ。まぁ、例外として(ツチ)という、幹部の階級があるんだけれどね。」


 夢師たちは階級によって身の丈に合った依頼を受けている。当然、依頼にも難易度があり、最悪の場合、夢師がやられてしまうということも過去に数えきれないほど発生している。


「あの、出雲さんの階級って?」


 渡は興味本位で聞いてみた。出雲は帽子をきちんと被り直し、サングラスを定位置に戻すと自信ありげな顔で答えた。


「俺か?俺はな…『実』や。京香よりも上や!すごいやろ!」

「…不真面目なこいつが私よりも格上なのが腹立つ。」


 京香は拳を握りしめていた。これが正しければ、出雲は夢師のトップクラスの実力を持っていることとなる。渡は出雲への不信感を隠しきれず、思わず顔に出てしまっていた。


「なんや、その顔。さては信じてないな?」

「…はい。」

「まぁ、渡君がそういうのも無理ないわね。こいつ、本当に仕事しないもの。あんた、不真面目だから信用されないのよ。もうちょっとしっかりとしたらどう?」


 そんな話をしていると、渡たちは【入会・昇格試験】という窓口へと到着した。出雲が前に立ち、受付の女性と目が合う。赤っぽい内装に女性の白髪が目立っている。受付の女性は目を丸くして一言呟いた。


「…珍しい、サボり魔がきた。」

「やかましいわ。このやり取りもうしてんねん。あ、この子、入会希望ね。」


 渡の肩をたたきながら出雲はそう告げた。渡は焦って直ぐに訂正した。


「あ、あの、入会じゃないです。えっと…お試し…みたいな?」

「…隼人。誘拐はだめだよ。いくら人が少ないとはいえさ、こんな歳の子連れてくるのは…ね。」

「誘拐なんかしとらんわ!こいつには才能があるんや。」


 受付の女性はとても疑わしそうな目で渡と出雲を見る。出雲は渡の凄さをまたもや語りだした。


「渡はな、いずれは俺を超える逸材や!!ここで入会させないと、間違いなく目覚会の損失になるで!!」

「...自意識過剰。隼人がすごいことは認めるけど、隼人以上に実力のある夢師はまだいる。はい、これ試験の用紙ね。教官は私がやるから。おいで、渡...君?」


 渡は少し困惑したが、出雲に肩を押されて女性の後を付いていく。


「あの...用紙、出雲さんが持ったままなんですけど。」

「あー。あれは後で書いてもらうからいいよ。私は岩巻 氷華(イワマキ ヒョウカ)出雲の被害者。」

「...被害者?」

「あいつがサボった分私にしわ寄せかくる。本当に迷惑。」


 出雲がサボると目覚会は業務の一部が滞ってしまう。夢師の中で実力者である出雲が仕事をしなくなると、必然的に他の人へと依頼が回される。実際、氷華や京香だけでなく、他の人にも迷惑がかかっている。


「大変なんですね...」

「そう。君もアイツには関わらない方がいいよ。仕事押し付けられるから。はい。この部屋入るよ。」


 氷華はある部屋の扉を開けた。部屋には椅子と机があるだけであった。椅子は複数あり、面接会場のようであった。


「んー、そこ座って。今から面接するから。」

「は、はい。失礼します。」


 渡が席につき、氷華も席についた。氷華はペンと紙を用意し、質問を始めた。


「んー、志望動機は」

「出雲さんに勧誘されてきました。」

「夢についてはどこまで理解してる?」

「まだ何も...」

「あ、いいね。中途半端に知ってるよりかは何も知らない方がいい。ところで上の名前は?聞き忘れた。」

「夢橋です。」


 渡が夢橋と答えた途端、氷華のペンが止まり、渡の目をじっと見つめた。


「…マジか」

「…?はい。あの、俺の名前って何か変ですかね…皆さん全員同じ反応するんですよ。」

「え?君、自分の家がなんなのか知らないの?」


 氷華は渡が家のことを知らないことに驚いた様子であった。確かに、夢橋という苗字は自分しか聞いた事のない渡であったが、ここまで言われたことは無かった。


「うーん、これ、言わない方がいいのかな…私じゃ判断できないからパスで。それから、採用で。試験は免除。私が許可する。」

「……え?は?」


 渡は突然の出来事に動揺した。名前を名乗っただけで面接に合格し、試験が免除になったためである。試験というのだからなにか難しいものかと思っていた渡であったが、こんなにもあっさりと終わってしまった。


「階級は一番下の種から。それから一定の研修期間を設ける。指導者は追って伝える。はい。これ合格書。これ持って隼人のところに行って。」


 氷華は合格書を渡すと、半ば強引に渡を部屋の外へと出した。渡はあたふたしながらも、出雲の元へと戻った。


「……おぉ!!どうやった?」

「合格……だそうです。これ受け取りました……」


 出雲は渡の顔を見るなり満面の笑みで出迎えた。渡はそのまま出雲へ合格書を渡した。


「オーケーオーケー。今日はこれでおしまい。送ってくから車で待っとき。ほら、鍵。」


 渡は出雲から鍵を受けとり、そのまま駐車場へと向かった。京香は渡が居なくなったことを確認すると出雲へ話しかけた。


「ねぇ。初日で合格ってありえないでしょ。それに、言ってから十分も経ってない。試験なんてやってないでしょ。」

「……そうやな。まぁ、氷華がなんでそんなことをしたのかはわかるやろ?」

「……上層部にはなんて説明するのよ。夢橋の生き残りがいた、なんて。」

「……めんどい。俺は帰る。んじゃ。」

「あっ、ちょっと!」


 出雲はそのまま手を振って去ってしまった。出雲は渡が待つ車へと乗り込み渡を家まで送り届けた。道中、渡が酷く困惑していたことを、出雲は笑っていた。

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