おかしな奴ら
「大体、俺に人を救うことなんて……そんな大役、俺には無理です。」
「…光星君を侵食してた黒いアレ、光星君の【悪夢】なんだ。」
「……?」
「光星君が起きなくなった理由は、簡単に言うと悪夢が原因。現実を見ることが嫌になって、夢に籠るようになった。その結果、光星君の夢は悪夢に侵食されるようになっていった。悪夢に侵食されるとね……死ぬんだよ、人間は。」
「……は?死ぬ……?」
渡は驚きを隠せなかった。あの状況で光星が死んでしまうとは思えなかったからだ。しかし、出雲の表情は真剣そのもので、嘘を言っている様子は全くなかった。出雲は真剣な真剣な顔付きのまま続ける。
「悪夢はね、人間の精神を少しづつ食べていく。完全に食べられたら人間の肉体の主導権が奪われる。最悪、二度と戻らなくなる。そうなると、どうなると思う?」
「……中の人が入れ替わる?」
「そう。悪夢の目的はね、仲間を増やすことなんだ。その目的を達成するならどんなことでもする。周りの他の人を絶望にたたき落として、また新たな悪夢を植え付ける。そうなると、この世は悪夢が支配する世界になってしまう。俺たち夢師は、それを食い止める為にいる。君には、人を救える才能がある。だから、夢師になって欲しい。」
渡は真剣に考えた。自分には才能があり、人を救える素質があるのだと。しかし、そんな度胸や自信はない。ただの高校生にそんなことは出来ないと思っている。だが、人を救えるのなら救う。困っている人がいたら助けるのが当たり前だからだ。渡が悩んだ末、決心した。
「……分かりました。少しだけなら……」
そう言った瞬間、出雲の表情が明るくなり、口調も元に戻った。
「よし!なら明日直ぐに手続きしにいくで!俺が一人前になれるようにしっかり鍛えたる!」
「いや、少しだけですから、まだなるって決めた訳じゃ...」
◇◇◇
翌日、学校は休みである。渡は出雲の運転する車に乗っていた。行先は出雲の所属先である【目覚会】である。目覚会とは、夢師をまとめる組織である。出雲は夢師の中でも屈指の実力者でらしい。しかし、出雲自身の言うことであるため、渡は半信半疑であった。
「あの………もうすぐ着きます?」
渡は少し心配であった。かれこれもう一時間は車に乗っている。大体、あって数日程度の男の車に乗ること自体が危ないことに足を踏み入れているのである。渡はそういうこともあり、そわそわとした様子で窓の外を見ている。建物がだんだんと少なくなり、植物が多くなってきた。
「んー?ほら、あそこ。あの建物や。」
出雲が指をさした先にはとてつもなく巨大な建物が建っていた。和風の建物で、旅館というよりかはホテルのようである。しかし、和風なため、ホテルといっていいのか、旅館というべきかはわからない。
「ここはな、夢師たちが寝泊まりすることもできるし、依頼を受けることもできるんや。いわば、アニメや漫画で言う、ギルドと宿屋が混ざったような場所や。」
出雲は駐車場に車を止めた。駐車場に車はそこまで多くはなかった。二人が車から降りると突然、下駄で走る音が建物の方から聞こえてくる。そして、その音は次第に近づいてくる。やがて入り口から一人の女が出てきた。赤髪で、すごい剣幕である。
「出雲隼人ォォォ!!!テメェ今までどこに行ってやがった!!!!!」
「あー、うん。やばいわ。帰ろ。」
出雲が再び車に乗り込もうとすると、女は出雲の服をつかみ、駐車場に出雲を投げ飛ばした。
「いっっっった!!!酷くない!?俺仕事してきたんだよ!!ちゃんと!!珍しく!!」
「その仕事にどれだけ時間かけてんだよ!!一日で終わる仕事がなんで二日もかかってるんだよ!!」
「もう怖いこのおばさん…」
「お姉さん、な?まだ二十代だわ!!」
再び女が出雲につかみかかると、出雲は慌てた様子で渡を指さした。
「ま、まぁまぁ落ち着いて!!ほら!!そこに将来有望な人材連れてきたから!橋だよ、橋!!」
「…あ?」
女は鬼の形相のまま渡を見た。渡は恐怖のあまりカタコトのまま挨拶をした。
「はじっ、はじめまして…夢橋 渡です…」
「…!!夢橋って…」
女は出雲を離し、渡に顔を近づけた。そして、渡の全身を見回している。
「えっと…あの?」
「…あんた、親は?」
「親はいませんけど…」
「えっ…あ、ごめん…」
渡と女がお互いに気まずくなると、出雲が女に指をさしながら笑った。
「やーいやーい、傷つけた、傷つけたー!!」
女は今度はこぶしを固く握り、出雲の顔面を思いきり殴った。出雲は宙を舞い、頭から地面へと落ちた。