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夢師

 全ての人が見た事があるであろう、夢。楽しみ、妄想、非現実、幻、現実逃避、逃げ場所など、人によって捉え方は様々だろう。だが、その夢に長く居座ってはいけない。夢は終わりがあるからこそ、意味があるのだ。


 ◇◇◇


「あー、あちー。なんでこうも暑いかなぁ。」

「そう?そんなに暑いかな……夏ってだいたいこんなもんじゃない?」


 時期は六月である。汗を拭きながら歩いている青年は神崎大輝(かんざき だいき)。そして、その隣を歩いている青年は夢橋 渡(ゆめばし わたる)である。二人とも春に高校生になったばかりだ。


 二人は幻魔高校(げんま こうこう)という県立の高校に通っている。学校名が少々変わってはいるが、普通科の学校である。


 二人は学校へ登校している最中である。もう学校へ行く道順は完璧に覚えられている。


「……あ、ちょっと、そこの兄ちゃん達?」


 突然後ろから呼び止められ、二人は声の方向を見た。そこには丸いサングラスを掛け、夏なのに長袖の服を着た男が立っていた。


「俺たちですか?」

「そうそう。知ってたら教えて欲しいんだけどさ、この辺りに山本さんという家はある?高校生の息子が居るんだけど。幻魔……高校だったかな。」


 男は山本という家を探していた。山本という男はクラスメイトの山本光星(やまもと こうせい)である。山本は内気なタイプで、基本的には無口な男であった。しかし、彼は一ヶ月前から学校を休み続けている。理由は知らされてはいなかった。


「あぁ、山本の家なら少し先の交差点を曲がって、それから右に進むと……」


 大輝は男に道筋を説明していた。渡は男の服装をちらりと見た。なんというか、和服ではないような独特な服を着ている。洋風ということは絶対無い。そして、草鞋のようなものを履いている。和服のようなものにサングラスと草鞋という変な服装を見て、渡は顔を顰めた。


「おぉ、そこかぁ。一つ通りを間違えてたわ。ありがとな、兄ちゃん。そいじゃ。」


 そういって男は駆け足で去っていった。動きづらいのか、時々転びそうになっていた。


「変な人だなぁ。あれ、山本の親戚かなにかか?」

「まさか。あんな人が親戚だったら怖いよ。」


 大輝と渡はお互いに笑った。それからいつも通り、学校へと向かった。


 ◇◇◇


 学校が終わり、下校時刻となった。多くの生徒が部活動に励む中、渡は校門を出た。渡はどこの部活動にも所属していない。帰宅部というものである。大輝は運動部に所属しているため、帰りはいつも一人であった。


 渡は担任の先生から光星の家に配布物を届けることをお願いされた。光星の家はここからすぐ近くだ。


「光星……どうしたのかな。」


 渡は光星のことが心配であった。風邪にしては長すぎる。なにか重い病気にかかったのか。それとも、家庭の事情で来られなくなってしまったのか。そんなことを考えながら歩いた。


 それから、渡は光星の家へと到着した。扉の前を見ると、今朝会った男が立っていた。


「……ん、あれ、今朝の兄ちゃんか?」


 男は渡に気づいた様子である。渡は男を警戒しながら光星の家へと近づいた。


「はい。あなたはこんな所で一体何をしているんですか?」

「ん?あぁ、今回の仕事でなぁ。ここの山本さんから依頼されたんよ。」

「依頼?」

「うん。依頼。」


 男はそう言うと、玄関のチャイムを鳴らした。家からは光星の母が姿を現した。


「あぁ、出雲さん。待っていました。」

「えぇ、息子さんの様子は?先程と変わっていませんか?」

「はい……おや、そちらの子は?」


 光星の母は渡西線を向けた。


「あ、初めまして。光星君のクラスメイトです。」


 光星の母はそれを聞くと、出雲と呼んだ男と渡を家へと上げた。客間に通され、出雲にはお茶、渡にはジュースが出された。それから光星の母は少し席を外した。


「なんや、兄ちゃんクラスメイトだったんか。」

「……関西の方ですか?」

「いや?俺の日本語がおかしいだけ、かな。俺は生まれも育ちも関東だ。」


 男はそう言った。エセ関西弁、というのだろうか。この出雲という男は関西人では無いらしい。不意に、渡は光星のことについて聞いてみることにした。


「あの……光星はどうなってるんです?」

「あぁ、ここの子か。そうだな……眠り続けてる、としか言えんな。」

「眠り続けてる?」


 思わず、渡は聞き返した。光星の容態は想像よりも悪いらしい。渡はこの時、出雲が医者であると勘違いをしてしまっていた。


「どういう病気なんですか、光星は。」

「病気?違う違う。ただ眠っているだけ。体はどこも悪くない。」

「……え?じゃあ、何で……」


 渡がさらに聞き返そうとしたが、光星の母が戻ってきた。


「あぁ、お母さん。申し訳ないんですけど、起こしに行ってる間は部屋に入らないで貰えませんか。万が一、()()に逃げられたら困りますのでね。」

「はい。承知しました。息子を、どうかよろしくお願いします。」


 光星の母は深々と出雲に頭を下げた。それから出雲は二階へと上がって行った。二階には、光星の部屋がある。


 渡は興味本位で出雲の後をこっそりと付けていった。出雲は光星の部屋に入るなり、正座をした。それから五分ほどすると、出雲はゆっくりと目を閉じた。


 渡はこっそりと部屋に入り、出雲の顔を見た。出雲はなんと、眠っていたのだ。光星の方を見ても、眠っているだけであった。


「……な、なにをしてるんだ?」


 渡が光星の顔に触れると、たちまち強烈な眠気が渡を襲い、渡はその場に倒れ込んでしまった。


 ◇◇◇


「……あれ!?なんで兄ちゃんがここにいるん!?」


 渡は出雲の声を聞くと、目を開けた。辺りを見回すと、そこは空の上であった。空の上には島があり、渡はその島にいた。前方には長い石段と鳥居がある。青空の上に浮く島と鳥居は、なんとも神秘的で、美しい光景であった。


「ここは……え?さっきまで光星の家にいたんじゃ……」

「兄ちゃん……あんた、【橋】だったんか!」

「橋……?てか、貴方医者じゃないんですか?」


 渡がそう訪ねると、男は首を横に振って言った。


「違う。俺の名は出雲隼人(いずも はやと)。【夢師】だ。」

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