とりあえずファンブック読め
お久しぶりですね
ラビールのおでこには三日月の形をした痣があった。
「これは…森に住むお婆さんが教えてくれたんだけどね。僕には不思議な力があるんだって」
「?」
聞いたことがない話だった。物語にはそんな設定なかった。見落としたか?いや、そんなことない。だってファンブックも読んだし、推しじゃなくたって物語には少なからず絡んでくるから知っててもおかしくないし…。
「『命を奪う力』、つまり生命を殺す力を持っているんだ」
(うわー、チートじゃん)
「でも僕自身に自覚はないし、その力の代償があるのか、あるとしたらどんな代償があるかすらも分からないんだ。使い方だってあやふやなんだ」
「…じゃあ、魔王を倒したときには使わなかったってこと?」
ラビールが少しの間を置いて、首を横に振った。
「使った。いや、使うしかなかったと言うべきかな。そうじゃないと、僕達は魔王を倒せなかった。それぐらい魔王は強かったんだ。傷一つつけられないほど」
(物語とズレてる…?それとも、これは物語と何も関係のない世界ということか?でも、物語では)
「兄貴は」
「ん?“兄貴”じゃないよね?ね?あっ、別に怒ってるわけじゃないよ。うん。ただ、ちょっとね」
(うわ。目が笑ってないよ。これ殺されるやつじゃん)
「…じゃなくて、お兄ちゃんは剣で魔王の腕を切り落としたんじゃ」
物語ではラビールが魔王の右腕を切り落とすが、背後に迫った魔王の配下に気づかず、それに気がついたサリューサが庇って死ぬ。で、助かったラビールは他の仲間と共に右足を切り落として、そのまま魔王の心臓を剣で突いて殺す。って感じだ。読んだ感じは魔王はそこまで強そうではなかったはずだけど。
「よく知ってるね。誰に聞いたか知らないけど、確かに僕はあの時魔王の右腕を切り落とした。だけど、瞬きする間に魔王の右腕は元に戻っていた」
「え?」
物語ではそんな描写なかった。
「そのあとは、サリューサが僕を庇って亡くなった。僕なんかの為に死ぬべきじゃなかったのに」
ラビールは拳を握りしめていた。
「………」
サリューサは王都でも名高い大聖女だった。太陽の光を集めたかのような光り輝く金髪に、空のように透き通った青色の瞳、そして彼女の慈愛が人々を虜にした。ラビールの仲間の最初の一人でもある。
「僕がサリューサを殺したんだ。僕が、」
(……………だんだん苛ついてくるんでやめてもらってもいいですかね?こちとら今日転生してきて疲れてるところに、弱音吐かないでくれませんかね?そもそもサリューサちゃんの死を自分のせいとか言わないでいただきたいんですけど。いやまあラビールのせいだけれどもっ。サリューサちゃんが自ら決断したことにクヨクヨしないでくれよ。というか、サリューサちゃんの辛い過去が載ってるファンブック読んで。絶対泣けるから!そして、そんなこと言えなくなっちゃうから!)
思わず心の中で文句を並べていると、すっとラビールが顔を上げた。
「明日…、明日サリューサのお墓に行こうと思う。エバエルも来るかい?」
「うん」
(墓参り、か…)
「暗い雰囲気になっちゃったね。もう遅いし寝ようか」
そう言ってラビールは仕切りの向こう側へと戻っていった。
「隠し事の多いお兄ちゃんでごめんね。おやすみ、エバエル。いい夢を」
去り際、ラビールはそういった。それは、弟への罪ぼろしなのか。あるいは自分への言い訳なのか。




