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作戦会議④

 そんな空気に耐えきれなくなったように、コギルが呻くように言葉を吐き出す。


「でもよ、それなら直接ペトロさんに聞いてみればいいんじゃねえか?」


「それは僕も考えた。けれど、話してくれない可能性が高い」


 そうなのだ。父は不自然なくらいに過去の話をしない。

 母の事すら話してもらえない。聞いても「いつかその時が来たらな」と言って口を閉ざしてしまうのである。

 ヨハンもシモンも、自分達は仲のいい親子だと思っている。けれど、そこには大きな秘密が隠されていて、探ろうとすると関係が壊れてしまいそうで、恐ろしかった。

 そんな思いが舌に乗り、言葉に詰まったヨハンに替わって、シモンが口を開いた。


「お父様は、自分の過去を全く話さないし、聞いても答えてくれない。それを話す事をとても嫌がってる感じがするんだよね。つまり、私たちに何か隠していて、でも、多分お兄様の予測では私達を守る為に何かを隠してる。あ、ちなみにこれには私も同意見、リリィを見て確信した」


「リリィを見て?」


 不思議そうに首を傾げるベズィーに、シモンは身を乗り出して答える。


「だって! 私達が家を出る前まではあんなに魔力はなかった! せいぜい雑用をなんとかこなせるくらいの存在だったのに、あれじゃあ戦闘特化の魔物だよ! それにさ、あの鎧、あんなの前は装備してなかった。それらを含めて『よくわからないが、目覚めたらこうなっていた』って説明だけなんておかしすぎる。何かを隠してるのは絶対なんだけど、気になる事が多すぎて推測も難しいんだよね」


 眉間に皺を寄せるシモンに目くばせをし、ヨハンは言葉の続きを担う。


「うん、おかしいんだ。どうしてそんな雑な嘘をつくのか。でも、これはサインではないかと疑ってる。シモンと色々話した結果なんだけど、多分、父上は僕達に『真実を見つけろ』とサインを送ってくれている気がするんだ。それは父上に直接聞くのではなく、自分達で」


 その言葉に、コギルはシモンと同じように眉間に皺を寄せて訊いてくる。


「なんでそんなややこしい事するんだ?」


「多分それを話すのはなんらかの制約があるか、もしくはその真実を知ると危険なのだと思う。だからこそ、旅をした上で選べと言ってくれているんだと思う。真実ではなく、自分の人生を生きるのも良し。そうではなく真実を求めるのであれば、自分を守れるくらいの力を付けて臨め、と」


 眉間に皺を寄せて訊いていたコギルが、何かに思い至り、呆気にとられた顔となった。


「まさか、それでペトロさんは真実に近づいたときの為にお前たちに英才教育を続けて、逆に自分の人生を生きるとなった時に生きていける様に村に送り込んで普通の生活をさせて、準備が整うのを待っていたって事か? 頑なに15歳になるまで旅に出るなって言ってたんだったよな? それもそういう?」


「うん、最後は旅の中で応えを出せっていう事だと僕は理解してる。だけど、もう答えは決まってるんだ。僕とシモンは真実を知りたい。……予感がするんだ。これは世界の大きな謎に迫るものなんじゃないかって。僕達が当たり前に考えていた常識が、なにかとんでもない勘違いの上に敷かれていて、僕達はそれを認識すらせずに生きている、そんな気がするんだ」


「なんだよ、その勘違いって」


 コギルの質問に、シモンは焦れたように答える。


「それがわからないから私とお兄様は旅で確認するって言ってんじゃん」


「……僕は、ずっと疑問に思っていたんだ」


 それは、まさに独白だった。足元を見つめ、人知れず暗い目となるヨハンは、ぽつりぽつりと言葉を零す。


「なぜ、父はあんなにも実力があって、あんなにも知識があったのに、世間から消えるようにこの村に追いやられたのか。なぜ、母は死んだのか。その死因を誰も、父すらも教えてくれないのは何故か。そもそも、母の名前すら教えてくれないのは何故なのか」


 ヨハンは今まで『いい子』になろうと心がけていた。それは父、ペトロにとって都合のいい愛玩動物のそれでも構わないとさえ思っていた。

 それくらいに父の事を尊敬し、慕っていた。

 それはきっとシモンも同じだったろう。

 けれど、あの時に決定的にそれが崩れてしまった。


 父は、自分達ではなくリリィを選んだのだ。

 それは悲しさや悔しさという感情では説明できない何かを生んだのだ。

 いうなれば、憎しみに近いだろうか。

 信じていたものに裏切られたような。


 もし父が、人生を捨てて傍にいてくれと言ってくれたなら、ヨハンもシモンも喜んで自分の人生など捨てただろう。

 でも、そうならなかった。その場所にはリリィが居た。


 ヨハンもシモンも気づいている。リリィは父を「家族」だと認識している。

 だからこそ、家族として扱われなかった時に拗ねるような態度を取ったりする。

 彼女は言葉を話さないが、その分態度は雄弁に語っているのである。

 あの分かり易い態度に何も感じ取れないとすれば、それは鈍感という枠を超えて、生活に支障が出るレベルではないかと疑うくらいだ。

 だから、きっと父も気づいていて、何か思惑があってヨハン達の前ではリリィを家族扱いしないのだろう。


 人知れずにぎり締めていた手が、白くなっている。

 ヨハンは意識して息を吐き、ゆっくりと手の力を抜いた。


 心の中で隙間風が吹いているような感覚。それは何かで早く塞がなくてはならないと急かされるような、そんな感覚を心に秘めながらヨハンは答えを出したのだ。


 それでも、父が望んだ道を進むと。

 だから。


「僕は、父を世界から隔離するように働きかける者達が居ると思ってる。もしかすると、その存在が母の死に関与しているかもしれない。まずはその存在を探し出す。その為に勇者でも王族でもなんでも利用する。そう決めたんだ」


 その言葉には重さがあった。だからこそ、全員が一度息を飲む。

 その沈黙を破ったのは、トーアーサだった。


「見つけて、どうする?」


 ヨハンが答えようと口を開くよりも前に、シモンが言葉を発していた。


「必要なら潰すし、皆殺しにだってする。といっても、本当にどんな存在か今はわからないから、どうするのか明言はできないかな。見つけてどうするか決めるまではお兄様の仕事、もし、そこから暴力が必要ならそれは私の仕事──」


「駄目だ」


 シモンの言葉をヨハンは遮った。

 これだけは譲れなかった。もし暴力に訴える必要があるなら、自分も一緒に行動すべきだと思っているし、本当は妹にそんな事をして欲しくない。

 だから、父と敵対する存在を見つけた後の対処は、現時点では保留にしたいと思っている。


 その気持ちを汲んだのか、シモンはため息を付いて続けた。


「ま、今はまだ何も情報が無いから、情報が出てから判断って事で」


 そこに、コギルがヨハンの目を真っすぐに見て言う。


「あのさ。俺は別になにがなんでも勇者一行についていきたいって考えてるわけじゃない。お前たちの船に……お前たちの進む道に、一緒に進もうって決めてここにいるんだ。だから、最初から逃げ道みたいなもんを用意してくれなくていい。俺も世界の謎? だかなんだか知らないけど、それを一緒に探させてくれ」


 続いてベズィーも口を開いた。


「私も難しい事はわからないけど、勇者とか実はあんまり興味なくてさ。ヨハンくんと一緒に旅して、それで色んな魔物や動物に出会えればいいかなあって感じ」


 ポルルは少し困った顔をした。


「僕は勇者一行にコンタクトは取りたい、です。あ、いえ! 加わらなくてもいいんですけど、でも、精霊の情報とか、色んな天才がいる勇者一行なら何か知ってるかなって……」


 最後はトーアーサだった。

 彼女は、何かを試すようにヨハンとシモンに一瞥をし、口を開く。


「私の目的は両親を探す事。勇者一行は口実。でも、両親は過去に勇者一行の従軍調理師をしたことがある。その時にヨハンとシモンのお父さんの噂も聞いた事がある」


 ヨハンとシモンの目に光が走る。


「ペトロさんは、最弱の騎士と呼ばれていた」

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