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作戦会議③

「どういう事?」


 それまで黙っていたトーアーサが疑問を口にする。

 ポルルは静観を選んだのだろう、様子を見る様に視線を左右に動かすに留めていた。

 ヨハンは深く目を瞑り、言葉を染み渡らせるように口から出した。


「勿論、僕とシモンも世界の平和を守る助けとなるなら、魔王を倒したい。それに父上がかつて勇者一行に加わり、魔王討伐に尽力していたからこそ、その意思を継ぎたいと考えていたんだ」


 そこでヨハンは目をゆっくりと開き、独白する様に言葉を続ける。


「けれど、疑問が生まれてしまった。今までは父上の歩いてきた道のその先を切り開くんだという思いだったんだけど、もしかすると、僕は大きな勘違いをしているかもしれない」


 皆ヨハンの独白に近いそれを、真剣に聞いていた。

 それはそうだ、これは人生を左右する大きな分かれ道だ。

 だからこそヨハンは何も隠すことなく、自分の今現状の疑問を吐き出した。


「父上は、本当は何を成そうとしていたんだろう。そもそも魔王や魔族はどういう存在なのだろう。条約で和平を結ぶという話ではなく、倒さなくてはならないのは何故だろう。そして父上は……」


 まるでその先を言葉にするのが怖いというようにそこで言葉を切ったヨハン。

 いや、事実怖かった。今まで絶対の信頼を寄せていた存在を疑う事。自分が何を暴こうとしているのか全体像が見えない事。それらの恐怖がざわざわと頭皮の毛根一つ一つを逆立てていく感覚。

 しかし、ヨハンはそれでもその恐怖を言葉にした。


「父上は、ペトロ・トリスメギストスとは、一体何者なのか」


 一瞬の静寂、その静寂を破ったのは今まで発現しなかったポルルだった。


「以前言っていた、テンセイシャという話ですか?」


 頷くヨハンとシモンに、コギルが質問を口にした。


「それってあれか? 別の世界から来たって話か? 天に生きる者だっけ。つまり元々は天界って所に居て、神様みたいな存在だったって話だったかな」


 これに答えたのはシモンだ。


「神だったかどうかはわかんないし、どういう存在だったかはわかんない。けど少なくとも、私達とは異なる文化を持った種族だったんじゃないかなっていうのが、今のところの推測」


 その言葉に一同は難しい顔になる。

 腕を組み、うんうんと唸りながらコギルは疑問を口にした。


「でもなぁ。確かにすげえ人なんだなっていうのは今日思い知ったけど、人間じゃないとか別の世界から来たって言われてもな……」


 そこでヨハンは、テーブルに用意していた菓子を二つ手にし、皆に見せるようにする。

 どちらも一見すると一粒の苺だが、左手に持っている方はしなびた様な形をしており、右手の方は丸々とした苺のように見える。


「これ、どちらも苺を乾燥させたものなんだ。一度みんなで食べ比べてもらえないかな。まずは僕が左手に持っている形の苺を食べてみて欲しい」


 言われて一同は、疑問符を浮かべながらも言われた通りに乾燥苺を手に取った。

 アブセンスではあまり見かけない調理方法だった為、不思議な顔をしながらも皆苺を口に入れる。


「あ、美味しい!」


 ベズィーが顔に華を咲かせると、次々に華が咲き乱れる。


「うめえ! 乾燥して食える物って肉だけだと思ってた!」


 コギルのその言葉を裏付けるように、トーアーサが補足する。


「うん。私の両親は料理に詳しい。けど、果物を乾燥させるのは聞いた事がない。面白い」


 ポルルも笑顔で頷いている。

 十分に全員が味や触感を堪能した事を確認し、ヨハンは口を開いた。


「それは、魔法の温風に晒して十分に乾燥させたものなんだ。乾燥肉もそうだけど、形が乾燥する前に比べて萎びて見えるよね。どうしても温風で乾燥するとそうなってしまうんだけど、もう一方を食べてみて欲しい」


 全員が言われるままにもう一方の苺を手にする。

 まず口を開いたのがトーアーサだった。


「なにこれ、軽くて硬い。でも見た目はちゃんと苺」


 次いで、真っ先に口に入れたコギルが驚いたように声を上げた。


「サックサクじゃねえか! それでいてちゃんと酸味があって苺を食べてるって感じがする!」


 料理人を両親に持つトーアーサも、その苺を口にしたあと、唸る様に言う。


「これは……さっきの苺は少ししっとりしていて、硬い部分もあって、乾燥させたって感じがした。けどこれは、苺を乾燥させたものとは思えない。何か別の物のようでいて、確かに苺の味がする」


 その後も、全員が各々感想を述べ、落ち着いた所でヨハンが説明する。


「これは、父上とリリィがフリーズドライという魔法で作ったらしいんだ。製法は、凍らせてから気圧を下げると、水分が抜けるという現象を利用したらしい。僕も理解はしてないけど、詳しくは凍結させた苺を容器に入れ、気圧を下げていくと『昇華』という現象が起こるらしい。それは凍ったまま蒸発するという現象らしいんだけど、これによって苺から水分がなくなり、サクサクとした苺が出来上がる。面白いのは、お湯でまた元通りの苺に戻るらしいんだよね」


 理解が難しい、皆そんな顔をしている。

 そこにシモンが言葉を上から被せる様に続けた。


「こんな魔法理論、私達人類がどうやって発明するの? 着眼点が根本から違う。だから、異なる文化の中で生活していたとしか考えられない」


 シモンの解説に、ヨハンは更に続いた。


「色んな本で調べた結果、魔法とは元々『人間にはなしえない事』という意味らしい。そんな言葉自体が不自然だと僕は思うんだ。どこか異世界から来た存在が、この世界では不可能だと思われていた技術を見せたから生まれた。そして僕達はそこから学び、魔法を使えるまでになってきた。けれど、それはまだ付け焼刃で、原理がわかっていない。そんな気がする」


 だんだんと重くなっていく空気。

 元々は勇者一行に加わる加わらないの話だったのだが、いつの間にかペトロ・トリスメギストスという存在の謎についてどんどん深みにはまっていくような、そんな空気だった。

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